福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

被ばく住民のストレステスト:放射線よりストレスがこわいことを、オレたちがしんそこわからせてやる!

2011-06-17 19:46:04 | 新聞
放射線被ばくとその健康被害の現実を隠し、意識下に押し込めてしまう方策が「心理的影響」の援用だった。チェルノブイリで使われて以来、世界原子力マフィア公認の高度消費社会にふさわしいごまかし言説を毎日新聞は忠実になぞっている。

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『子供たちの心身に、不調が見え始めている』とはじまるこの記事では、その理由として『ストレス』が強調される。3月11日以来、異常な放射線の放出下に置かれている福島の学校で、もし『保健室を訪れる児童も目立つ』あるいは『発熱などで早退する子が増えている』という事態が観察されたら、ふつうは放射線の影響に考えが及ぶ。しかし、毎日の記者は違う。

『外で遊べないストレスが募って保健室を訪れる児童も目立つ。・・・・発熱などで早退する子が増えている。・・・「子供のストレスが高まっているのだろうか」と心配する。』

とストレス以外の要因を考慮する姿勢すらない。全文549字の小記事内に「ストレス」という語の登場5回。109字に一回「ストレス」の4文字に出会うことになる。やっとストレス以外の要素が登場するのは、記事の終わり403字目のあとであり、しかもこれも結局は心理的要因を強調するための前ふりである。

『放射線による直接的な健康被害の程度はまだ不明だが、86年に起きたチェルノブイリ原発事故では、ストレスによる健康被害も報告されている。』

放射線被害の方はよくわからないが、ストレスによる健康被害は確実だ、と毎日は示唆している。文科相の国会答弁が示すように、「放射線よりも」それを恐れる「ストレス」が健康被害を与えるというのは、我が国の公式見解である。この記事を書いた毎日の記者二人は、署名記事の履歴を見ると、ほとんどこれが全国版へのデビューである。他の地方ドサ回り記者を押しのけて、原発がくれたチャンスをものにしたのだろうか。そして、そんな彼らの「意気込み」が政府見解やヒロシマ&ナガサキのマッドドクターたちの雄叫びに呼応する過剰反応を生み出したのだろうか。

ところで、ストレスと言えば、NHKは6月14日に、『仕事上のストレスが原因で自殺やうつ病などに追い込まれたとして、昨年度、労災と認定された人は、これまでで最も多い308人に上った』と報じた。なるほど、ストレスは死に至る病である。では、職場でのストレスで殺されてしまわないためには、どうしたらいいか。そのために必要な力が、経産省が、よい子の若者たちに推奨する「ストレスコントロール力」の育成である。これはストレスに耐える強い精神のことではない。そんな時代遅れのマッチョ体質ではこの千変万化な表象文化時代の心理を生きられない。ストレスコントロール力とは、自分にのしかかってくる死に至るストレスをポジティブな気持ちで受け入れ、マイナス思考を脱して『「辛い」「大変だ」「なんでこんなことに」』などと『クヨクヨ考えないようにしましょう』という、日々原発エネルギーを使った生産活動にまい進するよい子のココロを多重防護で守り抜く魔法のような力なのだ。

こういう魔法の力を放射線被ばくにも適用しなくてはいけない。そうおっしゃるのは、老舗ブランドHIROSHIMA®&NAGASAKI®にやや遅れはとるものの、公衆衛生や薬害分野における棄民政策の立役者を多く排出した(あの重松逸造先生もうちの先輩です)東大医学部の誇るマッドドクター、ご存じ中川恵一先生である。毎日新聞は、3月以来、この悪名高い先生の起用を一時自粛していたようだが、今は「夏までにどうしても原発再開」キャンペーンまっさい中だから、もうなりふり構わず(先生の著書の無料配布すら行っている)再登場を願ったらしい。期待にたがわず、われらのマッドドクターはいきなり、こうぶちかます。

『放射線被ばくの試練、プラスに』

『「死ぬつもりがない」といった歪(ゆが)んだ死生観』を持つ日本人は、放射線被ばくでガンになれば、『がんになって人生が深まったと語る人』の仲間入りができる。放射線を自分が現実に被ばくしているという『リスクを見つめ、今を大切に生きることが、人生を豊かにする』。「辛い」「大変だ」「なんでこんなことに」などとクヨクヨ考えていてはいけない。だから先生は、『日本人が、この試練をプラスに変えていけることを切に望』まれるのである。

