もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

戦訓を考える

2023年03月12日 | 軍事

 中国軍のウクライナ事変研究の一端が報じられた。

 戦争・軍事行動で得られる教訓は「戦訓」と呼ばれ、各国が他山の石として研究するのが常である。
 第一次世界大戦以前には、大規模な戦闘には当事国以外の軍人が「観戦武官」と称して同行・見学することも多かったとされているが、近代戦では戦場が拡大するとともに広範囲殲滅戦の様相を呈したこともあって、安全に見学するなどできなくなった。さらに現在では、戦場の詳細がメディアやSNSでリアルタイムに報じられるので猶更である。
 中国は、ロシアの思惑に反してウクライナ事変が長期化した現実を台湾進攻の反面教師と捉え、軍幹部を中心として戦訓の収集・検証に努めていると報じられている。
 報道によると、解放軍高官の論文では、スティンガーやジャベリンに代表される携帯火器とスターリンク通信が注視しているとされている。
 近代戦の常識では、開戦劈頭に敵の目と耳を奪うためにレーダ・通信網を破壊することで、爾後の戦闘を有利に運ぼうとするとされ、ロシアも侵攻劈頭の大規模一斉攻撃でその目的を達成したと観られていた。しかしながら、ロシアの苦戦は壊滅させた通信網によってウクライナ軍の組織的な反撃は封じたものの、分散配置された携帯火器によって大きな反撃を受けたこと、就中、スターリンクによって軍事通信機能が代替・維持されたことであるとされる。
 戦場は「兵器の見本市」とも称されるように、武器がカタログ性能どおり機能するかが試されるのが現実で携帯火器はカタログ通りの機能を発揮したものの、民間企業が提供したスターリンクシステムが軍事通信の代替になるとは誰も予測していなかったのではと思う。スペースXのイーロン・マスク氏が、スターリンク端末の無償提供限界を仄めかすことで、テスラ社買収の巨費を得たであろう顛末は置くとしても・・・。
 中国軍が注目しているのは、現在のところスターリンクを無力化する有効な方法が無いことである。
 以前にも書いたことであるが、スターリンクは2022年12月時点で3000機を超える小型衛星で構成されているので、中国軍が持っている衛星破壊手段では対抗できない。更には、スターリンクを無力化するための電波妨害は、自軍の通信を阻害するとともに中立国の商用通信をも無力化するために全世界を敵に回すことになりかねないので、中性子爆弾を使用したEMP攻撃くらいしかないが、それとても核兵器の使用で全世界を敵にするとともに台湾以後を考えれば踏み切れないだろうと思う。

 戦争にかかわる研究、とりわけ戦訓の研究は他人の不幸が絡むことから、学術会議はもとより一般社会でも忌避する空気が強いように思えるが、ウクライナ事変戦訓の収集・検証は、日本でも幅広く行う必要があるように思える。
 市民の安全確保、陸路がない戦闘地域からの避退、人道回廊の確保、自衛隊通信のバックアップ、携帯火器の取得・備蓄・分散など、抗堪性強靭化のための戦訓は無数にあるように思える。
 極論すれば、携帯火器を一家に一基配布すれば、侵攻を企図する航空機・戦車の跳梁は防げるだろう。


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2 コメント

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ありがとうございました (あほうどり)
2023-03-12 16:43:12
いつも未知の知識をいただいております。
洞察力というか慧眼に感服しています。
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遅くなりました (管理人)
2023-03-13 09:22:17
あほうどり様
ご訪問とコメントを有難うございます。
自分のブログは、世の定説?とが些かに懸け離れた独りよがりの推論と捉えられるであろうと思っていますが、今後とも金太郎飴的発想から一歩引いた視点を持ち続けたいと思っています。
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