福島原発事故メディア・ウォッチ

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チェルノブイリで学ぶ被ばくの強制:福島県チェルノブイリ調査団はなんのためにそこに行ったか?

2011-11-23 17:41:08 | 新聞
東電福島原発の事故後を生きなければならない私たちにとって、25年前に同様の被災をうけたチェルノブイリで起こったことは、大きな教訓を与えてくれる。それには、当地の人々が、結局は自分の命や健康をかけてやっと見えてきた教訓もある。チェルノブイリ事故の現地で医療活動もしたことのある医師・松本市長、菅谷昭氏は中日新聞(東京新聞にも同記事あり)で、チェルノブイリ周辺では、甲状腺障害以外にも、免疫系や造血系の障害、早産や未熟児の増加など『国際放射線防護委員会(ICRP)が認めているデータでは』ない健康被害が生じていることを指摘し、『基準は厳しいほどいい』と主張している。『結局はチェルノブイリでこれから何が起きるか、長期にみていくしかない』と・・・。

ところで、『今月、福島の人たちがチェルノブイリに行って調べたと聞いています』と、菅谷氏も指摘するように、『県内の大学、自治体関係者らを中心とするベラルーシ・ウクライナ福島調査団は10月31日午後』現地に出発した(文末『参考記事』)。この調査団のメンバーは『地方財政論が専門の清水修二福島大副学長が呼び掛けて結成。川内村の遠藤雄幸村長のほか南相馬市の除染担当者、浪江町の町議、県職員、農協や森林組合の関係者ら30人』で、その目的は『除染の進め方のほか、避難した住民の帰還や農業の再生などについて意見交換』するのだそうだ。菅谷氏の希望とは裏腹に、この調査団の調査の目的には、住民の被ばくや健康被害、食品の汚染やその対策、などは入っていない。

たとえば、川内村の遠藤村長さんなどは『避難を余儀なくされた住民がどのようなタイミングで帰宅したかのなど、チェルノブイリから学ぶべきことは大きい』など、これも菅谷氏が上の記事で『国策として、学童などに対し一定期間の集団移住を検討することも必要なのではと思います』というのとは、だいぶ異なる(いや、真っ向から対立する)調査のモチベーションを語っておられる。

このあたりから、この「調査団」の本当の意図=本性があらわれてくるが、それもそのはず、調査団には、佐藤雄平・福島県被ばく強制知事に率いられた幹部職員、『県の小山吉弘原子力安全対策課長、松崎浩司復興・総合計画課長も調査団の一員になっている』し、大体、『福島の未来に役立てるよう調査してきたい』という団長の専門が『地方財政論』だから、彼らがどんな未来を考えているか、お里が知れるというものだ。

テレ朝の報道によれば、彼らは、到着早々、現地の同業者官僚とこんなやり取りをしている。 
『福島県川内村・遠藤雄幸村長:「私のところも3月に(村へ)戻りたいと思っています。空中線量が毎時1マイクロシーベルト以下です」
 政府放射線防護委員会代表:「(空中)線量の値だけで、避難するか戻るかを判断すべきではないと思います」』

で、線量ほかに、何を考慮すべきなのか、あちらの政府の代表さんは何もおっしゃってくれない。これは、たとえ、『3月に』と最初から期限を決められている住民の帰還時に、(多少)線量が高くても構わないでしょうという、川内村村長さんへの応援メッセージ以外の何物でもない。うちもあの時は、だいぶ苦労しましたから、村長さんのお気持ちは身に染みてわかります・・・ごもっともです、と。

翌日2日、調査団は、『ベラルーシの国立放射線学研究所を訪れ、農業の現状について意見交換した』。そこで、所長から、『「農地の表土を削って除染すると、土地の肥沃度が下がってしまい農地として使えなくなる」と、・・・農地の除染に懐疑的な考え』を聞かされる。この所長は『「農地を死なせず、内部被ばくを防ぐことが重要で、高濃度の汚染地域では食料とはしない作物を作付けすることが大事だ」と強調』したという。これこそ、調査団が言ってほしかったこと、チェルノブイリ惨劇から命がけで得た地元の人々の苦渋に満ちた叡智ではないか。だから、これを聞いた『清水修二福島大副学長は・・・「われわれがこれからやらなければならないことについて明確で具体的なヒントが得られた」と話した』

