福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

だれにも見えない、においもない:NHK・FMウィークエンドサンシャイン、ポップミュージックの抵抗

2011-04-03 15:42:49 | ミュージック&シネマ
4月2日NHK・FMウィークエンドサンシャインで、DJのピーター・バラカン氏は、今度の原発事故をまのあたりにして「原発事故の怖さをつくづく思い知らされた」と言うリスナーのリクエストを紹介した。ランキンタクシーの「だれにも見えない、においもない」だ。この曲は「1989年チェルノブイリの3年後に作」られた曲で「放射能の前でだれでも対等だというメッセージを持った曲」だが、「偉い人の名前だとか、企業の名前だとか、政党の名前だとか、いっぱい次々と出てくる」ので、「NHKで、はたしてそれを放送していいかどうか、プロデューサーの意見をこれから仰ぎます」ということだった。そういうわけで「きょうはかけません。ちなみにU-Tubeではこのタイトルで検索すればすぐに出てきますからだれでも聞けます。非常に、あのう、すばらしい曲です。」

そこでさっそくU-Tubeで聴いてみた。なるほど、偉いといえば確かに偉い人の名前まで出てきて、はたしてこれがNHKで放送されるか、来週以降の番組をしっかりと注意して聴いていきたい。2日の番組の中で、Bob Dylanの“When the ship comes in”(これも東北の方のリクエスト)について、「世界が根本的に変わってほしい」願いの歌だと言い、「今これ以上のことは言えない」とも、リスナーの「自分ができることを精一杯やる」ということばに賛同するとも言うバラカン氏にとって、この「すばらしい曲」、「だれにも見えない、においもない」を放送していいかNHK当局にたずねるという行為が、彼にできる精一杯のことなのだと私は感じた。

このランキンタクシーの曲につながる歌に、忌野清志郎の一連の作品がある。
サマータイム・ブルース
原発賛成音頭
Bye-Bye-Timers
軽薄なジャーナリスト
I shall be released

などで、いずれもU-Tube視聴できる(サマータイム・ブルースめぐる情報はこのサイトが参考になった)。

忌野の曲もランキンタクシーに劣らず、気合とコミットメントにあふれていてたいへんいいと私は思った。しかし、みなさんの中にはこんなアグレッシブな姿勢、こんなおふざけでおちょくりの態度が、深刻な問題を前にしてけしからんとお思いになる方もいるかもしれません。私のほうは、逆にこの攻撃性、破壊的なユーモアがたいへん大事だと思っているほうです。なぜなら・・・

なぜなら、私たち自身が攻撃的で破壊的な暴力を、ことばや映像、記事・お話(「ゲストのみなさん」のやり取り)・「解説」・コラム・評論などの情報提示の場面で毎日のように浴びせられ、意識することもできず傷ついているからです。「豊富な電気に支えらた消費生活を享受しているのは、原発のおかげだろう」、と脅されます。「現場で、放射能を浴びながら私たちのためにがんばってくれている人が、私たちの日々の安楽を確保してくれているではないか」、と罪悪感を植えつけられます。そして、この期に及んで、原子力の安全神話を必死に守ろうとする人々(たとえば、これからの「もっと安全な原子炉」の提案など)、すなわち、数値やその解釈をめぐって私たちの愚かな認識を「矯正」し、「正しくない」、「的確でない」、「風評被害」だとさげすむ視線を浴びせ、「冷静な反応」や「節度ある」行動をお説教する「専門家」やジャーナリストたちがいます。

フランスの社会学者ピエール・ブルデューは、ことば・映像などの「記号を通した暴力」が、私たちの身体にじかに加えられる「物理的暴力」に劣らない不当なもの・残酷なもの・「効果的」なものであることを指摘しています。「記号を通した暴力」がなす害悪が、殴る・蹴るなどの「物理的暴力」のように直接に苦痛として知覚されないために、よりいっそうたちが悪いのです。なんだか、すぐ効果を表す放射線の「直接障害」と、時間経過後にはじめて現れる「晩発障害」との違いと似てないこともありません。

