中国人船長釈放/政治介入があったことを政府側国会答弁が示唆している(1)

2010-10-17 17:00:07 | Weblog

 10月7日の衆議院本会議での代表質問で社民党の重野安正議員の質問に答えて菅首相が「所信表明演説は実は大風呂敷を広げたんですよ」と言ったことを自民党の石原伸晃幹事長が10月12日衆院予算委員会で菅首相への質問の中で取り上げ、菅首相が開き直って正当化した矛盾したこじつけを何日か前のブログに書いたが、石原伸晃は同日の続きの質疑で尖閣沖中国漁船衝突事件での中国人船長の釈放に政治介入があったかどうかを問い質している。菅首相、仙谷官房長官、柳田法務大臣等の政府側答弁を聞くと、政治介入なしとしていることにどうしても矛盾を感じる。

 質疑答弁の要所要所を取り上げて、私なりに感じた矛盾点を指摘してみる。 

 勿論、私なりの政治介入があったとする結論は状況証拠に過ぎないが、先ず第一番に疑わしいとする矛盾点は政府側は一切領海侵犯事件であることを前提とした答弁を行わず、終始一貫して一般的な刑事事件扱いとしているところにあるが、そこに逆の意識としての政治色の排除意思を感じ取ることができる。

 この刑事事件扱いは石原伸晃の質問に対して総理が答弁した後、石原が椅子に座ったまま、「聞いていないよ」と制止したにも関わらず立ち上がって答弁した仙谷官房長官の発言に早くも現れている。

 先ず最初に石原伸晃は「存在しない固有の領土である領土問題を国際社会に宣伝させてしまう」外交史上に於ける大失態を政府はやらかした。ビデオの公開についても9月30日の閉会審査の理事会で政府にビデオ公開を迅速に求める与野党合意を行ったが、政府は応じないで問題を先送りしている。菅首相は重大な問題であるにも関わらず、本当にビデオを見ていないのかと追及。

 菅首相は色々な報告を聞いて判断して、関係者と相談すれば十分に対応できる趣旨の答弁をして、ビデオを見ていないことの正当性を、初めてではないこれまでも何度となく言ってきたことを繰返して石原伸晃の質問の答とした。たいして役に立つ質問に思えなかったが、要求されもしないのに割り込んで答弁に立った仙谷官房長官が石原にとっては領海侵犯事案を刑事事案だとする意図しない手がかりを提供したはずだが、石原はやり過ごしてしまった。

 石原伸晃(椅子に座ったまま)「聞いていないよ」

 仙谷「石原委員にしても、それからその種の議論をされるみなさん方もご理解いただきたいし、お考えいただきたいのはですね、総理がビデオを見ないのはけしからんと言う議論を延々と、堂々とされる方がいます。ただ一般論として、刑事事件の証拠を最高権力者である者がこの証拠を見たいから持って来いと、いうふうなことが刑事司法手続きの中で行われていいのかどうかということでございます。

 つまり原則としては、原則としては(ヤジのため一段と声を強める)、そういうことはあってはならないたわけであります。従って事件手続きを始めるかどうかの判断のところはまさに事務当局と、あるいは政治が絡まなければならないところについては、報告を受けると、その資料として、私共が例えばビデオを見るということがあるといたしましても、判断の主体はあくまでも刑事司法の担当者でなくて、なければならないというのが私の考え方であります。

 で、そのときに総理大臣に一々お見せする場合なのか。あるいは総理大臣がそれを以て故意と、つまり捜査に口ばしを入れる、ことは果していいのかどうなのかというのは、みなさん方にはこれは司法の独立、あるいは刑事手法のあり方として、よーくお考えいただきたいと思います」

 石原は総理に質問したのであって、自分の質問時間に官房長官の意見表明をするのは委員会の運営上間違っているから、その点をご判断してもらいたいと委員長に申し出て終わりにしている。

