2020年12月京都童心の会 通信句会作品評
【選評】後半
○中野硯池特選
18 厚着する期限の迫る仕事して 金澤ひろあき
大事な仕事を家に持ち帰ったのであろう。何れにせよ期限のある仕事に宵の口から取りかかったのであろう。
夜が更けて一枚羽織り又一枚と重ね深夜には着ぶくれ夜が明けようとしている。仕事もはかどったことであろう。
○宮崎清枝特選
18 厚着する期限の迫る仕事して 金澤ひろあき
本格的な冬になり厚着をしつつも、期限までにと一生懸命お仕事をなされてる作者。本当に御苦労様です。どうか御身体おいといなさって下さいね。御健勝お願ひ申し上げます。
○青島巡紅選
特選
28 雑炊や銃後の糧でありし頃 中野硯池
「雑炊」は今では鍋料理の後にいただく当たり前のもの。それが戦地では「銃後の糧」だったというのは、悲しいほど重く時代の違いを感じさせます。当時の当たり前と現在の平和な時代の当たり前とでは全く意味が違ってきます。他になくそれしかなかったというのと、色々ある中でそうなるね、とでは。戦争体験者の生の声を聴く、そんな気持ちにさせられます。今年の夏で76年になりますね。
並選
113 ①丑年を重ね今在る初山河 宮崎清枝
丑年生まれの方でしょうか。その周期を重ね「今在る初山河」となる。常に前向きな姿勢が感じられます。ばんばひろふみの「昨日より若く」を想起させるものがありますが、こちらの方が硬派です。
107 ②いま一度逢いたき人よ紅葉晴れ 宮崎清枝
こういう思いは誰にでもあるだろう。「紅葉晴れ」の日に逢いたいと思う人だから、きっと晴朗で柔和な人だったのでしょう。ニュアンスは違うかもしれませんが、女流詩人長瀬清子の「あけがたにくる人よ」を想起させます。彼女は添い遂げた人ではなく初恋の人か誰かに呼びかけていますが。
100 ③秋日和猫の横顔気持ち良い 野原加代子
秋のお天気の良い日に猫が横向けで寝ている。見ているとこちらまで一緒になって横になりたくなるくらい気持ち良さそうに寝ていたのでしょう。
89 ④検温しサンタ出動買い出し日 三村須美子
「検温し」がコロナ禍のクリスマスであることを想起させ、それでもクリスマスプレゼントを楽しみしている子供達がいて、「サンタ出動」となる。ただ「買い出し日」は他の言い方にした方が良かったのではないかと思います。
38 ⑤どうなるの人の世変えたコロナさん 坪谷智恵子
本当これからどうなるのだろう。終末思想を語る訳ではないが、ワクチンが予定通りの効果を発揮しても、第二第三のコロナウイルスが出現する可能性があるという。例えば、温暖化による氷雪や氷河が溶け出し眠っていたウイルスが現れるかも知れない。コロナウイルスがワクチンに対する耐性を早期に獲得するかも知れない。悪条件しか出てこない状況。本当これからどうなるのだろう。
31 ⑥コロナ禍に餅代ほどのボーナス 中野硯池
「餅代ほどのボーナス」それはないでしょう、と言いたくなりますね。でも、これは固定給だから言えること。コロナ禍で、例えば、タクシー運転手だと、上層組織何とかしろといってもどうにもなりません。でも、これは労働者の声でしょう。行政はもっと民意を汲み取るべきですよね。
20 ⑦冬支度こんなに早く年をとる 金澤ひろあき
この句には、気づくと一年が過ぎ去るのが速いというのと、振り返ると人生が過ぎ去るのは速いという両方の意味があるように思います。「冬支度」という言葉が生きています。「年をとる」これ以外の言葉に置き換えるのは僕には難しいですが、出来ればもっと深みのある句になるのでないでしょうか。
14 ⑧木の葉降る今日の栞にせよと降る 金澤ひろあき
「今日の栞にせよ」が効いていると思います。一昨日は一昨日の、昨日は昨日の、そして今日は今日の「木の葉降る」ですよね。いってらっしゃいと手を振っても、振った人の唇の色、声音の調子、頬の色、髪の揺れ具合、同じ筈がありません。
