福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

毎日新聞編著、放射線被爆「心配なし」デマゴーグ列伝

2011-04-05 17:40:29 | 新聞
毎日新聞の暮らしの放射線リスク論(末尾の資料2参照)を読むと、この新聞とそこに登場する専門家たちが、私たちを守ってくれようとしている人たちではないことがはっきりわかる。記事は言う:


『日本の法律では平常時の1ミリシーベルトしか定められていないが、広島・長崎の被爆者やチェルノブイリ原発事故の被災者への調査などから、専門家の多くは 「100ミリシーベルト以下であれば、健康への悪影響を示す明確な証拠はない」との立場だ。』

そう、だから「100ミリシーベルト以下であれば、健康への悪影響はない、という明確な証拠もまたない」のである。しかし、

『ICRP委員を務める甲斐倫明・大分県立看護科学大教授は 「100ミリシーベルトを超えたからといって、急に危険になるわけでもない」と話す。』


というわけで、こんどは、「100ミリシーベルトを超えたからといって」どうということではないことになり、健康への悪影響の指標として「100ミリシーベルト」を、3月11日以来(毎日新聞も含めて)さんざん言及してきたことが、一気に無化されてしまう。100ミリシーベルトがはるか上の値のように感じられていた間は、それを使った。しかし、現場で「1,000ミリシーベルト以上」(「以上」を忘れるな!-注)の水がダダ漏れになっているのがみつかって数日、茨木沖のコウナゴは、基準すらない(つまり「想定外」)程度まで汚染されていたことがわかってくると、どうやら「100ミリならだいじょうぶ」という語り口の効果が減ってきているのか。( 注:過去記事「1,000以上あるというのは、1,000よりも多くあるということ」および「このままづっと「1,000以上」?:読売・朝日・毎日・産経・NHKみな同じ」参照)。

それに、数値を用いなくても、「経験上」、健康上の問題がないのがわかるのだそうだ。いったいどんな経験なのだ?

『ドイツ近現代史が専門の鍋谷郁太郎・東海大教授は、チェルノブイリ原発事故の発生時から1年半を留学先のミュンヘンで過ごした。雨で放射性物質が土壌を汚 染し、地方政府が地元産の食材をなるべく食べないよう呼びかけ、社会はパニックに。「テレビ番組で市販の食品に放射線測定器をかざし、針が振り切れた場面 は目に焼き付いている」。だが半年以上過ぎると、みな地元の食材を食べていた。25年たった今、鍋谷教授も現地の知人、子どもたちも元気で「経験上、神経 質になる必要はない」と学生たちに話している。』

鍋谷先生や先生のドイツのお友達は、「針が振り切れた」たほどの放射線量を示す地元産食材を、地方政府の勧告にさからって食べていたのか?もちろん避けていただろう。「半年以上過ぎると、みな地元の食材を食べ」はじめたとき、「地方政府」は食品の放射線量チェックをしていなかったのか。もちろんしていただろう。そしてその結果を鍋谷先生や先生のお友達は「神経質」にフォローしていたのではなかったのだろうか。もし「 25年たった今、鍋谷教授も現地の知人、子どもたちも元気で」いることができるとしたら、それはこうした地方政府の「呼びかけ」と住民の注意(=「神経質」)、いわば「社会のパニック」のおかげではなかったのか。チェルノブイリなんて関係ありません。汚染された食品を食べても問題ありません。神経質になる必要はありません、と、当時のドイツ地方政府が、いま毎日新聞や鍋谷先生や、この記事に現れる他の諸先生方のように言っていたらどうなっていただろう。はたして、その25年後に、「現地」の「子どもたち」は元気でいることができたろうか?いま私たちが気にしているのは、わがニッポンの当局がドイツの地方政府くらいに効率的・誠実に、今後長引くことが予想される放射線被爆について適切な措置を取れるかどうかだ。第一の「効率」の面に関しては、原発事故対策のふてぎわぶりを見てもすでに否定的な答えが出ている。第二の「誠実」の面に関しても、毎日新聞の懸命な棄民的情報操作&安心キャンペーンにもかかわらず、私たちの不信・不安は日々高まっている。(それにしてもこの先生、ミュンヘンでどんなドイツ現代史をお勉強なさったのだろう。まさかナチスドイツの情報操作なんてのがご専門ではないでしょうね。)

専門知識ではなく、やはりなんとなくの経験則に訴えるのは「組合員の生活と安全を守る」はずだった生協の参与さんだ。しかもこちらは、商人としての経験ですから、話が「売る側」のロジックに貫かれるのも無理はない。

