もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

グローバルホークの整備に思う

2022年03月12日 | 防衛

 自衛隊が三沢に配備を計画している米国製無人偵察機グローバルホーク(以下、RQ-4B)1機が12日に到着したことが報じられた。

 無人偵察機の導入計画はRQ-4B型3機と地上操縦システム2基で、これによって日本全土の警戒監視が可能とされている。
 RQ-4Bはプレデターなどの無人航空機とは異なり、攻撃能力を持たない純粋な偵察機で、2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故の際に被害状況把握のため施設上空を短時間飛行したことでも知られている。ちなみに、RQ-4Bの主要諸元は、全長:13.52m、全幅:35.42m、最大離陸重量:12,111kg、巡航速度:343kt、実用上昇限度:19,800m、航続距離: 22,779 kmで、監視能力は最低飛行速力4kt、最高30cmの識別能力を備えているとされている。
 日本の警戒監視能力の向上は喜ぶべきかもしれないが、政府・国民の防衛力整備に関する意識に関して言えば決定的に欠けている点があると思っている。
 軍事偵察衛星も上げた、軍事情報に関する省庁一元化の体制も整備した、情報本部を作り分析官も育成した、さらにRQ-4Bも配備し得た、と情報の収集・分析・配布については何とか列国の水準に達したと思っているが、問題とすべきは情報を「生かす」若しくは「利用して対処する」という手段が確立できていないことである。情報とは本来、収集し、分析し、確度を高めただけでは何らの価値を持たず、正確な軍事情報を得た指揮官が「如何に対処するかを決断する意志と能力を発揮する」とともに、実行を命じられた部隊が「対処に必要な資機材を保有する」ことで情報は価値を持ってくると思っている。
 ウクライナ侵攻に対するアメリカの対応を見る限り、商用衛星の画像ですらロシア軍の大規模部隊集結を捉えていたことから、より多くの情報入手手段を持つNSAやCIAはロシアの武力行使の確度を正確に把握していたとみるべきで、もしかすると劈頭のミサイル発射の兆候すら聴知していたかもしれない。しかしながら指揮官バイデン大統領はその情報に対処する資機材を持っているにもかかわらず、判断力と強い意志を持ち得なかった。
 日本の場合には更に深刻であると思う。もし情報機関が「侵攻を企図する国が大量のミサイル発射確実」という情報を配布しても、戦後、武力を動かした前例と経験を持たない総理大臣は強い意志をもって決断することに躊躇するであろうし、部隊もまた対処に有効な資機材を持っていない。そして何より、自分で課した専守防衛という軛で、最初の一撃は甘んじて受けなければならないという点である。

 国民や国会議員の国防に関する知識と現状・問題点を啓蒙するために、自衛隊の幹部学校等に設置されているとされる部隊運用訓練のための戦術訓練装置を戦略シミュレーションが可能なレベルに改修して、内閣・与野党議員・財界も参加した国家戦略(ウオーゲーム)を体験するという取り組みは出来ないものだろうか。
 防衛費が突出する世界は好ましいものではなく、かって帝国議会においてすら海軍の提出した建艦計画を否決したことがあるように、攻守バランスの取れた防衛力を整備するためには、節度を持った防衛力整備の限界を共有することが必要であるように思える。そうなれば、敵基地攻撃能力云々などというバカげた問答にも終止符が打てるように思える。


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
分かりました (onecat01)
2022-03-15 08:17:39
 管理人殿

 「現在の敵基地攻撃能力の云々は、政治家の軍事知識の欠如に起因」

 こう言う点に主眼があったのですね。ご説明に感謝いたします。
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Unknown (Unknown)
2022-03-15 08:05:35
onecat01様
自分の記述は言葉足らずでした。
書きたかったのは、現在の敵基地攻撃能力の云々は、政治家の軍事知識の欠如に起因しているためと思っています。
偵察能力の強化も重要ですが、それ以上に、知り得た情報を活用できる長射程攻撃武器の整備が不可欠ということを言いたかったものです。
返信する
Unknown (onecat01)
2022-03-14 23:09:05
 管理人殿

 専門家に素人が言うのも変ですが、

 「そうなれば、敵基地攻撃能力云々などというバカげた問答にも終止符が打てるように思える」

 この意見はどうなのでしょうか。

 敵対国の動きが情報として察知されれば、いっそうのこと敵基地攻撃が必要になるのではないのでしょうか。私の認識が違っているのだとすれば、ご教示ください。
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