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「トラウマインフォームドケア “問題行動”を捉えなおす援助の視点」野坂祐子著 ”トラウマケアの啓発”

2021-11-21 02:03:55 | 本の紹介
・TIC(Trauma Informed Care)とは、行動の背景にある“見えていないこと”を、トラウマの「メガネ」で“見える化”するものであり、支援における基本的な態度や考えかたである。トラウマの治療や心理療法ではなく、誰もがトラウマの理解に基づいて対応できるようになることが目指される。

・トラウマは「こころのケガ」と喩えられる。

・人は、一人では回復しない。トラウマが人を強くするのではなく、他者とのつながりを感じることがトラウマを負った人に力を与える。トラウマによって壊された安全や信頼、生きる希望を再構築するには、他者との関わりのなかで、再び安全や信頼、希望を獲得していくしかない。トラウマが「よい思い出」になるのではない。つながりのなかで歩む回復への道のりが、人生を豊かにし、「新たな思い出」をつくりだしていくのです。

・人間にとってのソフトウェアは何か。それは、健全なアタッチメント(愛着)である。遺伝子や脳は、アタッチメントによって起動する。養育者の安定した関わりというアタッチメントがあってこそ、人間が備えている“母なる基盤”のマザーボードが機能するのである。

・人生の初期に養育者と安定したアタッチメントを経験していることは、購入直後のPCにウィルス対策ソフトをインストールしておくようなものである。それによって、その後の人生におけるさまざまなウィルス(トラウマ)の侵入を防ぐことができる。すべてのウィルスから子どもを守ることはできないが、アタッチメントが築かれていれば、養育者はウィルスとなる出来事にいち早く気づき、子どもをケアすることで、子どものレジリエンスを高めることができる。

・子どもの場合、トラウマ症状が生活全般に影響を及ぼしやすい。たとえば、不安や警戒心による過覚醒やフラッシュバックによる悪夢の回避から不眠症状を示す子どもは多いが、成長期の子どもにとって、十分な眠りが確保されないことで、それだけで発達や成長に深刻な影響をもたらす。眠れないことで、食欲不振や体調不良が起こり、集中力を保てなければ、学力は低下する。友人関係のトラブルが重ねなければ、学校に通う意欲はさらに失われ、昼夜逆転の生活や不登校に至りやすくなる。

・トラウマの影響を受けている人の世界観は、「また危険なことが起こる世界観は、「また危険なことが起こるに違いない」「誰も信用できない」「自分は愛されていない」という非機能的認知に基づいている。危険な状況を危険と捉えるのは機能的認知だが、何も起きておらず、むしろ安全な場面でさえも危険だと認識するのは非機能的認知であり、トラウマ反応である。さらに、そうした認識するのは非機能的認知であり、“現実”にしようとする無意識の行動化が起こる。これをトラウマの再演という。

・トラウマの影響を受けた人たちと関わる臨床現場では、支援者による体罰や虐待、あるいは放置(ネグレクト)といった不適切な対応が起こりうる。これらはさまざまな要因によって生じるものであり、支援者の人格や力量といった個人的な要因だけでは説明できない。しかし、実際には、なぜそうした事態が生じたのかといった検証が不十分なまま、職員個人への指導や処分で終わってしまうことが少なくない。

・米国の小児科医ナディン・バーク・ハリスは、地域の子どもたちの健康格差をなくすために尽力し、ワクチン接種や喘息の入院率において大きな達成を遂げた。ところが今度は、子どもたちが続々とADHDで病院に送られてきたのだ-しかも、丁寧に診断してみると、そのほとんどADHDではなかったのにもかかわらず、落ち着きのない子どもたちが、なぜこんなにたくさんいるのだろう? ハリス医師は、問いかける。「同じ井戸から水を飲む100人の子どもたちのうち98人が下痢をしているなら、医師であれば、まず何をすべき?」 不調を訴えるすべての子どおたちに処方箋を書くこともできる。しかし、こう考えることもできる。「いったい、この井戸のなかには、何があるんだろう?」
子ども一人ひとりの症状を診て、医療につなげることは、もちろん大切である。具合の悪い子どもを個別にケアしていく。しかし、それと同時に「井戸」に対処なければ、問題が解決しないのも明らかである。下痢という症状に対して抗生物質を処方すれば、一時的に症状は治まる、だが、井戸の水を口にしている限り、子どもの健康は害され続け、生涯にわたって処方薬が欠かせなくなる。