 領海侵犯をして日本の巡視船に2度も体当たりしてきて、逮捕に至ったという経緯の上に中国も領有権を主張している海域で発生した事件であり、当然中国側からの何らかの対応が予測される出来事を果して「一般論」で扱う問題だろうか。あるいは単なる「刑事事件」として扱うことができる事案で済ますことができるのだろうか。

 最初から外交問題として扱わなければならなかった事案であったはずだ。事実外交問題として扱ったから、官邸その他で関係者が雁首を揃えた。

 また仙谷官房長官は「私共が例えばビデオを見るということがあるといたしましても、判断の主体はあくまでも刑事司法の担当者でなくて、なければならない」と言っているが、領有権を主張している中国がどう出るかでないかを判断しなければならない外交案件である以上、判断の主体を刑事司法の担当者に置くと言うのは無理がある。

 結論は公務執行妨害罪とする一般の刑事事件としたとしても、いくら日本側が「尖閣に領土問題は存在しない」と主張しても、領有権に関係してくる当然の措置として外交案件として扱う経緯を取らないまま一般の刑事事件に持っていったとしたら、逆に外交の不在、政治の不在を浮き立たせることになる。

 この点を突くべきを突かなかった。突かないまま、国交相時にビデオを見たという前原外相に質問し、海上保安庁が逮捕して司法手続きに入るときにビデオが証拠として取り上げられる可能性が大きかったからビデオ公開に慎重であったという証言を得たのみで、事件発生の具体的な時間経過の面からの追及に変えていく。

 事件発生から船長逮捕まで約半日の空白があったと言う。

 9月7日午前11時頃、中国漁船の海上保安庁巡視船に対する衝突。

 衝突という表現を誰もが使っているが、実際は体当たりであって、衝突とすると、悪質性を薄めることになる。

 9月7日午後12時56分に漁船を停止させ、船長を拘束。

 9月7日午後5時頃、官邸に報告。

 9月8日午前0時2分に逮捕。

 石原は次のように発言している。

 石原(官邸へ報告してから)「その後、2回、関係省庁による協議が行われた。9月7日のことでございます。

 つまり、現在の日中関係や先程長官が長々とお話になった、また今後起こり得る事を分析しまして、その上で政治的に決断をして、船長逮捕に踏み切ったからこそ、半日という時間が経ったのだと思います」

 そして地方紙の一面に載っていたという、『報告時刻を修正、当初は逮捕の翌朝、首相、答弁資料で指示』なる報道を取り上げ、事実かどうか首相に問い正すが、事実でないと一蹴されておしまい。

 菅首相「午前11時半頃、事件の事案の発生を秘書官から報告を受け、逮捕の方針を、逮捕という方針でいきたいという福山副長官から報告を受け、私もそのことについてまあ、了解を、特に異論を挟むことはいたしませんでした。

 その翌日に実際に逮捕状が出されたのが午前0時55分、執行が2時3分だということだと思いますが、私が直接聞いたのは逮捕状を執行したということを、秘書官から報告を受けました」――

 石原は2回の関係省庁協議を殆んど重視していないが、1回の協議では対応を決め切れなかったからこそ、2回目の協議を必要としたはずで、それ程にも取扱いに慎重さが求められたからこそ、時間を取った証拠ともなり得る回数なのだから、この点とそれぞれの会合でどういったことを話し合ったのか、どういった結論に至ったのか追及すべきだったはずだが、何ら追及しずまいで終えてしまった。

 また、首相の答弁から、首相が逮捕決定に至るまで刻々と報告を受けていたことが分かる。重大な外交案件だからこその頻繁な報告だったはずである。菅首相が言っている「逮捕という方針でいきたいという福山副長官から報告」の「方針でいきたい」としている主体が誰なのかが問題となる。丸投げ大好きの首相が仙谷官房長官以下、前原、岡田等に取扱いを丸投げし、彼らが結論づけた「方針でいきたい」として報告を受けた可能性は否定できない。