被ばく住民を破裂するまでストレステストにかけるマッドドクターたちのストレスコントロール力養成法は、以下のような心理暴力のプロセスを経る。

1.放射線の実害よりもそれを恐れるストレスが健康を害することをたたき込む(この時点で、放射線自体への対策は不問となる)。
2.放射線を恐れるストレスを低減するには、放射線を恐れない態度、放射線下でも風評被害に負けない普通の生活を断行することだけで十分、というポジティブな態度を教える(この時点で、放射線防護対策の不備は正当化あるいは推奨される)。
3.ポジティブな態度をなかなか身につけられない落ちこぼれたちに対しては、「放射線を恐れる」態度を、「放射線を恐れるな」という社会的共同体的なストレスをかけることで解体する。
4.3の実現のためには、「放射線を恐れるなという共同体的なストレス」は「放射線を恐れるストレス」をうわまわる必要がある。

しかし、悲しいことに、「放射線を恐れるなという共同体的なストレス」に素直に屈することができず、いつまでも「放射線を恐れるストレス」をかかえつづける困り者たちもいる。彼らはあい矛盾する二つの方向からの二重のストレス下に置かれる。こうした二重ストレスのジレンマ、ダブルバインドを示している実例を新聞から拾ってみた。

3月22日、東京金町浄水場で水道水から高濃度の放射性ヨウ素が検出され、都は乳児の飲用を控えるよう求めた。この時の妊婦に対する毎日のアドバイス

『胎児には放射性物質の規制値がなく、都は現時点で妊婦に摂取しないよう呼び掛けてはいない。ある産科医は「現状では水道水はできれば避けるのが望ましいが、ペットボトル入り飲料水が入手できずに強いストレスを感じるなら、その方が母体に悪い」という。』

放射能入りの水道水は胎児のために避けるのが『望ましい』。しかし、胎児のために『ペットボトル入り飲料水が入手』する金と時間と機会と運があるかはお前の責任だ。もし入手できなければ、お前は胎児のために『望ましい』選択をしなかったという、母親失格ともいうべき罪を負う。しかしクヨクヨしてはいけない。もし、お前が胎児のために『望ましい』方策をとれなかったという自責で『強いストレスを感じ』たら、胎児は放射能に加えて、母体へのストレスの影響を受けることになり、最悪だ。だからもし、お前が「ホーシャノーなんてどうーってことないわよ」と居直れたら、お前は胎児のためにストレス除去という胎児な貢献をしたことになる。被ばくの方はしかたない、それは『国民の義務』(ダマシタ長崎大教授)なのだから。

4月30日の東京新聞は、『「親の不安は子どもに伝わる」と話す』小学校校長の談話を引用した後、こう報道した。

『基準値公表前から屋外活動を控えていた福島市の岳陽中は、外での部活動解禁について文書で保護者に尋ねた。百七十六人中、十七人が解禁に反対だったが、後に数人が撤回。同校は「外で運動したい子どもの気持ちを考えたのでは」と話す。』

放射線への不安を強く感じていたに違いない17人の親は全体の10%ほどだ。東京新聞は、この17人のうちのちに反対を『撤回』した『数人』の親に何が起こったか、まともに取材していない。学校関係者は、これらのころび反対派にたいして、誇らしげに『子どもの気持ちを考えた』と言い(つまり反対を続けるものは『子どもの気持ち』を考えていない)、東京記者は、喜々として教員のことばを無批判に引用する。以心伝心・持ちつ持たれつ、教員も新聞記者も権力の意を体して、迷える無力な親たちの屈服をあざ笑う、不敵な冷笑をうかべながら・・・。

6月11日の毎日・山形版は、かの地に避難した住民の方の悲しいエピソードを伝えている。なぜ悲しいか、それは追い込まれてストレスをかけられた無力なものが、集団となってさらに弱いものにストレスをかけている構造がはっきりと見て取れるからだ。福島県相馬市から山形に避難してきた妊娠8カ月で、二人の幼児の母親(夫はのちに相馬に帰った)は、こう語ったそうだ。

『山形での避難が長引くことが、近所付き合いに小さな亀裂を生んでいることを知った。避難後に、相馬市が市民1世帯当たり米10キロと水2リットルを、地域代表を通じて配ることになった。夫が取りに行った時、配給を断られたという。夫によると「お宅は遠くに避難している。地区に残っている人たちで分けるから」との理由だった。何かの行き違いではないかと思うと同時に、「自分は逃げていると思われているのか」と落ち込んだ。』

ストレスを課して放射線被ばくを受け入れさせようとする原発擁護の国家権力・地方権力が、わがニッポンが世界に誇るいじめ社会の自殺文化をフルに活用していることは明らかだ。恐れる奴にストレスをかけていじめる側に回るか、二つのストレスの間で引き裂かれ、重加算された二つのストレスに押しつぶされるか、本当に壊れてしまうまでストレステストを課す気か!


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