04年度から08年度(平成16年度~平成20年度)の5年間に八ッ場ダムの建設にあたって1000万円以上の契約を落札した企業や団体は177あって、国土交通省からこのうち45の企業や団体に合わせて93人が再就職、とは言っているが、天下っていることが判明したというもの。
衆議院国土交通委員会の理事を務める民主党の村井宗明議員が工事の受注企業と天下りとの関係について調査するなかで国土交通省が明らかにした情報だそうだ。
国土交通省はこう説明している。
「当時の職員の再就職にあたっては、法律に基づき人事院の承認を得ており、適正に手続きを進めた結果だ」
確かに「人事院の承認」は“適正な手続き”だろうが、問題はその前後の経緯が果して適正であったかどうかである。国土交通省が八ッ場ダム工事関連の企業に天下りを受け入れるように話を入れる。企業の方は現在お世話になっているし、今後ともお世話にならなければならない下に位置する弱い立場だから、断って下手に機嫌を損なわれ、以後の受注に差し障りがあったら困るからと相手の指示通りの天下りの受け入れを申し出る。
そのような経緯を受けて人事院が審査して承認する“適正な手続き”によって正式決定する。そこだけが適正であったとしても、受け入れた以上、受け入れた天下りOBの出身省庁である国土交通省に効く顔を利用する手前、それ相応の給与を保証しないわけにはいかないと高級待遇する。
このような天下り決定プロセスはあくまでも国土交通省を上の強い立場に置き、企業を下の弱い立場に置いた権威主義の強制が働いたもので、そういった前後の強制力学が問題であって、人事院はそこまで関与することはない“適正な手続き”であり、「承認」であったろう。
そういった権威主義的な上下の強制力学を利用していなかったというなら問題はない。だが、2006年1月に防衛施設庁のナンバー3で技術系トップの技術審議官が官製談合の疑いで逮捕されたが、防衛施設庁が天下りOBを受け入れた企業の、そのOBの優遇の度合いにより、受注工事に差を付けた「配分表」を作成して工事を発注していたことは防衛施設庁を上の強い立場に置き、企業を下の弱い立場に置いた権威主義の強制を働かせた力学があって可能となった工事配分方法だったはずである。
天下ったOBを優遇しない企業は満足に工事を受注させないぞと、少なくとも間接的・婉曲的に威しをかけたからできた工事「配分」であり、自分たちを上の強い立場に置いていなかったらできなかったろう。
自衛隊法で退職後2年間は施設庁工事の受注営利企業への天下りは禁止されていたが、施設庁所管公益法人「防衛施設技術協会」に2年前後在籍し、そこをトンネルに工事受注関連の営利企業へ天下りさせる巧妙な方法が取られていたことに関しても、“適正な手続き”を経た「人事院の承認」、あるいはその他の「承認」ということだったに違いない。
その上、施設庁所管公益法人「防衛施設技術協会」は“適正”にも防衛庁から受注した調査研究業務を下請に丸投げしている。06年2月6日『朝日』朝刊は、〈02年度から04年度までの3年間に施設庁から受注した調査56件(業務委託費・総額5億4千万円)のうち、協会独自に完成させたのは1件だけだった。〉と報じている。
施設庁からの委託費の一部をピンハネして、残り金額で下請と契約するシステムの丸投げだったそうで、〈施設庁からの委託料のうち、多くて8割、少なくとも3割は協会側が受け取っている。〉という状況は自らは殆んど仕事せずにピンハネ分で自分たちの高級を賄っていたことを示すだけではなく、大手コンサルタント会社の関係者が「協会がしていることは、基地などの現場で調査に協力してもらう自衛隊との調整役だけ。実際の調査は下請がやっている。やろうと思えば、民間だけでもできる」と大手コンサルタント会社関係者の声を記事が伝えているが、要するに「多くて8割、少なくとも3割」の国家予算のムダを「防衛施設技術協会」にタレ流し状態としていたということである。
天下り人事に関して人事院、その他の承認が適正であっても、その前後の天下りに至る経緯や予算の執行、さらに天下りOBに支払う給与が不適正であったなら、人事院の承認もその他の承認も「適正な手続き」だとする抗弁は意味を失う。
天下りOBの優遇の度合いに応じて工事「配分表」を作成して発注していたのは防衛施設庁だけではない。05年5月頃までの国発注の水門設備工事でも農水省OBの受け入れ数と談合各社の受注実績を功績として工事の割り振りを行う談合が行われている。
仕切り役は石川島播磨重工業だったというが、「毎日jp」記事が国交省発注の水門設備工事に関して、それを差配した建設施工企画課の元課長補佐が「天下り受け入れ企業に優先的に工事を割り振った」と供述していることを伝えているから、官僚も関与した工事“配分”談合であることが分かる。
03、04年度の国土交通省と旧日本道路公団発注の橋梁工事談合でも受注仕切り役会社が決めた工事配分表に従って道路公団の方で工事を割り振り、旧公団元副総裁内田道雄被告(63)が逮捕されている。
ゼネコン側に天下りOBが存在しないはずはなく、やはり受注実績だけではなく、天下りOBの力関係にも配慮した“配分”の側面があったはずである。
天下りが問題なのは法に基づいた適正な手続きによる人事院やその他の承認といったことではなく、あくまでも給与関係の待遇や工事の受注に影響を与えて、結果として国の予算をムダにする、省庁やそのOBを上の強い立場に置き、民間企業を下の弱い立場に置いた権威主義の力学の存在であるはずだ。
民間企業にしても省庁との間に働いている権威主義の力学を逆に利用して、天下りとして引き受けたOBが出身省庁の現役職員に対して個人的に持つ下に従わせる権威主義を活用して工事の獲得を有利に持っていくべくチエを巡らす。
正式な入札を経ない受注となるから、当然そこに適正な予算の執行は期待不可能となる。随意契約が多いのはこういった事情からに違いない。
今朝11日のNHKニュース。