 だとするとこの、「方針でいきます」ではなく、「方針でいきたい」は了解を求める意思を持たせた「いきたい」となる。決定権が仙谷が言う「刑事司法の担当者」のみにあるとするなら、誰の許可も必要ないことになり、敬語をどう使うとしても、基本は「方針でいきます」の主体の意思を伝える報告となるはずである。

 その報告に対して、決定権は「刑事司法の担当者」のみにあるのだから、間に誰を介しようとも、単に報告を受けるだけの「分かりました」、「了承しました」でなければならない。

 だが、「逮捕という方針でいきたい」とする報告を受け、その報告に対して首相が「異論を挟むことはいたしませんでした」とするなら、最終決定権は首相自身にあることになる。また言葉自体も、異論を挟むこともあり得ることを条件付けた言葉となっているゆえに、このことからも決定権が二重に首相にあったとすることができる。当然「方針でいきたい」は既に触れたように了解の意思を持たせた発言となる。

 尤もこの「異論を挟むことはいたしませんでした」を不味いと気づいたのだろう、後で修正している。

 菅首相は石原が報告時刻を首相が修正したのではないのかと追及した「修正」と言う言葉を掴まえて、「修正と言うのは何か発表して、それを変えることを修正と言う。何か私が発表したという根拠があるのですか」と逆ネジを食らわしている。確かに「修正」は「間違いを正す」意味だが、言葉は時代によって読み方が違ったり、拡大した意味を取るようになったり、あるいは全然別の意味を示すこともある。実際の時間を別の時間とすることを「歪曲」とか「騙る」と言うのだろうが、それでは表現がどぎつくなるから、新聞の方で「修正」と言葉でオブラートに包んだということも考えることができる。天下の総理大臣が(責任転嫁の総理が?)「修正」と言う言葉一つでムキになって反論する図はみっともないだけではなく、何となく情けない姿に見えた。

 石原は、修正したと言ったわけではなく、記事が書いていることと総理が言っている時間とどちらが正しいのか聞いただけだとのみ答えている。事実その通りだが、「天下の総理大臣がムキになって反論することですか」と一言言ったなら、なおさらムキになる醜態を眺めることができたかもしれない。

 石原はここで、「福山副長官から報告を受け、了解したと、船長を逮捕してよいと許可を与えた」ことにして、総理大臣は政治全般に対する最高指導者であり最高責任者だから、国益に関わる重大な問題について官僚任せにせずに政治主導で決めた菅首相のこの判断は間違っていないと、事件を中国との間の外交案件とする線からの発言をする。

 だが、石に噛りついてもそれを貫かず、最終的には責任を検察に押し付けたと非難する。

 石原「検察が国内法に基づいて粛々と対応したなら、那覇地検の次席検事が釈放の理由に、読ませていただきますと、有名になりました、『我が国国民への影響や日中関係を考慮すると、これ以上の容疑者の身柄を拘束して、捜査を続けることは相当でないと判断した』などと言うわけはないんですね」云々と対検察責任転嫁の政治判断説を展開する。

 石原「総理、あなたは今も中国人船長の釈放という国益に関わる重大な決定を、政治家が下すべきではないと思ってらっしゃるのですか。釈放の決定について自分は責任はない、下から上がって来たことを、検察が決めたことを了としただけという官房長官の発言と同じなんですか。お答えください」

 ここでまた仙谷官房長官が割り込んでくる。

 中国人船長釈放に政治介入があったことを政府側国会答弁が示唆している(2)に続く

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中国人船長釈放/政治介入があったことを政府側国会答弁が示唆している(2)

2010-10-17 16:23:40 | Weblog

 仙谷「あの、先程から刑事手法手続きについて、割と石原幹事長はあの、大雑把に言葉を使われておりますので、私もかねてから、ややそういう言い方は違うんではないかというお答えを先ず差し上げたいと思います。

