もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

ウクライナ事変のOSINT活動を知る

2022年05月02日 | ロシア

 ウクライナ事変に際して、民間のオシント・グループが成果を上げていることが報じられた。

 オシントは、「オープン・ソース・インテリジェンス( open-source intelligence)」の略称でOSINTと略記され、「合法的に入手できる資料」を突き合わせることで公共機関等の公表内容の真贋を検証するとともに真実を知る手法で、1980年代から諜報・諜報活動で用いられるようになってきたとされている。他のHUMINT(ヒューミント:対人諜報)やSIGINT(シギント:主として電波傍受)が往々にして「違法行為を厭わない諜報」であるのに対し、公開情報を情報源とすることが特徴である。
 1990年に公開された映画「レッド・オクトーバーを追え」では、あまりにも米ソ両国海軍の実情が詳細に描かれているとして、原作者のトム・クランシーはスパイ容疑でFBIの捜査・監視対象とされたが、クランシーの情報源が全て公開情報であることが立証され無罪放免となった。
 トム・クランシーの手法は、公開されている電話帳、将官の経歴と移動履歴、予算報告、武器製造社のカタログ、軍の広報パンフレット等を繋ぎ合わせることであったとされているが、ウクライナ事変における民間のOSINTグループは、政府機関発表の真偽を、公開写真、報道写真、衛星写真等を繋ぎ合わせることで検証している。
 注目されたのはキエフ(キーウ)郊外のブチャで、ロシア軍撤退後に残されていた遺体について、ロシアが撤退時には遺体が無く進駐したウクライナ軍の仕業と発表したことを商用衛星写真と公開写真を繋ぎ合わせることで虚偽と検証したことである。民間OSINTのリーダーは取材に対して「我々は究極のオタク」であると破顔していたが、例示された「公開写真の背景から撮影地点を特定する」ために、数十か所に及ぶ候補地点の一つ一つをグーグルアースで検証するのは、お金を貰っても二の足を踏む作業である。また、当該グループは「しがらみ」と「プロパガンダ利用」を嫌って、一切の公的支援を断った手弁当であるとしているので、今回はロシアの情報を検証したものの、ウクライナの発表も検証されるケースがあるかもしれない。

 米海軍との共同訓練では、各艦の燃料保有量等のレポートを毎日交換するが、自分が参加した機会に毎日のデータを記録して見たら米軍艦船の燃料保有量は公刊情報とは異なっている場合が多く、自艦と米艦の排水量・機関出力・運動態様を基に使用燃料消費を類推・比較すると、公開されている航続距離とは異なるのではとの疑問を感じた。
 自分の経験はオシントとまでは呼べないものであるが、公開された情報の多くを繋ぎ合わせれば、真実に近いものが朧気ながら見えてくることも多いのだろうと思える。


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