福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

土壌汚染とチェルノブイリ移住基準:148万ベクレルと55万5千ベクレルどっちがほんと?

2011-08-31 11:44:57 | 新聞
文科省が東電・福一原発事故で拡散した放射性物質による土壌汚染の状態を調べた地図をやっと公表した。6月から7月にかけて福島県を中心に2200余りの地点で測定したものだそうだが、公表がこれほど遅いのは、汚染が目立たないような地図作りとか、公表後の「世論対策」とか何らかの操作・時間稼ぎを疑わざるをえないが、驚いたのは汚染地図の結果を報道するマスコミの、こちらは隠れもない情報操作。論理的に虚偽と断定される線をぎりぎりで避けながら、私たちがまちがった理解をするように画策している。汚染地図で明らかになった高濃度汚染地区の放射能レベルとチェルノブイリ事故時の『避難』基準との比較についてである。

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読売新聞は、

『警戒区域や計画的避難区域で、チェルノブイリ原発事故での強制移住基準(1平方メートル当たりの放射性セシウム137が148万ベクレル)を超える汚染濃度が測定されたのは、6市町村34地点に上った。』

彼らが基準とするのは『148万ベクレル』で、このレベルを超えたのが『警戒区域や計画的避難区域』の中にある『6市町村34地点』である。
ところが、朝日新聞によれば、

『チェルノブイリ原発事故では、55万5千ベクレルを超えた地域は「強制移住」の対象となった。今回の調査では、この値を超えた場所は約8%に上った。多くは警戒区域や計画的避難区域などに指定されている地域だが、福島市や本宮市、郡山市などの一部でも超えていた。』

朝日の基準は『55万5千ベクレル』。これを超える地点は、警戒区域や計画的避難区域のそとにある『福島市や本宮市、郡山市』にも存在する。

これはいったいどういうことなのだ、読売と朝日とどっちが正しいのだ?大マスコミなんぞあてにならない。自分で調べるしかないではないか!

チェルノブイリ事故後の状況を詳細に記述した今中哲二編:『チェルノブイリ事故による放射能災害』(技術と人間)には、事故当事者各国の汚染ゾーンの定義がのっている(注1)。そこから、土壌汚染と移住の関係を確かめてみよう。(土壌汚染密度はセシウム137のみ引用)

○ウクライナ(48ページ参照)
1.避難(特別規制ゾーン)=1986年に住民が避難した地域:土壌汚染密度の定
義なし。
2.移住義務ゾーン:55万5000ベクレル/m2(15キュリー/km2)以上。
3.移住権利ゾーン:18万5000~55万5000ベクレル/m2(5~15キュリー/km2)。
4.放射能管理強化ゾーン:3万7000~ 18万5000ベクレル/m2(1~5キュリー
/km2)。

○ベラルーシ(62ページ参照)
・無人ゾーン:1986年に住民が避難した、チェルノブイリ原発に隣接する地域
・移住義務(第一次移住)ゾーン:148万ベクレル/m2(40キュリー/km2)以上。
・移住(第二次移住)ゾーン:55万5000~148万ベクレル/m2(15~40キュリー
/km2)。
・移住権利ゾーン:18万5000~55万5000ベクレル/m2(5~15キュリー/km2)。
・定期的放射能管理ゾーン:3万7000~18万5000ベクレル/m2(1~5キュリー/km2)。

○ロシア(74ページ参照)
・無人ゾーン:1986年と1987年に住民が避難した地域。
・移住ゾーン:55万5000ベクレル/m2(15キュリー/km2)以上。
・移住権利のある居住ゾーン:18万5000~55万5000ベクレル/m2(5~15キュリー
/km2)。
・社会経済的な特典のある居住ゾーン::3万7000~18万5000ベクレル/m2(1~5
キュリー/km2)


