遠まわりする雛 (角川文庫) 価格:¥ 660(税込) 発売日:2010-07-24 |
読了。
古典部シリーズ四冊目『遠まわりする雛』は短編集。時系列的には「心あたりのある者は」以降が『クドリャフカの順番』より後のエピソードということになるようです。
『氷菓』に関して、アニメが放映されてから原作を読むという信条(笑)を掲げた僕ですが、そのために積んでおくのも面倒になったのでさっさと読んじゃいました。
や、面白かったです。まあ、〝日常の謎〟モノの「謎」の部分については、回を重ねるごとにどんどんショボくなっている感じがしますけど、登場人物の心情の変化と、関係性の変化のほうに目を向けると興味深く読めますね。
個人的には、「正体見たり」までの三編が気に入りました。これらは、すでにアニメでも見ているエピソードですが、いかにも〝日常の謎〟といった体裁を保っているのが小気味よかったです。
特に「正体見たり」は、アニメと違い、「一見(というか、えるの希望として)仲良さそうな姉妹であれ、実際はそうではない」というところを着地点にするのが実にイイですね。微笑ましさとか後味の良さでいったら、圧倒的にアニメのほうなんですけど、語り手の真意を伝えるのは、やはり原作小説のほうなのかなと思ったりも。
あそこは、ハッキリと仲良くしている姉妹の様子を描写してしまうよりも、それを敢えて書かずに、「まあ、実際はどうだかわからないけどな」という奉太郎の心の声が聞こえてきそうな結末にするほうが、ひとつの物語として深みを与えるオチになると思います。行間を読むってやつですね。ハイ。
正直なところ、「心あたりのある者は」以降は、ちょっと謎自体に無理が出てきてしまったこともあり、登場人物の心情描写以外の部分は全然楽しめなかったかなと。まあ、登場人物云々という点についても、里志と摩耶花には『クドリャフカの順番』までであまり良い印象を持っていないため、大筋においてどーでもよかったんですけどね!
唯一面白かったのは、「手作りチョコレート事件」における心理戦かなー。里志は感心できるレベルのクズ野郎でしたが、えるを同席させることで断られないための布石を打った摩耶花にも「よくやるなあ」と感心してしまいました。むしろ、そんな心の機微を察することのできた奉太郎がすげえや。
里志と摩耶花は、色んな意味で似合いの二人だと思います。問題は、事ここに至るまで、どうして摩耶花が里志に執着しているのかまったくわからないことだけですわ(ダメじゃん)。
えると奉太郎に関しては……どうなんだろう。最後の「遠まわりする雛」を読む限り、たしかにお似合いではあるんですけど、かなり奉太郎のほうが先走っていて「え? 大丈夫?」と不安になるような感じじゃありませんでしたか。
いやあ、付き合ってるわけでも告白されたわけでもないのに、お前の将来のために進路を決めようかみたいなこと言われたら普通怖いですよね。ホントに言わなくてよかったね。よかったね。
つーわけで、面白かったけど、なーんか諸手を挙げて歓迎できるような感じでもないという不思議な作品ですねということで。
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