私たちが自分でも気づきにくい「記号暴力」の圧力を跳ね返すには、忌野のようなハチャメチャな攻撃性、パワフルな感情表出が必要なのです。いい子になって「原発をやめるには、電力が足りなくなった不自由な生活を、私たち一人ひとりが受け入れる覚悟があるかどうかにかかっている」などと、「専門家」でもジャーナリストでもなく、政治家や社長さんたちに義理立てする必要もないあなたが思うということ自体、「記号暴力」への防衛機制ではないでしょうか。「リーズナブルに行動すること」の紳士性にひそむ罠・・・・、どうして忌野が歌うように「やだ」、「こわい」、「いらねー」ではいけないのでしょう。「ハート・アンド・マインド」というベトナム戦争記録映画で、爆撃機のパイロットが、自分のしたこと、つまり爆弾を、それも無自覚に(「クラッカーがパンッとはじけるような感覚で」)落としたことを後悔すると言い、しかも同時に「男だから」「アメリカ人だから」「泣くこともできない」と言いながら泣き崩れるシーンがあります。何重もの暴力があります。爆弾を落とす暴力、そんなことを(嫌悪感もなく)彼にさせた暴力、そしてそれを悔いることを阻む暴力です。

忌野清志郎はたくさんの人々の心をとらえました。その中に、コンサートの後「思わず抱きついてしまった」大竹しのぶさん、「きよしちゃん、いい歌だね・・・」と歌った矢野顕子さんがいます。あふれるばかりのスケールの大きい才能の持ち主でいらっしゃるお二人には、どうか忌野のメッセージを、お二人の巨大な才能の片隅に埋もれさせてしまわないでいただきたい、と祈らざるを得ません。

付記20110404:
バラカン氏は「誰にも見えない、においもない」の代わりに、Gil Scott-Heron のShut 'Um Down をかけた。英語のこの歌くらいが限界なのだろうか。こちらはスリーマイル島の事故の後に作られた歌です。U-Tubeですぐみつかります。ご参考に自由に日本語にしてみます。

        原発、止めろ

原発、止めろ、メルトダウンを止めるにはそれしかない。
原発、止めろ、メルトダウンを止めるにはそれしかない。

あの地響きを感じるか?あの轟音が聞こえるか?
地震じゃない、でも大地を揺るがすあの衝撃を食らうと、
あれほどの力がほんとに地球のためになるのかって
考えさせられる。おれたちのただ一つの地球のために。

原発、止めろ、メルトダウンを止めるにはそれしかない。
原発、止めろ、メルトダウンを止めるにはそれしかない。

安全だとか、人為ミスとかいろいろ言ってるが
計器だとかメータだとか、しょせん
片翼だけの飛行機でお祈りしながら飛んでるようなものだろう。
完璧でなくちゃならない、それにきまってる。
でもそれなら、人間をあてにするな、人間は使えない、
人間はミスをするから。

原発、止めろ、メルトダウンを止めるにはそれしかない。
原発、止めろ、メルトダウンを止めるにはそれしかない。

          ==========================

       Shut ‘um down

Shut ‘um down
That’s the only way to keep them from melting down,
Shut ‘um down
That’s the only way to keep them from melting down,

Did you feel that rumble? did you hear that sound,
Well It wasn’t no earthquake but it shook the ground,
Made me think about power like it or not,
Got to work for Earth for what it’s worth,
Cause it’s the only Earth we’ve got,

Shut ‘um down
That’s the only way to keep them from melting down,
Shut ‘um down
That’s the only way to keep them from melting down,

I heard a lot about safety and human error,
A few dials and gauges is just a wing and a prayer,
If you need perfection and that’s what it takes,
Then you don’t need people, can’t use people,
You know people make mistakes,

Shut ‘um down
That’s the only way to keep them from melting down,
Shut ‘um down
That’s the only way to keep them from melting down,


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