一目瞭然。『移住(義務)ゾーン』の基準は、ベラルーシの『第一時移住』以外は、55万5000ベクレルである。しかもそのベラルーシにしても、『第二次移住』の基準は55万5000ベクレルとなっている。まず、線量の極度に高い148万ベクレル地域の住民を移住させ、次いで、他国同様、55万5000ベクレル地域の住民も移住させるということだ。つまり、一次・二次とかの限定を外して、「移住ありか、ないか」という点に注意すれば、チェルノブイリ事故後の移住の基準は、朝日新聞の言うとおり、『55万5000ベクレル』としなければならない。読売新聞は、関係する数値の中で、一番高い『148万ベクレル』に飛びついた。この数値が『チェルノブイリ原発事故での強制移住基準』であること、少なくともその一部であることは虚偽とは言えない。しかし、これを採用したベラルーシに、他国にはない『二次移住』というものがあり、そこでは『55万5000ベクレル』が採用されている、という事実を隠してこの『基準』を提示することは、論理的な虚偽はまぬかれても、悪質な情報工作、事実隠ぺいと大衆操作の意図についてはどのような弁解もできない。

さて、汚染地公表の報道はNHKにもあった。

『チェルノブイリ原発事故の場合、1平方メートル当たり55万5000ベクレルを超える区域で一時的な住居の移転が求められましたが、今回の調査では、こうした地点が、福島市や二本松市など、警戒区域や、計画的避難区域以外の地域にも広がっていることが分かりました。』

チェルノブイリ事故後の移住基準を『55万5000』としているところは、マスコミ界のゴロツキ、読売新聞とは一線を画しているようだが、公共放送のしらじらしい鉄面皮は、高濃度放射能汚染による移住を、『一時的な住居の移転』とお上品に表現する。住居永久移転のばあいでも、まずはとりあえず『一時的な住居の移転』がおこる。だから、ここでもNHKは論理的な虚偽を報道したことにはならない。しかし、『一時的な住居の移転』は、一時が経過した後は元の住居にもどるという含意がある。チェルノブイリ事故後の移住にはそのような「約束」はない。たしかに当局の禁をおかして元の住居にもどった人がいたらしいことは報道されている。しかしこのような事態を指して『一時的な住居の移転』とはどうしても言えないだろう。

読売といい、NHKといい、「どうせわからないだろう」という私たちおバカな大衆をなめきった国家権力プロパガンダ機関の傲慢さに満ち満ちている。読売購読即刻停止はもとより、NHK受信料の払い込みも拒否しよう(注2)。

こんな瞞着情報に、どうして金を出さなくてはならないのだ!

注1.
今中哲二編:『チェルノブイリ事故による放射能災害』(技術と人間)は残念ながら品切れ。出版社ももう存在しないとなっては入手は絶望的だが、以下のサイトで一部閲覧できる。

チェルノブイリによる放射能災害国際共同研究報告書 

また、今中哲二氏の報告もPDFでみられる。チェルノブイリ事故後の避難基準は、このPDF文書の6ページ(テキスト印字の80ページ)でみられる。

注2.
NHKに抗議すると同時に、受信料不払いも宣告してやろう。

日本放送協会による放送の視聴停止と
受信料支払い停止について(通知)


〒150-8001
東京都渋谷区神南二丁目2番1号
日本放送協会御中

表記の件につきまして、貴協会による福島第一原子力発電所の事故およびその後の原子力発電所の安全確認・運転再開・放射能汚染の報道は、全国紙各紙の報道等と比較しても著しく客観性・中立性を欠き、偏った情報の提示に終始していると考えます。貴協会がきわめて多額の東京電力社債を保有している事実も、客観的報道を阻害する要因であると考えます。

以上の理由で、今後貴協会による放送の視聴を停止することとし、受信料の支払いを、本日をもって停止することいたしましたので通知します。この件に関しまして、NHK地元放送局職員による訪問は、固くお断りして一切応答いたしませんので、その点おまちがいのないようご対応願います。

当方は、XX年近くにわたって、貴協会の番組を視聴し、受信料を支払い続けてきたものです。一日も早く、正確で誠実な情報提供を旨とする、従来の正常な報道姿勢を取り戻していただくよう、要望いたします。

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