・トラウマインフォームドケアとは、この井戸の存在を知り、水を飲んで育っ互いことによる影響を認識し、その影響をふまえて対応することである。
トラウマの井戸の存在は、語られないし、気づかれない。だからこそ、支援者は井戸をないものとせずに、「あるかもしれない」という前提で井戸を探すところがら始める必要がある、そのためには、喫煙や飲酒と同じように「井戸の水を飲みましたか」と尋ねなければならない。

・逆境体験がその後の人生にもたらす影響を明らかにしたのが、小児期逆境体験(Adovaerese Childhoood Expeariennces.ACEs)に関する研究がある。この調査は、米国疾病予防管理センター(CDC)が1995年から1997年にかけて実施したもので、ACEsと呼ばれる18歳までのさざまな逆境体験を幾種類も経験するほど、神経発達不全や社会的・情緒的・認知的障害のリスクが高まり、生涯にわたって心身の健康や社会適応に悪影響を及ぼすことが示された。

・小児期逆境体験(ACEs)の項目
 ・繰り返し、身体的な暴力を受けていた
 ・繰り返し、心理的な暴力を受けていた
 ・アルコールや薬物乱用者が家族にいた
 ・母親が暴力を受けていた
 ・家庭に慢性的なうつ病の人がいたり、精神病を思っている人がいたり、自殺の危険がある人がいた
 ・両親のうち、どちらもあるいはどちらかがいなかった
 ・家族に服役中の人がいた
 ・親に無視されていた
 ・親に食事や生活の世話をしてもらえなかった
 ・性的な暴力を受けていた

・虐待やDVから守られるための一時保護所やシェルターは、安全な場所であるが、本人にとっては見知らぬ場所で安心できない。このように、トラウマの影響を受けた人にとって安心できる場面は必ずしも安全ではないし、支援者にとって安全な場面だからといって本人が安心できるわけでもないし、支援者にとって安全な場面だからといって本人が安心できるわけでない。「安心・安全」は、ひとくくりにして捉えられやすいが、トラウマを体験した人にとって、安心と安全は≠ではなく、相反するものである。
この「安全・安心」のジレンマは、当事者を混乱させるだけでなく、しばしば支援者と当事者の対立を生じさせる。

・日本でTICが紹介されるようになったのは2014年以降であり、精神科医療の領域から導入された。

・トラウマインフォームドケアの10原則
1) 暴力や被害体験が、発達と対処法略に及ぼす影響を認識している
2) 最も重要な目的は、トラウマからの回復である
3) エンパワメントモデルに基づいている
4) 回復に向けた本人の選択とコントロールを最大限尊重する
5) 協動的な関係に基づいて行われる
6) 安全、尊重、受容についてのサバイバー(被害者)のニーズをを大切にする雰囲気をつくる
7) 症状ではなく適応とみなし、病理よりもレジリエンスに着目することでストレングスを強調する
8) 再トラウマ体験を最小限にすることを目指す
9) 文化に配慮し、それぞれの人生経験や文化的背景をふまえて本人を理解する
10) TICを実施する機関は、サービスのデザインやその評価に利用者を招き入れ、関与してもらう

・3段階のトラウマケア
  トラウマに特化したケア     トラウマの影響を受けている人が対象 
                   特定の介入により人生を統合していく支援
  トラウマに対応したケア     リスクを抱える人が対象
                   被害の影響を最小限に抑え、
                   健全な成長と発達の機会を最大化するための支援
一般的なトラウマの理解と基本的対応 すべての人が対象 
                   トラウマ・逆境の理解と生活環境に及ぼす影響
                   についての一般知識をもって関わる

