【ユーザー】日本IBMは、IBMがグローバルのCIOを対象に行った調査結果「IBM Global CIO Study 2009」を発表した。IBMでは、今年1月から4月にかけて、78か国で2,500人を越えるCIOに対して、その役割や行動様式に関するインタビュー調査を実施し、日本からも162人が協力。今回の調査を通して判明したCIOが最重視する将来のテーマの上位3つは、①ビジネス・インテリジェンス②仮想化③リスク管理とコンプライアンスであった。中でもビジネス・インテリジェンスを競争力強化のための取り組み検討分野に挙げているCIOは、グローバルで約8割、日本で約7割に達していることが分った。(日本IBM:09年10月29日発表)
【コメント】CIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)は、米国において名づけられた役職名で、ITシステムを導入しても必ずしも成果が上がらない現状に対し、ITとマネジメント双方に精通した人材をCIOとして任命し、効率的な企業システムづくりを実現させることを狙ったものである。この動きが日本でも必要との認識が高まり、現在、CIOという肩書きをつけた役員がいる企業も出現し始めている。しかし、わが国において、必ずしもCIOがうまく機能しているとはいえない。その一つは、ITとマネジメント双方に精通している人材は極めて限られているからだ。育成しようにもかなり時間が掛かるのである。
この彼我の差はどこから来ているのか。それは、欧米の経営手法は、トップ自らパソコンを使いこなし、トップダウン方式で経営を行う企業が多い。そのため経営層にシステムに対しての情報リテラシーが十分に備わっている。これに対し、我が国の経営手法は、ボトムアップ方式で、現場サイドが立案し、それをトップが最終的に承認するといったスタイルをとる企業が多く、経営トップ層に情報リテラシーが確立されにくい傾向にある(最も今後は日本の企業のトップ層も情報リテラシーを有することが必須事項になってこよう)。
今回IBMでは、企業システムの鍵を握っているのはCIOとの認識から、今回ワールドワイドでのCIO調査に行った。そして、今回の調査をもとにCIOの行動様式を分析した結果、高成長企業におけるCIOの行動様式に関して、以下の6つの特徴が明らかになったという。①洞察力に富んだ先見者②有能な実務者③見識ある価値創造者④あくなきコスト削減追求者⑤協働するビジネスリーダー⑥組織を活性化するITサービス提供者。また、グローバルと日本の調査結果を比較分析したところ、日本では、ビジネスモデルの変化に対応が必要、多大な変化が必要、と考えているCIOが多く、変化の要因としてグローバル化と人材スキルを重視していることが判明。今回の調査でグローバルと日本との相違が見られた7点の概要は以下の通り。
①ITの役割=日本はグローバルに比べて、ビジネス側がITの役割を「事業および企業ビジョンの具現化」よりも「ITサービス提供」に、より軸足を置いてみている②CIO活動時間とIT予算の配分=日本はグローバルに比べて、新しいテクノロジーの導入やビジネス・イニシアティブの実行に配分する、CIOの時間も予算も少ない③将来の重点テーマ=上位3つ(ビジネス・インテリジェンス、仮想化、リスク管理とコンプライアンス)はグローバルと共通だが、クラウド、SaaSや全社横断的な人材開発については日本の方が積極的。一方、セルフサービスポータルやソーシャル・ネットワーキングなどは、グローバルに比べて積極的ではない④CIOの役割と責任=日本はグローバルに比べて、CIOがITを専担する役員である割合が大幅に少ない⑤ビジネスとITの融合=グローバルでは、「ビジネスとITの融合」の実践レベルと、企業の成長実績との相関関係が高いが、日本ではその相関が低い⑥CIOの行動様式=日本はグローバルに比べて、組織を活性化するITサービス提供者の特性値が大きく、洞察力に富んだ先見者、協業するビジネスリーダー、有能な実務者の特性値が小さい⑦外的要因の認識=日本はグローバルに比べて、今後3年間でIT部門に最も大きな影響を与える外的要因として、人材スキルを重くみており、IT部門は相当大きな変化を必要としているという認識をより強く持っている。
調査結果の高成長企業におけるCIOの行動様式は、何も言うほどのこともなく「まあ、そうだろうな」という感じだが、グローバルと日本の相違では、幾つか疑問点が残る。例えば、「クラウド、SaaSや全社横断的な人材開発については日本の方が積極的」という点。日本は、クラウドやSaaSについては、うかうかしていると米国に引き離されるから、推進しようとしているのではないということか?また、「日本はグローバルに比べて、CIOがITを専担する役員である割合が大幅に少ない」という点。これはグローバルでは、CIOとIT部門との連携がうまくとれているが、日本ではうまく取れていないということになるが、これはなぜか?やはり、日本は将来企業リーダーを目指す人材に、徹底した情報リテラシーの教育が欠かせないのではないか。これを怠るとわが国は、グローバル社会での存在感がますます薄くなっていきそうだ。(ESN)