農地の除染はやめましょう。それは農地にとって、したがって農家にとっても、死を意味します、という「説得」は、土地づくりにそれこそ命を懸けてきた(春に自殺してしまった農家の方の言葉が思い出される)農業者に重く響くだろう。そうやって正当化される不作為は、強引な日常性の回復を図る佐藤被ばく強制知事やその手下たちにとって好都合だし、『痴呆財政』にとっても健全な効果を発揮するだろう。

しかも、不作為にとり残され、しびれを切らした農家が、『除染待てず田起こし』という行為に出れば、状況はますます錯綜し、結局は、何をしたらいいのか、何をすべきなのか、何ができるのか、わけがわからなくなり、そうした混乱がもたらす無力感とあきらめが、『線量の値だけで・・・判断すべきではない』という「いつものフクシマ」路線の受容を準備する。

『汚染は表土近くに集中し適切に除染すれば安全な農地に戻るが、混ぜると放射性物質が拡散、除去が困難になり汚染長期化の恐れもある』という田起こしについて、農水省は『実際にそうした耕作が可能なのか確認はしていない』が、『田起こしをして下の土に放射性物質が混じっても根さえ汚染土に触れないよう深く耕せば、問題ないのではないか」と、静観の構え』という。こうして、国家や地方権力は、不作為から、堂々たる居直り的被ばく強制に向かってゆくが、この時、遠くチェルノブイリの地から、研究所の所長さんが、わが農水省の『担当者』応援をする。

『福島の未来に役立てるよう調査してきたい』
意気揚々と出発した調査団の役割は、こうしてみると無残なまでに明らかなのだが、「チェルノブイリの教訓」をめぐっては、福島だけではなく、中央政府も動き出している。10月31日の中日新聞によれば、

『政府は30日、旧ソ連時代の1986年にチェルノブイリ原発事故が起きたウクライナの日本大使館について、原子力分野の専門職員を増員するなど態勢を拡充する方針を固めた。大使館を拠点に、原発事故後の立ち入り制限区域の管理や放射性物質の除染、内部被ばくへの対応について情報収集を強化。東京電力福島第1原発事故で直面する日本国内の問題解決に役立てる意向だ』


と、『当面約2億円』の経費をつぎ込み、『6人の職員増・・・うち2人はこれまで配置していなかった原子力分野が専門の日本人スタッフ』を配置して、いよいよチェルノブイリ情報の本格的な管理にのりだしたことを伝えている。というのも『ウクライナは事故後、土壌の除染や内部被ばくによる小児甲状腺がんの治療に取り組んでおり「知見やデータの蓄積は相当なもの」(外務省幹部)とされる』からだが、この知見やデータが、菅谷氏が言うように『基準は厳しいほどいい』という方向に利用されないようにすることは外務省の任務だし、そのためなら2億円程度の予算はどうにでもなる。

しかし、中日(東京)新聞に載った菅谷氏のインタビューを読んで、わたしは、これだけの経験をもち、この地位にもあろう方が、福島県の調査団の性格や本当の意図に気づいておられないかのようなコメントをなさっているのに、驚いた。『もっと早く行くべきでした』と。

最後に、この件に関する福島民報の報道を見てみよう。この件に関するこの新聞の特徴は、「おとぼけ」である。川内村長が、住民帰還に向けて「人は線量のみにて死するにあらず」発言を引き出したやりとりを、民報はただ、
『遠藤雄幸川内村長は住民の帰還に向けた放射線量の基準を質問した』
と記述した。農地除染のアドバイスに関しても、民報はただ、問題の研究所を視察すると報じたのみだった。

==参考記事==
日経:2011/10/30 20:46
福島の研究者・首長ら、チェルノブイリへ調査団
 1986年に発生したチェルノブイリ原発事故後の除染や現状を調べ、東京電力福島第1原発事故からの復興に役立てようと、福島県内の研究者や首長、自治体関係者らを中心とする調査団が31日午後、ウクライナや隣国ベラルーシに向け出発する。
 現地で約1週間にわたって旧原発施設のほか、事故対策を担当する行政機関や放射線に関する研究機関、中学校、病院などを視察する。
 調査団は、地方財政論が専門の清水修二福島大副学長が呼び掛けて結成。川内村の遠藤雄幸村長のほか南相馬市の除染担当者、浪江町の町議、県職員、農協や森林組合の関係者ら30人が参加した。
 現地では、事故当時の対応や除染の進め方のほか、避難した住民の帰還や農業の再生などについて意見交換する予定。
 清水氏は「チェルノブイリ事故の後、どのような活動が展開され放射能汚染に対処したかを学び、今後の行動の指針にしたい」と話している。

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