・トラウマレスポンシブケアとトラウマスペシフィックケア
 レスポンシブとは、その人自身のトラウマの内容に合わせて対応するという意味である。
 スペシフィックケアとはトラウマによるPTSD症状に特化した介入や支援を行うこと。

・トラウマを理解する「3つのE」 
 「Event:トラウマとなる出来事」
 「Experience:トラウマをどのように体験したか」
 「Effect:トラウマによる影響」

・TICを実践する「4つのR」
1) Realize:理解する 
 トラウマの広範囲に及ぶ影響を理解し、回復につながる道筋がわかっている
2) Recognize:認識する
 対象者や家族、スタッフ、関係者のトラウマの兆候や症状を認識している
3) Respond:対応する
 トラウマに関する知識を、方針、手順、実践にしっかり統合して対応している
4) Resist re-traumatization:再トラウマ体験を防ぐ
 再トラウマ体験を防ぐために積極的な手立てを講じる

・トラウマの影響を「見える化」する三角形モデル
          トラウマ体験
リマインダー(きっかけ) トラウマ反応(症状)

・まずは、支援者が、対象者のトラウマ体験とトラウマ反応の関連を理解する必要がある。
「暴言や暴力」が過覚醒やフラッシュバックによるものであったり、「怠惰や無気力」が回避や麻痺、気分や認知の異常、もしくはうつ症状である可能性も考えられる。
「嘘やごまかし」の裏にある自信のなさや他者不信が見えてくることもあるだろう。  

・心理教育とリラクセーション
トラウマやその影響に関する情報を提供することを心理教育(psycheducation)といい、TICでは、まず一般的なトラウマの知識を共有することから始める。こころのケガになる出来事にはどのようなものがあるか、それによってどんな影響が起こるのか、どんあふうに手当したらよいのかといった内容をわかりやすく説明する。
また、安全に心理教育を行うために、呼吸法や筋弛緩法といったリラクセーションスキルを教えることも重要である。

・加害者臨床においてトラウマインフォームドな視点をもつということは、加害者に被害体験があることを想定するだけでなく、どのようなにトラウマが加害行為につながったのか、その機序を明らかに詩、それを具体的な教育や介入に反映させることである。

・対人援助の現場では、以前から、支援者の感情労働に伴うバーンアウト(燃え尽き)や情緒的疲弊が生じやすいことが指摘されてきた。トラウマを体験した人の話を聴くことで、支援者には二次的外傷ストレス(Secondary Traumatic Stress: STS)も生じる。STSとは、トラウマ臨床に携わる支援者に、当事者と同じようなPTSD症状や燃え尽き、世界観の変容などが生じるというものである。

・健康な組織づくりに向けた7つのコミットメント
1) 非暴力
 いかなる場合も暴力行使しない、組織全体で非暴力の価値を共有する
2) 感情的知性
 感情を自覚し、それを適切にコントロールして表出するスキルが身についている
3) 社会的学習
 あらゆる経験から学ぼうとする、お互いに学び合う
4) オープンなコミュニケーション
 率直な感情や考えを伝えあう、隠し事や操作的なやりとりのない開放性がある
5) 民主性
 あらゆる意見が尊重され、それが活かされている、全員が関与している
6) 社会的責任
 自分自身をコントロールする責任をもち、役割を果たしている
7) 変化と成長
 つねによりよくなるために変化することをいとわず、成長する責任を果たす

感想
「わたし虐待サバイバー」羽馬(はば)千恵著 ”虐待はその時も苦しいが、その後もトラウマとなって苦しめる”

トラウマはその時だけでなく、その後にも大きく影響するようです。

トラウマケアすることの難しさが伝わってきました。
いろいろな試行錯誤がされており、TICもその一つのようです。

トラウマケアする人の心のケアもとても大切なようです。

小さい時に大切された、愛情をもって育てられたことが、その後のストレスへの対応やトラウマにならずに乗り越える力になるようです。
ワクチンの例えがよく理解できました。