福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

対訳で学ぼう国際原子力機関(IAEA)のみんなうそだったんだぜ

2011-04-15 19:19:31 | 新聞
福島の原発事故が「レベル7」の過酷度であることが明らかにされた4月12日、毎日新聞サイトのトップページで、「レベル7」や「チェルノブイリ超え」などという見出しのそばで、なんだか異彩を放つ見出しがあった。

福島第1原発:原子力委員長、推進政策は変えず

である。こんなときによく言うよ、傲慢不遜・厚顔無恥で冒涜的と多くの人を怒らせたに違いないこの記事は、しかし、推進派たちの不退転の決意をよく現しています。こんなときだからこそ、声を大にしているのです。そして、それを何の批判もなくメディアは漏洩させ、放射能と同じようにバラ撒いて拡散させているのです。

国際機関、などというとなんだかそれだけで、日本の棄民政府よりは信用が置けるような気がしたり、しかたがないから「外圧」で世の中変わってくれないか、などと他力本願したりしてしまいます。「国家官僚」など言うときに付きまとう悪辣さ・傲慢さ・不誠実さのイメージが「国際公務員」などというと別世界で、スーツやネクタイや靴が違うようにココロも入れ替わっているように見えます。しかし、権力機関は国際も国粋も同じです。原発事故があろうと、その解決の見通しがなかろうと、どれだけ放射能が拡散しようと、被爆被害がどれだけになろうと、人々が自殺しようと、どうだっていい。何があろうと、何人死のうと原発は「安全」。その推進は「必要」。検討・議論・対策「以前」にとにかく原発推進ありき。国際原子力機関IAEAの天野事務局長は、3月に菅首相に情報公開を求めたり、専門家(しかし結構いいかげんな)調査チームを派遣して、独自に放射線量を測定させたりして、どこまで退廃を極めるかわからないわがニッポン政府のお目付け役になりそう、なんて思ったら大間違い。こちらもまた同じ原子力のムジナです。彼らが国際機関とやらでどんなお話をしているのか、よくわかる例があります。国際原子力機関IAEA・天野事務局長の、4月4日、ウィーンでIAEA原子力安全条約再検討会議における「ご挨拶(原文こちら)」です。以下、対訳でご紹介しましょう。とにかく何が何でも原発推進というIAEAの性格があまりに臆面もなく明らかです。

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ご列席の紳士淑女の皆様、(原子力推進の)お仲間の皆様、
Ladies and gentlemen, Dear Colleagues,

 ・・・・・・福島第一原子力発電所の現状は依然としてきわめて深刻です。当面最優先すべきは危機の克服と原子炉の安定化です。しかしわれわれは反省と評価の プロセスも始めなくてはなりません。
The situation at Fukushima Daiichi remains very serious. The immediate priority is to overcome the crisis and stabilise the reactors. But we must also begin the process of reflection and evaluation.

 世界中の何千万、何億もの人々が原子力エネルギーの安全性に対して懸念をもっているということを真剣に受け止めねばなりません。もっとも厳しい 国際安全基準を遵守すること、またいいときも悪いときも徹底した透明性を確保すること、それが原子力エネルギーに対する一般の信頼を取り戻し、維持するために不可欠であります。
The worries of millions of people throughout the world about whether nuclear energy is safe must be taken seriously. Rigorous adherence to the most robust international safety standards and full transparency, in good times and bad, are vital for restoring and maintaining public confidence in nuclear power.

 福島第一の事故に照らして、原子力エネルギー計画の見直しを発表した国々があります。
In the light of the Fukushima Daiichi accident, some countries have announced reviews of their plans for nuclear power.

しかしながら、原子力エネルギーに対する関心の背景にある基本的要因は、福島の結果、かわっておりません。世界のエネルギー需要の増大、気候変動 に対する懸念、不安的な化石燃料価格、エネルギー安全保障などであります。
However, the basic drivers behind the interest in nuclear power have not changed as a result of Fukushima. These include rising global energy demand as well as concerns about climate change, volatile fossil fuel prices and energy security.

 原子力エネルギーはエネルギー供給の拡大に貢献し、温室効果ガスその他の排出削減も行ってきました。
Nuclear power has contributed to expanding the supply of energy and has also reduced greenhouse gas and other emissions.

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福島がまだまだこんなに大変なときに、そしてその困難に終わりが見えないとき、国際原発推進機関IAEAではこんな話をしてるのだ。この人たちの「反省と評価」は、福島の事実を隠し、福島の人々の苦しみを無視し、福島の教訓から出発しようとする私たちを押しつぶそうとすることなのだ。

では、この天野「原発推進演説」を日本のメディアはどう紹介したか。記事は読売朝日毎日にあった。読売の記事は会議が事故対策に終始したような印象を与える。朝日・毎日は、原発の「安全」(みんなうそだったんだぜ)に取り組むIAEAの姿を伝える・・・。いずれもIAEA&天野発言の最重要ポイント、すなわち、原発推進は「福島の結果、かわっておりません」というポイントを伝えていない。原発推進を「見直した」国を非難していることを伝えていない。

『今回の事故を教訓とし、世界的に原発の安全対策強化を目指すことで一致した。』

と朝日新聞の記事は言うが、この文に「原発推進を前提にしつつ」と加えることは何の造作もないことではないか。

『天野之弥IAEA事務局長は冒頭、「極めて深刻な状況が続いている」との見方を示した。「原子力への信頼の回復と維持には、安全基準の厳守と完全な透明性が欠かせない」とも指摘。
事故の「反省と評価を始めなければならない」とも述べ、原発の安全性について本質的な改善に取り組む決意を示した。』


という毎日新聞は、「反省と評価」があたかも「原発の安全性」に集中しているかのような誘導をしているだけに、より悪辣だ。IAEA&天野氏の「反省と評価」は原発推進をいっそう推し進めるための、その限りでの「反省と評価」である。原発の本来的な非合理性、抜きがたい危険性についてはどんな「反省」もなされていない。彼らの「評価」とは、原発推進のためには事実をゆがめ、隠蔽し、倒錯した論理で私たちに「被爆を強制する」評価である。被爆量限度のなし崩し的なせり上げなど、そんな「反省」と「評価」に私たちは、今、放射線と同じように日々されされているのだ。

大手メディアの報道から、IAEA・天野氏が、「みんなうそだったんだぜ」の総元締めの大ムジナであることが伝わるだろうか。上で対訳した天野氏の原発推進演説は、記者の皆さんにも行き渡っていないわけがない。そこから、何が何でも「原発大推進」の一点を隠さなくてはならないとは、いったいどうしてなのだろう。








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