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神聖同盟は死なず?:オーストリアとロシアの会合

2014-06-27 10:17:24 | 欧州情勢複雑怪奇

神聖同盟ファンのみなさま(誰?)、おまちどおさまでした。

ドイツがどうもバルバロッサ作戦v2に肩入れしている疑惑が濃厚だったので、もう神聖同盟はないのかと思っていた矢先、オーストリアとロシアが会合してました。

前回までのお話

1814年と1914年から見る神聖同盟の有用性

24日、プーチン大統領がオーストリアのフィッシャー大統領を訪問。この訪問に先立ってサウスストリーム・パイプラインのオーストリア部分の建設について、オーストリアのOMVとロシアGazpromが契約締結したようです。



だからといって、サウスストリームはまかりならんというEUの姿勢が崩れたということはないです。一応堅持されている。しかし、ここでオーストリアが乗ったことによって、おそらくセルビア、ブルガリアといった弱い国がまた盛り返してくるチャンスは大きくなるのではないのか、はたまた、現在ドイツはどう出て来るのかに注目が集まります(by me)。

さてそれが気にいらないのは、昔英仏、今アメリカ、ってことなんでしょうが、ウィーンのアメリカ大使館がプーチン大統領オーストリア訪問に際して声明を出していた。

ロシアのさらなる侵略を思いとどまらせるにあたって大西洋を超えた共同体は不可欠なものであり、オーストリアは今日の出来事がその目的のために資するか否か注意深く考慮すべきである。

In a statement, it said that trans-Atlantic unity had been essential in "discouraging further Russian aggression" and that the Austrians "should consider carefully whether today's events contribute to that effort."
http://www.dw.de/austria-defies-us-eu-over-south-stream-during-putin-visit/a-17734602

これって、ほんとのなの?と思わず読み返してしまうほど時代がかってて、ものすごく無礼ではなかろうか? 主権国家の挙動にそんな言い方をするってありなの? なんなのこの上から目線は! 

いやぁ、これって外交官の文書じゃないと思うなぁ。アメリカの外交官は素人のビジネス上がりが多いわけだけど、ここもそうなの? いやしかし、これって言い過ぎでしょう。

でもって、そのtrans-Atlantic unityというのが、実のところ、欧州ではしばしば問題になる。

大西洋主義者 vs 主権派 

はドイツにも、ロシアにもある。ロシアの現代版では、大西洋主義者 vs ユーラシア主権派と考えられている(前者代表がメドヴェージェフ、後者代表がプーチン一派)。

■ フィッシャー大統領の発言

フィッシャー大統領はしかし、アメリカ大使館の警告があろうが全然かまってないらしく、サウスストリームを擁護。また、「なぜ、NATO・EU諸国を横切る1本のパイプラインがオーストリア領の50キロに触ってはいけないのか、誰も私に説明できません」と言ったそうだ。

何の故あって我が国の行く手を塞ぐのかね、といった風情で、さすが学者さんだけあるなと思った。上の、アメリカ大使館の人、勉強した方がいいですよ。

Fischer also defended the project, stating that "no one can tell me why... a gas pipeline that crosses NATO and EU states can't touch 50 kilometers (31 miles) of Austrian territory."

また、ロシアへの制裁にも反対、ただし、プーチン・ロシアのクリミア併合は国際法違反ですよと言及はした、とのこと。
(この書き方が最近面白くて仕方がない。 it violated international law(国際法に違反した)、というこの文言さえあれば、私は仲間です、の証拠みたいになってる。ある種のというか、これはもう立派な信仰告白ではないのかとさえ思えて微笑ましい。我は聖霊を信ず、聖なる公同の教会、聖徒の交わり、罪の赦し、身体の蘇り、永遠の生命を信ず・・・とかつぶやくのと非常によく似た形式だと思う。)