『現実には規制値を超えた食品ばかりを1年間食べ続けることは考えにくく「率直に『健康上問題になるレベルではない』と言うべきだ」(伊藤潤子・生活協同組合コープこうべ参与)などの指摘もある。』


「現実には規制値を超えた食品ばかりを1年間食べ続けることは考えにくく」・・・、これはそうとも言えない。汚染除去が停滞し(IAEA、内閣補佐官、民主党の有力者などが悲観論を展開している)、それにともなって現在の規制値を「見直し」たりすれば、現状の規制値レベルを超えたものを食べ続けることになるかもしれない。それに、規制値(もしくは見直されて引き上げられた規制値)はクリアしたが、それに近くまで汚染されている「食品ばかり」を安値で仕入れて、利益を優先させる業者も現れかねない。そんなところで、定期購入などで習慣的に買い物をしている人がいたら、その人のリスクは増すだろう。(言うまでもなく、大気や水など他の汚染源から取り込まれた分の累積も考慮しなくてはならない。) 伊藤氏の「率直な」ご提案は、いまや誰も信じない事故の「早期解決」でもない限り、現実的ではない。そして、そんな現実を無視したご提案をなさるのは、お客様の「健康」や「安全」よりも、通常の流通が彼女らにもたらす経済的利益を優先させたのだと、率直に思わざるをえない。

それでは、個人的な思い込みや記憶違い、はては経営的利害が絡まない客観的な科学の観点から、放射線被爆はまったく「心配なし」という論証をお願いしましょう。

『ところで現在検出されている汚染レベルの食品をどれくらい摂取し続けると基準に達するのか。放射線医学総合研究所の米原英典氏に試算してもらった。暫定規制値に達した食品はそもそも出荷されていないため、規制値の半分以下の放射性物質が検出された飲料水、牛乳、野菜を大人の標準的な摂取量で 計算。(1)放射性ヨウ素50ベクレル(1キログラムあたり)の水2リットル(2)50ベクレル(同)の牛乳0・5キログラム(3)1000ベクレル (同)の野菜0・28キログラム--を摂取した際、1日で体内に取り込まれる放射性物質の量は265ベクレル。野菜は洗ったりして口に入る時点で500ベ クレルに減っているものとした。』

結果は見事に、言うまでもなく、絶対的かつ客観的かつ論理的に、また放射線医学の権威に基づいて、

『この量を毎日食べ基準の50ミリシーベルトに達するのは454日後になった。空気を吸い込んだり体に付着することによる被ばくはあるが、放射性ヨウ素は半減期が8日と短く、避難区域以外での影響は長期的に無視できるという。』

引用文中最後の文にある「長期的に」に注意しよう。この結論は、50ミリシーベルトに達するのに、454日もかかるから、仮に影響が出るとしてもそれには長い日数がかかるので、そしてその間には、半減期の短い放射性ヨウ素がだいぶ減るから、(放射線被爆量が、計算の仮定とした量のままならば)長期的な観点からは無視できるものとなる、ということだろう。しかし、最後の文の「長期的に」は、もう一つの解釈を誘発する。すなわち、今後ずっと「長期にわたって」無視できる、という解釈だ。この解釈からは、逆に「放射線被爆量が、計算の仮定とした量のまま」今後変わることがない、という前提が引き出される。誰も認めていない前提、現状では極めて不確かな前提、米原英典氏も毎日新聞も明示していない前提を。

さて、明示的に仮定され、前提された数値はどうだろう。こちらには科学的良心があふれているだろうか。「暫定規制値に達した食品はそもそも出荷されていないため、規制値の半分以下の放射性物質が検出された飲料水、牛乳、野菜を大人の標準的な摂取量で 計算。」・・・食品の出荷規制が完全である、という前提は(私の願望に基づいて!)承認することにしよう。しかし、それでどうして流通しているものが「規制値の半分以下」であると仮定できるのだろう。規制値が出荷規制を正当化するのだから、規制値に満たないものはすべて流通する可能性がある。それを「半分」とは、ずいぶん大雑把な判断ではないだろうか。安全を強弁するときは、「100ミリシーベルトを超えなければ安全」というふうに、絶対的な限界点を設定し、したがって99なら安全と言い切る放射線医が、危険を推計するときには規制値ぎりぎりという値を採用しないことの矛盾と詭弁。
同じような科学的不誠実の例として「1000ベクレル (同)の野菜・・・・野菜は洗ったりして口に入る時点で500ベ クレルに減っているものとした」という仮定がある。しかし、暫定規制の枠組みでなされる放射線量の計測は野菜を「流水で洗った後」でなされる(過去記事「基準の基準を満たさぬ基準付記2」および引用の朝日新聞記事参照、厚労省の通達も以下の資料1でテキストで提示する)。すでに流水で洗った後で1000ベクレルを示す野菜を、「洗ったりして」500ベクレルに減らすことができるのか。そうした実験結果でもあるのか(やる気になれば、放射線医学総合研究所などでわけもなくできる実験だろう)。そして、原発擁護御用学者の「腹黒」さ(忌野清志郎)をいかんなく示しているのは、「洗えば減る」と示唆することで、野菜の計測が洗浄後になされているという事実自体をも隠蔽していることだ。

