今日になって、プーチンが5月29日にフランスを訪問することがクレムリンのサイトに出て来た。数日前から、多分行くんだろうと言われていた。というより、もっと前からそうだと思っていた人もいるでしょう。
なぜなら、訪問の目的はピョートル大帝のフランス訪問300周年を記念した催しだから。企画段階から首長の訪問可能性はあったでしょう。
ベルサイユ宮殿の催しのご案内はここ。
Peter the Great, A tsar in France. 1717
http://presse.chateauversailles.fr/exhibitions/exhibitions-at-the-palace/peter-the-great-a-tsar-in-france-171730-may-24-september-2017-grand-trianon/
今年の前半には、イギリスで1917年の革命から100周年を記念して革命と芸術という展覧会があった。
バチカン展、ビザンチン展、革命と芸術@ロンドン
しかし、この展覧会に現在のロシアの首長が出る意味はあまり感じられないが、ピョートル大帝フランス訪問ならロシアの首長の存在はいいかも、とか思えるわけで、このへんはやっぱりいろいろ考えて構想されているんだろうなと思ったりする。
で、イタリアとロシアとの間は、前のエントリーで書いた通り、こっちはもっとずっと深い話。これはもう、キリスト教世界的にはイタリア王とロシア皇帝は同盟しました的なインパクトがあると思うなぁ。精神的には神聖同盟を超えてる。
聖ニコライの聖遺物、モスクワに到着
で、その直前には、イタリアのジェンティーニ首相がソチを訪問してプーチンに会っていた。
http://en.kremlin.ru/events/president/news/54509
その時、ジェンティーニ首相は会見で結構意味深なことを言っていた。
二国間の関係はもちろん私たち(プーチンと首相)の会話の中心でした。私たちは常に、ロシア市場のイタリア企業とロシアのビジネス界との信頼関係を、最も難しい時でさえも-これは既に過去のことになったかもしれないわけですが-維持しようと努めています。
Bilateral relations are, of course, at the centre of our talks. We have always tried to maintain – even in the most difficult times, which may already be a thing of the past – the trust of Italian companies in the Russian market and the Russian business community.
そういう認識であることをはしなくも表明したんだな、と。ということは最も難しい時期は何と共に去ったのだろうかと考えるに、やっぱりヒラリーの敗北か、とも思うし、ブリテンのEUからの足抜けかとも思えるし、その両方かもしれないけど、この首相は、多分もう終わったなといった感じでいる模様。
で、そのイタリアは来年OSCEの議長国だそうなので、これも楽しみ。
そういえばイタリアは去年、ベネチアのあるベネト州でこんな勇気ある決議をしていた。
イタリア・ベネト州クリミアの意志を尊重しろと決議
■ 神聖同盟アップデート編
ということで、現在の状況をまとめて考えるに、神聖同盟アップデート地中海再編、みたい感じじゃまいか。
3年前に、これは神聖同盟のようだと考えた時には、ドイツ勢力とロシア勢力が、EU/NATOという現在の永久革命論者みたいなやつらを受け止めている、という恰好を考えた。オーストリアがまず最初にロシアの方に歩み出したというのもポイント高かった。しかし、プロイセンのメルケルが破壊勢力に回っていた。
1814年と1914年から見る神聖同盟の有用性
そこで、神聖同盟側は、ハンガリー、チェコ、スロベニアを固め、イタリアに到達。フランスとは南からのアプローチを示唆しつつ戦略的な妥協を求める、みたいな感じか、など言ってみたい。
昔は、このフォーメーションをいわゆる金融資本側がロシアを債務付けにし、一方オーストリアを取り込んでロシア帝国とオーストリア帝国を仲たがいさせて崩していったと考えられているのだが、今回はロシアが崩れているようには見えない。金の出元は1か所にしかないわけではない、ってのと、200年前と現在のロシアが異なるのは、現在のロシアにはみんなが欲しがる売り物があって現在売っているってところでしょうね。これこれ。ドイツとの間に敷かれているノルドストリームというパイプライン。
で、トルコとの間にも、ブルーストリームが走っているし、その上でトルコ・ストリームの建設に着手してる。スラブブラザーズというロシアの親戚国家側に行かずに、トルコを選んだのは、スラブ諸国は弱いから崩されるオッズが高すぎると踏んだんじゃないかと私は思ってる。さらに、東方ではチャイナとの将来的な取り組みを明らかにした、と。
ということで、このフォーメーションがある限り、欧州諸国のみならず近隣諸国はそう簡単にロシアを切れず、そうであればロシアの財政を逼迫させるにも限界がある、と。
さらには、資産持ちだが引きこもりだったソ連と異なり、ロスネフチ等々の国営企業はがんがん外に出るポリシーに変更しているってのもこの流れでしょう。自分を孤立させないことが、結果的に地域の安定につながるという固い信念とみますね。win-winと言ってもいいけど。
この一言は本当に重要な一言だったと再度そう思う。
ロシアのプーチン大統領が1年前、ドイツの「Build」紙とのインタビューで、過去25年間の西側の取り組みの間違いをいろいろ指摘していたのだが、それを受けてインタビュアーの方が、あなたたちの方にも間違いはあったのでは、と尋ねた。するとプーチンは、
「ありました。私たちは、自分たちの国益を強く主張できていませんでした。最初からそうすべきであったのに。そうしていれば世界全体はもっとバランスの取れたものとなっていたかもしれません。
とりあえず過去25年の恐怖時代は終わりつつあるんだと思う
ロシアを貧乏扱いするのは根本的に間違っていると私が前から言うのは、この人たちには位置的な重要性という測りがたい資産があり、その上で、座っているところの下には富が眠ってるわけでしょ。あと真水が豊富というのも実に貴重。で、こういうのはtangible(実体的)なまさしく富なんだけど、GDP、GNP等の測定方法では測れない。金(カレンシー)に拘る人が見えなくなるのは、カレンシーが富だと思っているところでしょうね。カレンシーはどこまでいっても価値の交換ツールにすぎない。富ではない。もう一つ。人材も文明も富だが、これも測れない。
ということで、東地中海に陣取るロシアとイタリア、フランスが仲よくしているとなると、文明史的な視点からのヨーロッパ再考みたいなトレンドになるんじゃないですかね。
同時に、中東、ムスリム世界をテロ戦争から解放することもテーマでしょう。ロシアはムスリム世界と排他的になることはあり得ない、とプーチンが前から言っている通り、実際ロシア南部はムスリム世界との交差路。そもそもロシアそのものがモンゴルとの長い決着の上に成り立っている。
ロシアのやろうとしていることはシリア危機より大きかった
私のまとめとしては、文明史的なアプローチによって、非歴史的・没個性的な一極支配妄想が壊れつつある、それが現在だという感じでしょうか。
文明の衝突 | |
Samuel P. Huntington,鈴木 主税 | |
集英社 |
そうそう。ドイツは結局自分の自重でひっかきまわす役割を担って自滅してる、というところ。結局ここに出てこない奴が筋書いてるやろ、なんですよね。