【早実4-3駒大苫小牧】魂の4連投の先に涙の初大旗があった。第88回全国高校野球選手権大会は21日、延長15回引き分け再試合となった早実(西東京)と駒大苫小牧(南北海道)の決勝が甲子園球場で行われ、4―3で早実が勝ち、創部102年目で悲願の初優勝を果たした。4連投となった早実のエース・斎藤佑樹投手(3年)は118球、13奪三振の力投で3失点完投。今大会7試合で948球を投げ抜いた。王も荒木も超えた斎藤の夏。栄冠は古豪に、そして18歳の鉄腕に輝いた。
抑えていた感情が一気に噴き出した。笑顔とともに白い歯がこぼれる。早実悲願の夏の大旗。ふだんはクールな斎藤が両拳を突き上げて雄叫びを上げた。しかし三塁側アルプスに駆けだした途端、端正なマスクはゆがみ、歓喜の涙があふれていた。
「人生最大の、一番幸せな日になりました。王先輩も荒木先輩もできなかったことを自分たちが成し遂げて本当にうれしい。疲れはあったけど気持ちで絶対に負けないように投げました」
4連投の汗が染みこんだ青いハンドタオルで目元をぬぐう。「僕も男だし感情を出して勝負したい時もある。でも表情を出して相手に心を読まれたら負ける」とポーカーフェースで7試合69回、太田幸司(三沢)を超す948球を投げ切った鉄腕が見せた笑顔と涙。重圧から解放された瞬間、18歳の少年にあらゆる感情が一度に襲ってきた。
延長15回引き分け再試合を経ての決戦。斎藤は直球とスライダー、フォークを軸に内外角の低めを丁寧に突く自分の投球を貫いた。5回まで3安打7奪三振と前日の9回から12イニング連続のゼロ行進。6回にソロ、9回は2ランを喫したが気力を振り絞った。9回2死、打席には2日間、ともに激闘を演出してきた田中。4球目はこの試合最速の147キロを計測した。ファウルで粘られた7球目。「最後は一番自信のある真っすぐで」とこん身の144キロ速球で空振り三振に斬り、大会のフィナーレを飾った。
史上初の7試合目の先発マウンド。それでも4戦連続2ケタとなる13三振を奪い、78に達した通算奪三振数は史上2位だ。握力がなくなるほど疲労が激しかった前夜は、30分間のはり治療に西東京大会から使用している通称ベッカムカプセルと呼ばれる高圧酸素カプセルに1時間入って疲労回復に努めた。
「丈夫な体に産んでくれた両親に感謝したい。自分を育ててくれた和泉監督に感謝したい」。群馬の親元を離れて早実に入学した2年前は体重58キロしかなかった。寂しさもあって食が進まない。見かねた和泉監督は職員室や自宅に招いて食事をとらせた。斎藤もプロテインをのむなど工夫を重ね自費で都内のジムに通った。筋力トレーニングの成果で2年半で72キロに。驚異的なスタミナの源になり、130キロ台前半だった球速も149キロを計測するまでになった。
剛球と驚異的なスタミナ、たぐいまれな精神力にはプロのスカウトも熱視線を注ぐ。進学を希望する斎藤は「甲子園という舞台が自分の力以上のものを出させてくれました。自分を成長させてくれました」と笑った。王を、荒木を超えた早実の背番号1。数々の記録とともに、その鉄腕ぶりはいつまでも語り継がれるだろう。「いまは休みたい。群馬の家に帰って休みたい」。06年、熱い夏の主役は斎藤だった。
≪女房役が攻守で貢献≫斎藤の女房役、白川が攻守に活躍した。1点差に追い上げられた6回2死一塁で左翼線へ適時二塁打。守っても体を張ってボールを後ろにそらさず、2日連続でバッテリーミスを犯さなかった。前日の延長11回1死満塁でも、ワンバウンドを止めてピンチを脱出。2年の6月に投手から転向し、地道な努力で成長した相棒を、斎藤は「ワンバウンドでもすべて止めてくれる。最高のキャッチャーです」と称えた。
早実初大旗 斎藤948球の頂点
実質的に全試合を一人で948球も投げ切り、それでもなお147キロの速球を9回表に投げられるのだから、信じられないスタミナだ。こんなタフな投手は今までに見た事がない。
再試合でもまったく疲れを見せない投球で、駒大苫小牧から13三振を奪うなど、実に安定した投球で、まったく大きく乱れないのには強い精神力を感じた。
ピンチと思われる場面で動揺するどころか、要所では全力投球して必ず抑えるというクレバーさが光っていた。結局、駒大苫小牧から奪われた得点はHRのみ。タイムリーでは一度も失点していない点が今大会No.1エースと言われる安定感と言える。
かなり完成度の高い投手だけに、是非プロ野球に進んで活躍して欲しい。そして、人気の低迷しているプロ野球を盛り上げて欲しいところだ。