 つまり総理が逮捕を許したという、言葉遣いをされました。逮捕を許した――」

 石原(椅子に腰掛けたまま)「了解した」

 仙谷「いや、許したとさっきおっしゃった。逮捕を許したのは裁判所であって、総理ではありません。つまり海上保安庁の逮捕手続きを始めるという方針に、総理は事実を聞いて異を唱えなかったのはというのは、正しいわけであります。そいで、先程からおっしゃっているようにですね、これは交通事故とか、あるいは自動車の運転のケースを先程引かれましたけど、そういうのを一々ですね、大臣や総理大臣が許可するとか許可しないっていう、そういう国ではないという、この日本の国であるということを先ず限定していていただきたいと思います」

 ここでも仙谷は巡視船に体当たりまでした悪質な領海侵犯事案を、ここではその発言を取り上げていないが、石原が例に引いたことを利用して、交通事故とか、あるいは自動車の運転のケースに涙ぐましい程の懸命さで矮小化して、「大臣や総理大臣が許可するとか許可しないっていう、そういう国ではない」とすることで、領海侵犯事案に於ける船長逮捕を許可するはずはないとする強弁を働かせている。

 悪質な領海侵犯事案を前提としない議論を展開すること自体が不都合を隠す隠蔽意思を明らかに嗅ぎ取ることができる。

 ここで柳田法務相が刑事訴訟法第238条を挙げて、“国内法に基づいて粛々”を補強説明している。

 柳田「起訴・不起訴の判断に当たって考慮すべき諸事情として、犯罪や被疑者に関する情状に加え、犯罪行為の状況を定めているという、これには社会一般の状況の変化、起訴・不起訴等の処分が社会に与える影響も入るものと考えられているものと思われます。

 本件に於いても、被疑者の釈放に当たっては犯罪や被疑者に関する情状に加え、社会一般の状況の変化に与える影響等として、被疑者の身柄を拘留したまま捜査を継続した場合の我が国国民への影響や、今後の日中関係を考慮したものと承知をいたしております」

 あくまでも公務執行妨害という一般的な犯罪事案としていて、その線に添って刑事訴訟法第238条を適用したとしている。

 ここで菅首相は先程の「異論を挟むことはいたしませんでした」を訂正している。

 菅首相「まあ、先程答弁をした中でですね、いわゆる逮捕の方針の報告を受けて、異を唱えなかったとという言い方をして、もしかしたら若干、私の表現も、おー、多少誤解を招いたかもしれません。

 つまり先程官房長官から話がありましたように、私が逮捕せよとか、逮捕するという立場でありません。ですから、そういう意味ではその逮捕についての報告があったときに、それについて、ま、報告に対してですね、分かったと、いうことを申し上げたという意味であることを改めて申し上げておきたいと思います」

 漏れが生じることを恐れる余りに細心の注意を払っている様子が浮かぶ。

 菅首相はその上柳田法相が先程話したのと同じ趣旨の発言を繰返して、「国内法に基づいて粛々と対応」したことを自分からも強調している。ウソつきが自分のウソ話を相手に信じ込ませようとして、「ウソじゃない、本当なんだ、本当なんだ」と何度も言うように。

 石原伸晃は自身の追及が同じ趣旨の答弁に突き当たって功を奏さないからなのか、感情的になり、「総理はね、私は厭なんですよ。こうやってね(実際に前屈みの姿勢でペーパーを両手に持ち)、オドオドしながらね、官僚の書いたペーパーをね(と言って、ペーパーを机に叩きつける)、読むなんてね、独断でいいですからね、毅然とした話をしてくださいよ。・・・・」

 いくらオドオドしていると言われようと、自分たちが事実としたことを事実だと押し通さなければ、責任を問われる。それが真正な事実かもしれない。石原としては真正な事実と見ていない以上、事実でないことを見破り、証拠立てるしか手はないはずだが、いささか冷静さを失っている。

