日々是好日日記

心にうつりゆくよしなしごとを<思う存分>書きつくればあやしうこそものぐるほしけれ

不安が現実になる青森県六ヶ所村

2020年05月19日 07時17分35秒 | 政治
 今は昔、未だ青函連絡船が運行されていた頃だったが、青森港に近い繁華街の飲み屋で友人と二人で飲んでいた時のこと。二人の話題が少々政治的色彩を帯びていたからであったろうが、この店の美人マダムが「核燃料再処理って大丈夫なんですか?」と言い出した。ふさわしくない場所で相応しくない問題を言い出すもんだと思いながら彼女の心配をるる聞かされたことを今思い出している。
 ちょうどその頃、「日本一の巨大石油コンビナート&世界一の粗鋼生産基地」を作るというふれこみの「むつ小川原開発」があっけなくとん挫し、その失われた利権を守るように六ヶ所村に原子力船と核燃料再処理工場建設計画がやってきた。美人マダムの不安は、核のごみを押し付けられる屈辱と、その放射能が下北地方から青森まで飛散してくるのではないかという切実な心配がもとであったように記憶している。
 同じ青森県内とはいえ、六ケ所村は鶴の首のように長い下北半島のしかも東側、太平洋に面した地域。吹く風は一年中西風で青森市側に吹いてくる風はまあ無いといってよい。だから、「余程の事が無い限り心配は無用なようにおもうけれど」などと無責任に回答していたことを今もすまなさと共にうろ覚えにおぼえている。
 あれから何十年が経ったのか? 誘致運動は鉄鋼と石油から原子力へとおおいなる筋違いを起しながらも叶えられ、すったもんだの挙げ句に松林は切り倒され六ヶ所村は近代設備の立ち並ぶわが国最大の原子力基地へと変身した。
 日本原燃の核燃料再処理工場が、ついに原子力規制委員会による安全対策の審査に合格した、という。日本中の原発に保管されている過去何十年の使用済み核燃料をここに集めて、プルトニウムやウランを取り出すという再処理工場である。1993年着工以来、これに要した無駄づかいはじつに13兆9400億円という天文学的数値。それというのも施設の完成時期が24回も延長されるという歴史上例のない難産の「産科」費用が嵩じたためであった。こういう経過から見ても、2021年度上期創業は保証の限りとは断じて言えまい。
 この上、操業を開始して全設備が放射能に汚染されてからまたしくじったというようなことになる可能性も大いにあることを考えれば、この工場の前途はまだまだ山あり谷ありだ。なにしろ、使用済み核燃料から再処理されて取り出されたプルトニウムやウランからなる核燃料MOXを燃やす原子炉は現在たったの4基しかない。順調に、再処理工場が稼働でもしようものなら、日本は既に保有する46トンと合わせて世界一のプルトニウム保有国になってしまう。いまですらIAEAから北朝鮮と並んで最も強い監視を受けている日本の核物質保有状況、その態度の不純さを世界は猜疑と不愉快な気持ちで見ているのである。
 高速増殖炉もんじゅもとうに失敗した。当面、再稼働できる原発もはかばかしくはでてこない。原発は経済原理からも離反した。それでいて自然エネルギー政策は一向に進まない。審査合格は八方ふさがりの原発問題に新たな悩みがまた一つ増えたということ。
 あの飲み屋のマダムの恐れていた不安がとうとう現実となってきたのである。