ここまで来れば、毎日新聞がこれほどはっきりと瞞着の意図を持つ人々を集めたのは、毎日新聞の新聞社としての意図であることがわかる。しかし、トリを飾るべき大事な人物を忘れてはならない。終末ドクター中川恵一・東京大付属病院准教授先生(肩書きが前は緩和=終末ケアだったのが今回は(放射線医学)となっている、放射線障害による終末のケアが専門なのだろうか)にもぜひ一言お願いしなくては。甲状腺がんのリスクについて、わがニッポンはチェルノブイリではないというご指摘である。

『中川恵一・東京大付属病院准教授(放射線医学)も「チェルノブイリ周辺はヨウ素を含む食物が少なく、子どもたちの甲状腺が『ヨウ素の飢餓状態』だった。海藻などを普段からよく食べる日本人とは違う」と指摘する。』

おお、見よ!神風が吹く!海藻に鍛えられた偉大なニッポン人の甲状腺は、ホーシャノーなんかに負けないのだ!

資料1:

「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」に基づく
検査における留意事項について

今般、平成23年3月17日付食安発0317第3号「放射能汚染された食品の取り扱いについて」において、食品の放射能汚染にかかる食品衛生法第6条第2号の該否にかかる暫定規制値を示すとともに、検査に当たっては、標記マニュアルを参照し実施するよう通知したところです。当該暫定規制値については、原子力安全委員会により示された指標値を用いており、当該指標値は、調理され食事に供される形のものに適用されるものとされていることから、同マニュアルに基づく検査を行う場合は、下記に留意の上、実施するようお願いします。



野菜等の試料の前処理に際しては、付着している土、埃等に由来する検出を防ぐため、これらを洗浄除去し、検査に供すること。
なお、土、埃等の洗浄除去作業においては、汚染防止の観点から流水で実施するなど十分注意すること。


資料2:
東日本大震災:暮らしどうなる?/16 放射線リスク、現状は低く(毎日jp)
 ◇発がん性の増加率わずか 流通する食品、心配なし

 福島第1原発の事故は収束の見通しが立たず、環境中に放出される放射性物質への心配はしばらく続きそうだ。農作物への風評被害やミネラルウオーターの買いだめが問題となっているが、背景には放射性物質のリスクが十分理解されていないこともある。今知っておきたいことを専門家に聞いた。

 放射線はたばこや紫外線と同様に遺伝子を傷つけ、発がんのリスクを高めるとされている。国際放射線防護委員会(ICRP)は自然界や医療行為によるもの以外の人工的な被ばく限度について、平常時は1ミリシーベルト、事故などの緊急時は20~100ミリシーベルト、復旧時は1~20ミリシーベルトとしている。

 日本の法律では平常時の1ミリシーベルトしか定められていないが、広島・長崎の被爆者やチェルノブイリ原発事故の被災者への調査などから、専門家の多くは「100ミリシーベルト以下であれば、健康への悪影響を示す明確な証拠はない」との立場だ。ICRP委員を務める甲斐倫明・大分県立看護科学大教授は「100ミリシーベルトを超えたからといって、急に危険になるわけでもない」と話す。

 国立がん研究センターがん対策情報センターの祖父江友孝がん情報・統計部長によると、100ミリシーベルトに短期間に被ばくした場合の発がんリスクはそうでない時の1・06倍。短期間に浴びると体内での遺伝子の修復が間に合わないが、同量を長期間かけて浴びた場合は修復機能が働き、リスクはさらに低くなるという。

