昭和天皇合祀忌避と小泉首相のゴマカシ

2006-07-21 16:02:04 | Weblog

 昭和天皇が靖国参拝を中止した理由がA級戦犯の合祀にあったと記す、当時の富田朝彦宮内庁長官のメモの発見を受けて、小泉首相が20日(06.7.夜)首相官邸で記者団に次のように答えている。いくつかのテレビ番組から纏めてみた。

 メモが見つかったことについて、「詳細は分かりませんが、これは心の問題ですから。陛下自身に於かれても、様々な思いがおありになったんだと思いますね」

 総理自身の参拝の影響について、「これはありませんね。それぞれの人の思いですから、心の問題ですから。強制するものでもないし、行ってもよし、行かなくてもよし、誰でも自由ですね。あの人が、あの方が言われたからとか、いいとか悪いとかいう問題でもないと思っています」――

 記者団の質問は天皇の靖国参拝中止がA級戦犯合祀にあると思えることに対して、A級戦犯合祀を問題とせずに参拝を続けている総理大臣である小泉純一郎個人の考えを問うものであったと思うのだが、首相の答は天皇のそのような姿勢とは異なる自分自身の姿勢の是非を述べたものではなく、一般論を述べてかわしたに過ぎない。

 いわば天皇の参拝に関わる考えを一般論に潜り込ませるゴマカシを働いたのである。理由はどうであれ、開戦の詔書を発し、戦争終結の詔書を公布している当人であって、戦前は統帥権者であり、戦後は日本国民統合の象徴者たる天皇の理由・根拠を一般論扱いする歴史への客観性は手品師でもできない見事なゴマカシだが、そのことに居合わせた記者の誰も気づかなかったらしい。

 確かに一般論としては行くいかないはそれぞれの「心の問題」で、「強制するものでもないし」、「行ってもよし、行かなくてもよし、誰でも自由」ではあるが、だから私も参拝するのだと、そういった理由・根拠で小泉首相は参拝しているわけではないはずである。

 参拝することが小泉首相の「心の問題」なのである。参拝しないことを「心の問題」としているわけではない。いわば小泉首相個人に関して言えば、「いいとか悪いとかの問題」で参拝しているのではなく、〝いい〟として、つまり〝すべきである〟として、そのような問題意識で参拝しているはずである。

 昭和天皇はA級戦犯が合祀されたことに反対の意思を持ち、それを天皇自らの「心の問題」(「それが私の心だ」)として、それまで続けていた靖国参拝を中止した。

 一般論でとても扱えない天皇の「心の問題」を一般論で扱い、自らの参拝も一般論で片付けようとするゴマカシ。さすが日本の総理大臣と言うべきか。

 天皇はA級戦犯の合祀に不快感を示し、参拝を中止した。しかし小泉首相はA級戦犯合祀をいささかも問題とせず、「日本人の国民感情として、亡くなるとすべて仏様になる。A級戦犯はすでに死刑という、現世で刑罰を受けている」として、A級戦犯共々、「尊い命を犠牲に日本のために戦った戦没者たちに敬意と感謝の誠を捧げるのは政治家として当然」を自らの「心の問題」と決めて参拝を続けているのである。

 当然記者団の質問に、「天皇陛下はA級戦犯の合祀に不快感を示されたようだが、私自身の考えとしては、日本人の国民感情として、亡くなるとすべて仏様になる。A級戦犯はすでに死刑という、現世で刑罰を受けているのだから、合祀に問題はないと思っている。陛下は合祀をキッカケに参拝を控えられたようだが、私自身は合祀を問題にしていないのだから、今後の参拝に影響を受けることはない」と答えなければならなかったのではないだろうか。それが論理的対応というものだろう。

 だとしても、「亡くなるとすべて仏様にな」り、「死刑という、現世で刑罰を受けている」からといって、そのことを免罪符として戦争責任の問題まであの世に葬ってしまうのは(葬ってしまっているから、参拝ができる。葬っていなければ、少しは引っかかるだろう)、日本の歴史・日本の過去を曖昧にする冒瀆、あるいは改竄・歪曲に当たり、そのように歴史の都合の悪い部分を曖昧にすることは必然的に、本人は否定するだろうが、歴史の美化、あるいは過去の美化につながっていく。都合の悪い部分を曖昧にするのは、いいところだけを見せようとする意志の働き(=美化意識)によって生じるからである。

 結果として、靖国参拝行為が「亡くなるとすべて仏様になる」、「死刑という、現世で刑罰を受けている」、あるいは「尊い命を犠牲に日本のために戦った」という口実のもと、日本の戦前の負の歴史を葬り去る代替行為となっている。

 つまり、靖国参拝とは小泉純一郎演出による戦争美化のゴマカシ劇そのものであろう。そして安倍晋三が小泉首相の尻に引っついて、戦争美化の後押しをしている。

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