 ここで前原外相が立ち上がって、改めて一般的刑事事案であることを巧妙な言いまわしで補強説明する。

 前原「まあ、これも、何度も前よりも答弁しておりますけれども、刑事事件を発端として外交問題に発展してきた事例っていうのは古今東西、ゴマンとあると思います。しかし発端の事例については、刑事事件として扱うというのは当たり前で、それについて波及した外交問題については、政府を挙げて、外務省を含めて、しっかりと対応すると言うことであります」

 要するに船長逮捕から釈放までは刑事事件の取扱いで、レアアースの輸出停止やフジタ社員拘束は政府の取扱いだと二段階に分けることで、逮捕にも釈放にも政府は関係していないとしている。

 前原が言っていることが事実としたら、逮捕時、外交問題に発展することは何ら予測していなかったことになる。中国の圧力はあくまでも最初の段階で生じた逮捕が次の段階に「波及した外交問題」と言うことになるからだ。いわば逮捕自体が尖閣諸島は中国固有の領土だとしている中国の何らかの反発への波及を当初から孕んでいた発展形を備えていたにも関わらず、外交問題を後付の波及としている。

 だとすると、逮捕するまでに2回の関係省庁協議を持ったのは何のためだろうか。最初から「波及」を予想した、一回の協議では結論を見い出せなかった2回の協議であったはずだ。

 石原は、検察を喚問するのは本意ではないが、喚問せざるを得ないと金賢姫遊覧ヘリコプターですっかり有名となった例の中井洽(ひろし)委員長に申し出る。

 これで石原のこの問題に関する質問は終わるのかと思ってほっとしたのだが、追及し切れない自身の力不足をものともせずに柳田法相に再度質問をぶっつけた。多分質問のスケジュールに入れていて、内容も決めていた関係から続けただけの質問だったのかもしれない。

 だとしても、柳田法相の答弁に追及のキッカケとなる発言がありながら、見過ごしてしまっている。

 石原「柳田法務大臣にお伺いします。釈放決定の報告を受けまして、どのような対応を指示されたんですか。検察が外交問題を考慮して事件の処理を判断するなどという、これまでお話をさせていただきましたけども、まさに超えてはならない一線を超えたとき、あなたは何をされておったんですか。日本が法治国家でなくなるのを指をくわえて待っていたんですか。それは私には職務怠慢だったと思います。

 官僚の答弁書は要りません。紙でください」

 官僚の書いた答弁書を読むだけなら、答弁を書いた紙だけくれれば事足りると言われても、相手としたら答弁しないわけには行かない。但し、柳田法相、頭に入れていたのか、自分の言葉なのか、何も読まずに答弁した。

 柳田「エー、今回の件に関しましては、時折々に報告を受けておりました。えー、24日お昼前に、刑事局長の方から、釈放の理由報告を受けたところでございます。その際、私の方から分かりましたということだけを申し上げました」

 これは菅首相の「逮捕という方針でいきたいという福山副長官から報告を受け」、「特に異論を挟むことはいたしませんでした」に対応する法相の「報告を受け」、「私の方から分かりましたということだけを申し上げました」であろう。うまく合い過ぎる。

 石原の答弁に対する発言。

 石原「その答弁が問題だと言っているわけであります。外交案件を考慮して判断するのはどういうことだと叱るのが法務大臣じゃないんですか。超えてはならないところを超えたわけですよ。そして今と同じような答弁を繰返しているならば、検察の越権行為を許して(?聞き取れない)、さらにあろうことか了とした。ハイ、分かりましたと今おっしゃった。私はね、そんな職務怠慢な法務大臣は罷免すべきだと思いますよ。総理のお考えをお聞かせください」

 政府側は検察の越権行為だと見ていないのだから、石原本人が越権行為だ、越権行為だと言うだけでは相手から同じか、似たような答弁を引き出す堂々巡りを繰返すに過ぎない。

 「刑事局長の方から、釈放の理由報告を受けた」と言うなら、具体的にどういった内容の「釈放の理由報告」だったのか、その内容を詳しく聞くべきだっただろう。当然、那覇地検が処分保留で釈放した理由に挙げている、「我が国国民への影響や日中関係を考慮すると、これ以上の容疑者の身柄を拘束して、捜査を続けることは相当でないと判断した」と内容は一致するはずである。