それに対してプーチンの方は、アメリカからの横やりには反論しておくのが習わし(笑)なので今回も、

「私たちのアメリカの友人たちは…、自分で欧州にガスを供給したいのです。彼らはサウスストリームの契約を挫折させるためならなんでもします…」

と、身も蓋もないことを言う。

■ オーストリアとロシア

オーストリアとロシアは、長い長い歴史的付き合いがある。戦後世界の中では、オーストリアは中立国なので特にロシア側とか西側とかいうことはないが、一応西側の中にいるとみなされていると思う。しかし、実はロシアとの関係は悪くないというのが一般的な見方だと思う。

で、ソ連邦崩壊以降も、プーチンになってからウィーンを中心としてロシアのエネルギー企業は各国企業と組んでいったと考えられているようだ。だから、そもそもキーになる国および企業群だったわけだし、ひょっとしてある種「大御所」登場みたいな感じなのかも、と思わないでもない。

すっかり神聖同盟説を楽しむ私は、しかし、この静かな会合に何かとっても大きな意味を感じたくなる。

というのは、クリミアをきっかけにしてオーストリアとロシアが会って仲良くする、少なくとも裏切らない、というのは19世紀のクリミア戦争時と真逆だから。

19世紀のクリミア戦争の時は、ロシア vs 英仏+オスマンばかりがハイライトされるけど、オーストリアもバルカン関係者なので十分に関係があって、位置的にも問題的にもオーストリアはロシアと組む可能性があったが、イギリスびいきの外務大臣ブオルは、ロシアに強く出て、英仏の言うこと聞けよぉ(概略)という態度を取る。大きな理由としてはロシアに現在のルーマニアあたり(全部じゃない。モルドバ、ワラキアあたり)を支配されることを恐れたためと言われている。

しかし、じゃあ英仏の味方になって何かいいことがあったかといえば特にない。

そして、オーストリアがロシア帝国ニコライ1世の支持を失ったことだけが大きくのしかかって来る。というのは、神聖同盟以来、ロシア皇帝は律儀にオーストリアを支援していたから。

1848年にアラブの春ならぬヨーロッパのあちこちで革命騒ぎが勃発した時にも、プロシアが小ドイツ主義的解決をしかけてきた時にも、ロシア皇帝が明確にオーストリアを支持してくれたおかげでオーストリアは安定を確保していたといっていい。

ということで、ブオルは普通にいってニコライ1世を裏切ったわけで、そうまでしたのにオーストリアはただ孤立化というか地位の低下が否定しがたくなっていく結果だけを味わう。

で、それと同時に、神聖同盟が崩れていく。逆にいえば、英仏の特に英がやりたい放題の19世紀を迎えているともいえる。

ということで、ナポレオン以来の勢力が今や大西洋主義者となって立ち現れている現在において、オーストリアは、少なくともそれに乗らないと言った、と、前回と真逆のことをしようとしているという感じがするわけで、なにかとっても楽しみになってきた。

そして、現在のドイツは、オルミュッツ協定の方に行ったりするのか否か。・・・

アレクサンドル1世と弟ニコライ1世

 

■ オマケ

これを書きながらいくつかwikiのサイトを見たけど、この時点でのロシアの動きを「南下政策」と呼ぶのはどうなんだろう?という気がする。そもそもオスマン帝国を崩そうという大きな試みが西洋社会(特に英仏・独)にあって、ロシアもその一部だった、という話だと思うんだけど。

また、不凍港を求めてクリミア戦争を起こしたみたいな書き方もあった。セバストポーリは18世紀に既にロシアなので、クリミア戦争の頃は既に不凍港あります。あと、セバストポーリを「唯一の不凍港」みたいなことを書く人がいるけど、大型軍港の中の唯一の不凍港ならあってるけど、黒海はギリシャ人植民地だった頃から良港がいくつもあるのでセバストが唯一の不凍港というのはへんだ。

バルカン半島とロシアの関係を汎スラブから見るのも適切じゃない。上で書いたようにオーストリアとの関係が重要だったと思う。

なにか日本におけるロシア記述って独特におかしいとかねがね思ってるので、そのうちこれはまとめて考えたい。なんなんだろうね、これ。


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