遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

井上靖論3

2017-12-25 | 心に響く今日の名言
(2)
 井上靖は『わが文学の軌跡』の中で「日本海詩人という雑誌が石動でだされていました。主宰者は大村正次さんでした。日本海詩人には、昭和四年から五年にかけて約十編の詩を発表しました。その同人の独りに宮崎健三さんがおりまして、高岡で“北冠”という雑誌を創刊することになり、私もそれに寄稿しました。」と詩との出会いにふれながら往時を懐かしくしのんでいる。
 ここで『全詩集』(新潮社版)の《拾遺詩編》の中に収められている「少女」は巻末の〝発表誌紙一欄〟の中では「北冠」と書かれているが、これはあきらかな間違いである。ここに「少女」の「日本海詩人」に掲載された時のものを載せておこう。

ーーねっ、止めてよ、私おりるわ。
   キャベツのいっぱい載っている荷馬車のなかに
少女が俯いて坐っている。
 
   リンゴの花粉がこぼれそうなおやかな頬である。
大きいふくろをだいて、明るい大胆なはにかみである。
 ーーばかめが、なあに、かもう事がるもんかい。」

 御者台でおやじは朴訥そうな顔をゆがめている
    少女の心に伸びている繊細な触覚。
 少女の胸に流れている青磁色の気流。
    それをこの愛すべき年老いた
    父親はかんじていないのだ。
   あゝこんな新鮮な親子のいさかいがころげていよとは! (「少女」部分、以下略)