蜘蛛網飛行日誌

夢中説夢。夢の中で夢を説く。夢が空で空が現実ならばただ現実の中で現実を語っているだけ。

ぎょうざ定食のころ。

2005年11月18日 05時49分12秒 | 本屋古本屋
何年か前、江東区にある日本経済新聞社南砂別館に仕事で数ヶ月通っていたことがある。
近所にはあの有名な砂町銀座商店街があった。昼食は南砂別館のすぐ近くにある小さなラーメン屋か、明治通りに面した中華料理屋、それに砂町銀座商店街の食堂と決めていた。理由は味が自分の舌に合っていたからだ。これはとても大事なことで、わたしはいくら安くても不味いものは絶対に口にしないことにしている。わたしの知り合いには安物志向の人もいて、たとえば不味い不味いといいながらも吉野家の豚丼なんぞで食事を済ませているが、考えただけで吐き気がしてくる。その点、上に上げた三軒の店はどこも値段と味のバランスがよい店だった。あと、城東警察署の近くにも食堂があったのだがどうもこちらは味、雰囲気ともに馴染めなかった。
砂町銀座商店街の食堂は文字通り街の食堂といった感じで和洋中華と、簡便だがなんでもあった。わたしが頻繁に注文したのが餃子定食でこれは美味かった。客筋としては近所の住民やワイシャツ姿の勤め人が多かったように思う。勤め人の客が目立つ店は概ね美味くて安いと決まっている。フロアから見える広い厨房は南向きで明るく、湯気の立ち込める中で店の主人がかいがいしく料理を作り、それをおかみさんが客に運んでくる、気分のよい店だった。わたしの食事時間は比較的短い方だと思う。だいたい十五分くらいなものだ。しかし心の落ち着く店にはなるべく長居しくなる。だから料理が思いのほか早く出てきてしまうとなんだか損をした気分になる。かといって遅いのも困るのだが。その食堂は料理の出方が遅くもなくまた早くもなく、わたしが痺れを切らす前には必ず出てきたものだ。近くには有名な激安寿司屋もあったが、そこにはついに一度も入ったことがない。わたしは並んで待つというのが大の苦手で、いや苦手という以上に腹が立ってくるので、どれほど美味いと評判でも客を並ばせるような店には自慢じゃないが金輪際入ったことがない。
ちょっと古本が見たくなると地下鉄東西線の南砂町駅近くのたなべ書店駅前店まで足を延ばした。そこは砂町銀座商店街とまったくの反対方向なのでこちらに来るときには餃子定食は諦めねばならなかったが、そんなおりには清洲橋通と丸八通の交差点にある牛丼屋で我慢したものだ。一度だけたなべ書店本店近くの回転寿司屋で昼食をとったことがある。店に入ったとたん雰囲気の暗さに圧倒された。客も暗けりゃ店員も暗い、おまけに回っている寿司は高いときてはもうなにもいうことはない。二皿食って退散した。
ところでこのたなべ書店は主に白っぽい本を扱う店で、駅前店は文庫や新書それに実用書、小説といったものを、また本店ではコミックやビジュアル物を中心に品揃えしている店なのでわたしはあまり期待していなかったのだが、それでも駅前店で関口存男の『独作文教程』なんて本を定価五千五百円のところ二千六百二十五円で買った。美本だったのでこの値段は安いと思う。本店では飯島洋一著『アメリカ建築のアルケオロジー』二千四百円を千二百六十円で購入、こちらは挨拶代わり。慧眼なる読者諸賢におかれては既にお気付きのことと思うのだが、売値が定価の半額なのだ。じつはこの店は基本的に古書的価値とは関係なく定価の何掛けで商品の売値を決めている。だから場合によっては安い買い物もできるのだが、逆に本を引き取って貰うのには古書の市場価値と関係なく評価されてしまうのであまり良い店とはいい難い。しかしコミックやアイドル写真集を持っていく分には向いているかも知れない。
序ながら、ちょとチェックしてみたら南砂別館に通っている間にたなべ書店で購入した本はほとんど文庫本や新書本だった。