『05年の合計特殊出生率1・25 過去最低を記録』
6月2日(06年)の新聞・テレビが一斉に伝えた。
少子化の進行による年金・医療・介護といった社会保障制度への深刻なマイナス影響、将来的な労働力減少による経済への深刻なマイナス影響だけを取っても、国民生活の土台そのものを揺るがしかねないだけではなく、ひいては国家の安定した存立そのものを揺るがしかねない問題であろう。いわば少子化問題は国にとっての、勿論国民にとっても最重要な〝死活問題〟に位置づけなければならないはずである。いや、位置づけてこなければならなかったはずである。
同じ日の『朝日』夕刊が『高齢化率2割を越す』――「65歳以上の高齢者は05年10月1日時点で過去最高の2560万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は前年同月に比べ約0・5ポイント増の20・04%と初めて20%台に乗った。先進国の中ではイタリアと並ぶ最高水準の高齢化率になったと見られる」と伝えているが、この国の活力・社会の活力を奪いかねない高齢化現象も出生率低下を原因とした若年層の減少というマイナス要因がさらに次のマイナス要因を呼び込んだ悪循環結果であろう。
地方の格差問題も都会の少子化による若年層の減少が、その埋め合わせとして地方の若年層を簡単に引き込み、結果として招いている高齢化・過疎化が地方活力の減退をさらに招いていることから起こってもいる格差であって、少子化問題抜きには語ることはできない。
かつて厚生大臣まで務め、厚生族の一人に数えられていたのである、国と国民にとっての〝死活問題〟である以上、〝少子化対策〟は小泉改革の中心に据えるべき最優先政策でなければならなかったのではなかったか。そうするだけの問題意識を持つべきだったのではなかったか。
だが小泉首相は「郵政民営化なくして、構造改革なし」と大ミエを切り、国民にそう信じ込ませて、その実現のために自党の反対派議員さえも切り捨て、郵政民営化を改革の中心に据え、すべての構造改革に優先させるべき政策として断行した。果たして「郵政民営化」は「少子化問題」に優先する、あるいは優先させるべき国・国民にとっての〝死活問題〟だったのか。
「30年間政治は無策」との小見出しで、新聞は昨年末既に次のように伝えている。「『日本が人口減少社会になっていくのは実は30年前に分かっていた。残念ながら30年間、我々の社会は有効な手段を準備できなかった』
22日の閣議後の記者会見で竹中総務相はこう語った。合計特殊出生率は1970年半ば以降、人口を維持するのに必要とされる2・1を割り続けている。これが続けば自然減を迎えることは百も承知だったわけだ。
それなのになぜ有効な手を打てなかったのか。竹中氏は『要因は多岐に渡る。経済、住居、所得の環境、教育のあり方、男女参画のあり方の問題』と指摘した」「人口減 産めぬ現実」(05.12.22.『朝日』朝刊)
小泉内閣成立以来、小泉構造改革の参謀役を担ってきた竹中総務相自身が少子化問題に関わる30年間の自民党政治の無策を「我々の社会は」という言葉で責任を転嫁しつつ認めたのである。「我々の社会」は自民党政治の主導の下、国民と協同してつくってきたのである。主導者である自民党政治が一番に責任を取らなければならない。それとも「我々の社会」が招いたことだと、国民に責任を取らせるつもりなのだろうか。
「35年と半生を縛る多額の住宅ローン、仕事と子育てを両立しにくい社会、それに年金や医療などの将来不安がのしかかる・・・・。とても安心して子供を産める環境にはない」(同記事解説)
問題点が分かっていないならまだしも、分かっていた。後は優先順位の問題だが、しかし最優先政策としなかった。「郵政民営化なくして、構造改革なし」と、郵政民営化を最優先政策とした。
『05年の合計特殊出生率1・25 過去最低を記録』を受けた記者の質問に対して、小泉首相は「今後、少子化対策は最重要課題となってくると思いますね」と、国及び国民の緊急を要すべき〝死活問題〟を30年間有効な手を打てず出生率の低下を許してきたのだから、無為無策状態で放置したまま、その責任には触れず、また改革のピントがズレていたことにも触れず、「今後」の「最重要課題」だと先送りした。
分かっているのかな、小泉さん。06年9月首相退任を自らの決定事項としているのだから、自分では「最重要課題」としないまま、次の政権の「最重要課題」にしてくださいと言うわけである。
ぶっちゃけた話、〝最重要課題〟に位置づける印として小泉改革のスケジュール表には◎(二重丸)はついていなかったわけである。優先順位を遥か後方に下げた場所に無印のまま記載されていただけだから、「今後」の問題とせざるを得なかったのだろう。間の抜けた話ではないか。
郵政民営化も必要だろうが、少なくとも国及び国民にとっての緊急の〝死活問題〟ではなかった。それ以上に少子化対策は最優先に取組むべき日本社会全体の〝死活問題〟だったはずである。「古い自民党をぶっ壊した」という成果が虚ろに響く。
〝死活問題〟を土産に残して、退任時期が4ヶ月後に迫っている。多分、「古い自民党をぶっ壊した」名宰相としての名声を獲得して。それも虚しいことであることがいずれ暴露されることだろう。