歌は世につれ、世は歌につれ・・・辞書・辞典も、世の流れにつれて
変わっていくようだ。
先日、書店で「雨のことば辞典」(講談社学術文庫)と言う文庫版の
辞書を見つけた。
編者はNHK気象キャスターで親しまれた倉嶋厚さん(2017年没)
と原田稔さん。
元々、季語などに多い「雨ことば」には興味があったので、ぱらぱら
めくると面白そうなので買った。
寝る前やちょっと時間ある時に、拾い読みして楽しんでいる。
2014年に第1刷発行、すでに13刷まで発行されているから、かな
りのベストセラーなのだろう。
文庫本の帯評に、
「四季のうつろいとともに、様相が千変万化する雨。そのさまざまな
姿をとらえ、日本語には、陰翳深く美しいことばが数多くある」
とある。
日本人は「天候観測民族」と言ったのは、大宅惣一さん(1970年没)。
「天孫民族」をもじった名言だが、自然の様相を見ながら暮らしてきた
農耕民族の日本人は、雨に対する思いは深く、敏感だ。
毎年、人命を奪う豪雨災害を受けながら、雨は情緒的にとらえ文学や
詩歌にも詠まれてきた。
「雨ことば辞典」は、古来から語られてきた雨にまつわることばを、春
夏秋冬に分類して五十音順に約380項目にわたって集めている。
ネット検索によると、同じような「辞典」は多く、その一部を紹介。
・風と雲のことば辞典
・花のことば辞典(以上、講談社学術文庫)
・和の感情ことば選び辞典
・情景ことば選び辞典
・美しい日本語選び辞典
・色のことば選び辞典(以上、学研辞典編集部)
など・・・そのうち、手に取って読んでみたい。
今ではたいていの言葉はネットのYAHOO!検索で間に合うが、オーソ
ドックスの辞書・事典と言えば、
岩波の「広辞苑」(9720円と高価)、「大辞林」(三省堂)
などがまず思い浮かぶ。
広辞苑は我が家にもあるが、もうずいぶん昔に発行されたもので、本棚
の隅っこでほこりをかぶっている。
大冊の辞書は重くて読みずらいので、一般には敬遠されてるようだ。
だから文庫版の項目別辞書、手軽なネット検索が好まれるのだろう。
*** ***
!?・・・ちょっと知ったかぶり・・・!?
(「雨のことば辞典」から拾い読み)
<卯の雨腐し(うのはなくさし)>
咲いている卯の花を腐らせるほどに降りつづく霧雨。卯の花はウツギ(空木)
の花。幹が中空なところからその名がある。
<七つ下がりの雨>
午後4時(七つ下がり)過ぎに降り始める雨。昔から「七つ下がりの雨と中
年の浮気はやまない」といわれており、この雨はすぐには上がらない。
<半夏雨(はんげあめ)>
暦の雑節の半夏生(7月2日頃)のころに降る大雨。その時起こる洪水を
「半夏水(はんげみず)」という。
医通ひの片ふところ手半夏雨 大野林火
<虎が雨>
鎌倉時代、曽我兄弟が父の敵、工藤祐経(すけつね)を討ち果たすが、戦い
の最中に兄の祐成は敵に討たれ、弟の時政は捕えられて翌日処刑される。
以来、命日には祐成の愛人の遊女虎御前が悲しんで泣く涙雨が降ると伝え
られ「虎が雨」と呼ばれるようになった。曽我物語では「虎が雨」の日付は太
陽暦の6月28日にあたり、この日は雨の特異日(東京の雨天率は47%)
として知られている。
<降りみ降らずみ>
雨が降ったりやんだりすること。
神な月降りみ降らずみ定めなき時雨ぞ冬の始めなりける
読み人しらず「後撰和歌集」
<風花(かざはな)>
初冬に北西の風交じりに降る小雨や小雪のこと。
<亭主泣かせの雨>
昼間だけ降って夜に止んでしまう雨。屋外労働では、昼雨は降ると、雇った人
が働けないので、雇い主は困ってしまう。うがったことばである。
<なごの小便>
静岡地方で、霧雨のこと。雨を小便と表現するのは少し品がないが、的確な喩
えであろう。
<お糞流し>
彼岸の中日に降る雨という岐阜県高山地方のことば。「糞」は汚れの象徴。「流
し」は洗い流すことばで、禊(みそぎ)の意か。
<蛙の目隠し(かえるのめかくし)>
春の農作業が始まるころ降る春雨をいう新潟県東浦地方の言葉。目隠しと
は、布や手などで目を覆うこと。北国の春の雪を「桜隠し」「雁の目隠し」などとい
うそうだ。
文庫版辞書「雨のことば辞書」