一本の桜よ
お前は何を思って、こんなに美しく咲いてるんだろう
取り壊されたお屋敷の
誰もいない広い更地の片隅で

つい先日まで大きなお屋敷があって
家族の談笑する声を聞き
煮炊きする夕餉の匂いを嗅いでいたのに
今は誰もいない更地を
ひゅうひゅうと風が吹き抜けていく
律儀に枝いっぱいに花をつけて
咲いている一本の桜よ
愛でてくれる家族はいないのに…
誰に観てもらおうというのだ
誰を喜ばせようといういうのだ
何を思って咲いてるんだ
お前はさびしくないのか
花宴の後に若葉が萌えて
夏日に炒られて濃緑の葉は照り輝き
秋には紅葉桜となって冷風に身を任し
冬には虎落笛を奏でる
四季の移ろいを知っている
お前はさびしくないよね
お前を切らずに残してくれたのは
そのうちまたお屋敷が建ち
家族が戻ってくるということだね
希望が消えたんじゃないのだね
お前はさびしくはないよね
再びお前の周りに家族が集う日が来るだろう
この秋か来年か
その日が待ち遠しいね