 果してその「釈放の理由報告」に対して、「私の方から分かりましたということだけを申し上げました」で整合性が取れるだろうか。本来なら政治側が判断すべき理由を検察のみが判断したことになる。あるいは検察側に判断させたことになる。そうしておいて、「分かりました」では辻褄が合わない。

 中井委員長「柳田法務大臣、職務権限を逸脱しているかどうか、検察という点についてご答弁願います」

 柳田「先程触れたとおりに、第284条に則って、地検は粛々と判断を下したものと私は思っております。なお、その報告を聞いて、私は指揮権発動はなかったというのが事実でございます」

 以下菅首相の埒も明かない答弁。再び石原伸晃の埒も明かない質問と暫く続き、石原は追及し切れずに次の質問へと移っていく。

 柳田は「なお、その報告を聞いて、私は指揮権発動はなかったというのが事実でございます」と言っている。最初のところで報告に対して、「私の方から分かりましたということだけを申し上げました」を石原伸晃から職務怠慢と把えられたから、「指揮権発動」の言葉に代え、同時に政治介入がなかったことを知らしめる表現としたのだと思うが、菅首相の「異論を挟むことはいたしませんでした」が菅首相に決定権があることを示すように、「指揮権発動はなかった」と言う以上、「指揮権発動」を頭に入れて備えていたことを示しているはずである。

 レアアースの輸入停止等の中国の圧力とは無関係に最初から最後まで国内法に則って検察の判断に任せる姿勢でいたなら、いわば政治介入の意思がなかったなら、それでは2回の関係省庁協議の開催が矛盾することになるが、「指揮権発動」という認識はそもそもからして存在しないことになり、当然、「指揮権発動はなかったというのが事実でございます」もふさわしくない発言となる。

 勿論、事実上の指揮権発動ではなかったのかの野党側の疑いに対して、「指揮権発動はなかった」という言葉を使ったとする理由づけは許されもするだろうが、それ以外は第284条の国内法処理と「指揮権発動」処理は両立させることのできない対応であることに変わりはない以上、第284条の国内法に則った報告に対して「指揮権発動はなかった」はいくら政治介入はなかったとする理由からだとしても、矛盾する発言であろう。

 少なくともその点を突くべきではなかったろうか。

 以上見てきたように二度も巡視船に体当たりしてきた悪質な領海侵犯事案であり、中国側も中国固有の領土だとしている領海内である関係から、逮捕自体が中国固有の領土だとする主張に則った中国側の対応と外交問題へとの波及が予見できながら、領海侵犯ではなく、公務執行妨害罪で逮捕したこと、中国との間で外交問題に発展していながら、政府側の説明から悪質な領海侵犯の事実が消し去られ、一般的な刑事事案を事実だとしていること、仙谷官房長官が事件を交通事故や自動車の運転のケースになぞらえて殊更矮小化していること、検察が判断主体でありながら、逮捕の報告が「逮捕という方針でいきたい」という了解の意思を持たせて了解側に判断主体を置いていること。

 菅首相が逮捕報告に対して後で“修正”しているものの、「特に異論を挟むことはいたしませんでした」と判断主体を首相自身に一度は置いたこと、2回の関係省庁協議で何を話し合い、何を決めたのか協議内容が明らかにされていないこと、前原外相が外相でありながら、外交問題を発端の刑事事件が波及した後付の事柄として個別に扱い、当初から関連付けていないこと、柳田法相が第284条の国内法処理と「指揮権発動」処理は両立しないにも関わらず、国内法処理の報告に対して「指揮権発動はなかったというのが事実でございます」と、あり得ない政治要素を以って答弁としていること等々を見てくると、政治介入があったことを隠そうとする意志を働かせた答弁の数々と見ないことには説明がつかなくなる。

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