 もちろん危険性がゼロではない以上、被ばく量はできるだけ少なくするのが望ましい。ただし、日本人の50%ががんになる時代であると考えれば、放射線によるリスクの増加率は極めて小さい。

      *

 ドイツ近現代史が専門の鍋谷郁太郎・東海大教授は、チェルノブイリ原発事故の発生時から1年半を留学先のミュンヘンで過ごした。雨で放射性物質が土壌を汚染し、地方政府が地元産の食材をなるべく食べないよう呼びかけ、社会はパニックに。「テレビ番組で市販の食品に放射線測定器をかざし、針が振り切れた場面は目に焼き付いている」。だが半年以上過ぎると、みな地元の食材を食べていた。25年たった今、鍋谷教授も現地の知人、子どもたちも元気で「経験上、神経質になる必要はない」と学生たちに話している。

 チェルノブイリ事故で放射線との因果関係が明らかになっているのは、子どもの甲状腺がんの増加だけとされる。人間の甲状腺には甲状腺ホルモン生成に必要なヨウ素を集める性質がある。放射性ヨウ素に大量被ばくすると甲状腺がんのリスクが高まるが、日常的に海藻類などを食べて通常のヨウ素で満たされていると、放射性ヨウ素を取り込む余地が少なくなる。

 子どもの甲状腺は特に放射性ヨウ素の影響を受けやすい。国立がん研究センターの中釜斉・研究所長代理によると、15歳未満が体外から1000ミリシーベルト被ばくした場合のリスクは15歳以上の7・7倍。

 ただし、同センター中央病院の伊丹純・放射線治療科長は「今回はチェルノブイリとは違う」と冷静な対応を求める。伊丹医師によると、チェルノブイリでは高濃度に汚染された牛乳を飲み続けたことが原因とされるが、日本では汚染された牛乳は出荷されていない。中川恵一・東京大付属病院准教授(放射線医学)も「チェルノブイリ周辺はヨウ素を含む食物が少なく、子どもたちの甲状腺が『ヨウ素の飢餓状態』だった。海藻などを普段からよく食べる日本人とは違う」と指摘する。

      *

 福島第1原発の事故後に厚生労働省が策定した暫定規制値は、原子力安全委員会の「放射性ヨウ素は年間50ミリシーベルト以下、セシウムは5ミリシーベルト以下なら安全」との見解を引用している。これを基に、さまざまな食品を1年間食べ続けてもこの上限に収まるよう定めたのが食品ごとの暫定規制値だ。ベクレルという放射線の強さを示す単位で設定。セシウムの場合は野菜・穀類・肉類が1キログラムあたり500ベクレル、水と牛乳は同200ベクレルだが、これらを平均的に1年間取り続けても基準より低い約4・7ミリシーベルトにとどまる。

 野菜や水道水から規制値を超える放射性物質が検出されるたびに、政府は「直ちに健康への影響はない」と繰り返しているが、「直ちに」という表現が不安を増幅させているとの指摘もある。現実には規制値を超えた食品ばかりを1年間食べ続けることは考えにくく「率直に『健康上問題になるレベルではない』と言うべきだ」(伊藤潤子・生活協同組合コープこうべ参与)などの指摘もある。

      *

 ところで現在検出されている汚染レベルの食品をどれくらい摂取し続けると基準に達するのか。放射線医学総合研究所の米原英典氏に試算してもらった。

 暫定規制値に達した食品はそもそも出荷されていないため、規制値の半分以下の放射性物質が検出された飲料水、牛乳、野菜を大人の標準的な摂取量で計算。(1)放射性ヨウ素50ベクレル(1キログラムあたり)の水2リットル(2)50ベクレル(同)の牛乳0・5キログラム(3)1000ベクレル(同)の野菜0・28キログラム--を摂取した際、1日で体内に取り込まれる放射性物質の量は265ベクレル。野菜は洗ったりして口に入る時点で500ベクレルに減っているものとした。

 265ベクレルを人体(大人の甲状腺)への影響を表すシーベルトに換算すると0・11ミリシーベルト。この量を毎日食べ基準の50ミリシーベルトに達するのは454日後になった。空気を吸い込んだり体に付着することによる被ばくはあるが、放射性ヨウ素は半減期が8日と短く、避難区域以外での影響は長期的に無視できるという。

 米原氏は「現状では放射性ヨウ素が食品を通じて体に入っても、気にする必要のない数値だ。必要以上に怖がらないで」と話す。【小島正美、山崎友記子、田村佳子】=つづく






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