12 ⑨どんぐりを拾いたげな七五三 金澤ひろあき
七五三といえば子供達が他所行くの格好をさせられて、半ば親の見栄の為に引きずり回される日。その子供の目に留まっているのは自分の日常、「どんぐりを拾いたげ」な目線。子供は親の玩具じゃないが、されてしまう不幸な瞬間がある。
49 ⑩冬枯の桜のどかに天に映え 蔭山辰子
「のどかに天に映え」というのがいいです。動植物のエネルギー値が一番高いのは夏だと思われがちですが、冬が正解なのです。春夏が放出期、秋冬が充足期です。大地からエネルギーを貰い受ける溜め込んでいる最中。元気一杯なのです。長距離を走って30分ほど寝ると回復する体力。良い寝顔です。
7 ⑪薬指の傷口肌寒勝手口 野谷真治
言い過ぎているような気もしないけれど、冬のシチュエーションならありか。「薬指の傷口」が低温乾燥の「勝手口」で「肌寒」でしっかり意思させれた。自分にも経験あります。
46 ⑫楽しかった京阪ホテル70代 坪谷智恵子
思い出をそのまま句にしたものですね。僕も参加してましたし、やはり楽しい思い出になっています。
33 ⑬晩緑は新しい靴買う日です 裸時
「晩緑」はブロッコリーの名前でもあり行方克巳句集のタイトル。新緑に対して濃いというか深い緑に葉々の頃という季語(?)。僕の季語集には載っていないので。これからもっと暑く活動的になる。その前に「新しい靴買う」のは、その季節が楽しみな証拠。ワクワク感があります。
39 ⑭旅心夢の国へと秋沈む 坪谷智恵子
「旅心」はGO TOのことだと思いますが、触発された心はコロナ第三波により「夢の国へ」、あれこれ世間でも騒いでいた「秋」と一緒に「沈む」ことに。コロナ対策の難しさ。「夢の国」に沈んだ旅のプランが早く実現すると良いですね。
56 ⑮下り坂逝った夫の名は登 蔭山辰子
「下り坂」と急に亡くなった夫をかけている。「名は登」というのは変えた方が良い気がしてますが、はいそこで笑いというような落とし方ならありでしょう。
【選評】後半
○中野硯池特選
18 厚着する期限の迫る仕事して 金澤ひろあき
大事な仕事を家に持ち帰ったのであろう。何れにせよ期限のある仕事に宵の口から取りかかったのであろう。
夜が更けて一枚羽織り又一枚と重ね深夜には着ぶくれ夜が明けようとしている。仕事もはかどったことであろう。
○宮崎清枝特選
18 厚着する期限の迫る仕事して 金澤ひろあき
本格的な冬になり厚着をしつつも、期限までにと一生懸命お仕事をなされてる作者。本当に御苦労様です。どうか御身体おいといなさって下さいね。御健勝お願ひ申し上げます。
○青島巡紅選
特選
28 雑炊や銃後の糧でありし頃 中野硯池
「雑炊」は今では鍋料理の後にいただく当たり前のもの。それが戦地では「銃後の糧」だったというのは、悲しいほど重く時代の違いを感じさせます。当時の当たり前と現在の平和な時代の当たり前とでは全く意味が違ってきます。他になくそれしかなかったというのと、色々ある中でそうなるね、とでは。戦争体験者の生の声を聴く、そんな気持ちにさせられます。今年の夏で76年になりますね。
並選
113 ①丑年を重ね今在る初山河 宮崎清枝
丑年生まれの方でしょうか。その周期を重ね「今在る初山河」となる。常に前向きな姿勢が感じられます。ばんばひろふみの「昨日より若く」を想起させるものがありますが、こちらの方が硬派です。
107 ②いま一度逢いたき人よ紅葉晴れ 宮崎清枝
こういう思いは誰にでもあるだろう。「紅葉晴れ」の日に逢いたいと思う人だから、きっと晴朗で柔和な人だったのでしょう。ニュアンスは違うかもしれませんが、女流詩人長瀬清子の「あけがたにくる人よ」を想起させます。彼女は添い遂げた人ではなく初恋の人か誰かに呼びかけていますが。
100 ③秋日和猫の横顔気持ち良い 野原加代子
秋のお天気の良い日に猫が横向けで寝ている。見ているとこちらまで一緒になって横になりたくなるくらい気持ち良さそうに寝ていたのでしょう。
