
昨年、檀家様より貴重なご寄進を賜り、永明寺の涅槃図が修復されました。
涅槃図は、お釈迦さまの最後の姿を描き、私たちに深い教訓を与えてくれます。2月15日の涅槃会には、修復を終えた涅槃図を本堂に掲げ、お釈迦さまの御遺徳を偲びました。
皆さんは、涅槃図をご覧になったことがあるでしょうか。お釈迦さまは、安らかに亡くなられた姿で描かれていますが、その表情には、静寂の中に深い慈悲が感じられます。
涅槃とは、煩悩の火を完全に消滅させ、安らぎ境地に達した状態を指します。お釈迦様は、悟りを開かれた後、長年に渡り人々を教え導き、多くの弟子を育てられました。そして、その生涯の最後に、弟子たちに最後の教えを説かれました。
それは、パーリ仏典経蔵長部『大般涅槃経』にある言葉です。
「さあ比丘たちよ、いまあなたたちに伝えよう。さまざまの事象は過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成なさい」
「さまざまの事象は過ぎ去るものである」とは、人生のあらゆる出来事は、良いことも悪いことも、必ず過ぎ去っていくということです。喜びも悲しみも、苦しみも楽しみも、永遠に続くものはありません。
だからこそ、「怠ることなく修行を完成なさい」と、お釈迦さまはお示しになられました。修行とは、単に仏教の教えを学ぶことだけではありません。日々の生活の中で、正しい行いを積み重ね、心を磨き、悟りを求める努力を続けることです。
修行の持続については、大本山永平寺を開かれた道元禅師が著した『正法眼蔵』「行持」に次のようにあります。
「仏祖の大道、かならず無上の行持あり、道環して断絶せず、発心・修行・菩提・涅槃、しばらくの間隙あらず、行持道環なり」
このお示しは、行持(修行の持続)に終わりのないことを「環」をもって表したのです。つまり、一生涯が修行ということです。
私たちは、常に変化するこの世の中で、様々な出来事に翻弄されがちです。しかし、お釈迦さまの最後の教えを心に留め、過ぎ去ったものごとに執着することなく、目の前の今なすべきことに精進していくことで心の安らぎが得られます。
修復された涅槃図は、まさにこの教えを象徴しています。時の流れの中で傷ついた涅槃図の掛軸も、ご寄進と修復によって、再び輝きを取り戻しました。私たちの人生も、困難や苦しみ(思い通りにならないこと)を乗り越え、自らを磨き上げることによって、より深みのあるものとなることでしょう。