89 ④検温しサンタ出動買い出し日 三村須美子
「検温し」がコロナ禍のクリスマスであることを想起させ、それでもクリスマスプレゼントを楽しみしている子供達がいて、「サンタ出動」となる。ただ「買い出し日」は他の言い方にした方が良かったのではないかと思います。
38 ⑤どうなるの人の世変えたコロナさん 坪谷智恵子
本当これからどうなるのだろう。終末思想を語る訳ではないが、ワクチンが予定通りの効果を発揮しても、第二第三のコロナウイルスが出現する可能性があるという。例えば、温暖化による氷雪や氷河が溶け出し眠っていたウイルスが現れるかも知れない。コロナウイルスがワクチンに対する耐性を早期に獲得するかも知れない。悪条件しか出てこない状況。本当これからどうなるのだろう。
31 ⑥コロナ禍に餅代ほどのボーナス 中野硯池
「餅代ほどのボーナス」それはないでしょう、と言いたくなりますね。でも、これは固定給だから言えること。コロナ禍で、例えば、タクシー運転手だと、上層組織何とかしろといってもどうにもなりません。でも、これは労働者の声でしょう。行政はもっと民意を汲み取るべきですよね。
20 ⑦冬支度こんなに早く年をとる 金澤ひろあき
この句には、気づくと一年が過ぎ去るのが速いというのと、振り返ると人生が過ぎ去るのは速いという両方の意味があるように思います。「冬支度」という言葉が生きています。「年をとる」これ以外の言葉に置き換えるのは僕には難しいですが、出来ればもっと深みのある句になるのでないでしょうか。
14 ⑧木の葉降る今日の栞にせよと降る 金澤ひろあき
「今日の栞にせよ」が効いていると思います。一昨日は一昨日の、昨日は昨日の、そして今日は今日の「木の葉降る」ですよね。いってらっしゃいと手を振っても、振った人の唇の色、声音の調子、頬の色、髪の揺れ具合、同じ筈がありません。
12 ⑨どんぐりを拾いたげな七五三 金澤ひろあき
七五三といえば子供達が他所行くの格好をさせられて、半ば親の見栄の為に引きずり回される日。その子供の目に留まっているのは自分の日常、「どんぐりを拾いたげ」な目線。子供は親の玩具じゃないが、されてしまう不幸な瞬間がある。
49 ⑩冬枯の桜のどかに天に映え 蔭山辰子
「のどかに天に映え」というのがいいです。動植物のエネルギー値が一番高いのは夏だと思われがちですが、冬が正解なのです。春夏が放出期、秋冬が充足期です。大地からエネルギーを貰い受ける溜め込んでいる最中。元気一杯なのです。長距離を走って30分ほど寝ると回復する体力。良い寝顔です。
7 ⑪薬指の傷口肌寒勝手口 野谷真治
言い過ぎているような気もしないけれど、冬のシチュエーションならありか。「薬指の傷口」が低温乾燥の「勝手口」で「肌寒」でしっかり意思させれた。自分にも経験あります。
46 ⑫楽しかった京阪ホテル70代 坪谷智恵子
思い出をそのまま句にしたものですね。僕も参加してましたし、やはり楽しい思い出になっています。
33 ⑬晩緑は新しい靴買う日です 裸時
「晩緑」はブロッコリーの名前でもあり行方克巳句集のタイトル。新緑に対して濃いというか深い緑に葉々の頃という季語(?)。僕の季語集には載っていないので。これからもっと暑く活動的になる。その前に「新しい靴買う」のは、その季節が楽しみな証拠。ワクワク感があります。
39 ⑭旅心夢の国へと秋沈む 坪谷智恵子
「旅心」はGO TOのことだと思いますが、触発された心はコロナ第三波により「夢の国へ」、あれこれ世間でも騒いでいた「秋」と一緒に「沈む」ことに。コロナ対策の難しさ。「夢の国」に沈んだ旅のプランが早く実現すると良いですね。
56 ⑮下り坂逝った夫の名は登 蔭山辰子
「下り坂」と急に亡くなった夫をかけている。「名は登」というのは変えた方が良い気がしてますが、はいそこで笑いというような落とし方ならありでしょう。