主流メディアってほんと、誰がどこでどう管理してるんでしょうね。興味がわきます。
で、最近の動向としてトルコものの出方がとっても不自然。
こんな感じで、トルコ政府は軍、治安機関、学校等々社会全体を改築中といったところ。
トルコ政府、軍の権限縮小に着手
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM28H6R_Y6A720C1FF1000/
一方で、トルコ内にある米軍基地では、数日前にもイズミルの基地(エーゲ海側)で火事があり、昨日は昨日でインジルリク空軍基地(シリア近傍)で、群衆が、反米のスローガンをあげて騒いでいた模様。
Thousands Yell 'Death to US' Near Turkey's Incirlik Base, Home to US Nukes
http://sputniknews.com/news/20160728/1043728040/turkey-incirlik-nato-riot-nuclear.html
まぁその、相当に大きな変化が起きているんだから、通常だったら西側メディアは大騒ぎであっても不思議ではないのだが、なぜだかこれよりもロシアと米民主党の方が大事らしい。もうね、訳がわからない。
■ 中東を反米親露に引っ張るトルコ by 田中宇さん
そんな中、田中さんの分析。
中東を反米親露に引っ張るトルコ
https://tanakanews.com/160726mideast.htm
(前略)
従来は、米国が圧倒的な強国で、米国は他の諸国にどんな意地悪をしても良いが、他の諸国が米国にやり返すのは許されなかった。だが今、米国は中東支配に失敗して立場を弱め、その変化を察知した鋭いエルドアンは、米国に濡れ衣をかけて非難し、米国が反撃してこれないことを、世界に知らしめている。エルドアンはすごい。
実際、反撃しないどころかたいした批判さえしてないですからね。確かにこれは凄い状況だと私も思います。
で、ここが最も凄いところだよなぁと思っている。
トルコが米国をなめてかかって喧嘩を売るのは、もはや中東において、米国に追随していても利益がなく、ロシアに擦り寄った方が安保戦略上良いからだ。トルコの南隣のシリアは、完全にロシアの影響圏になった。米国に倒されかかったアサド政権がロシアの軍事進出に救われて健在で、シリア内戦はロシアとアサドの 勝利になっている。米国のアサド打倒に便乗したトルコは負け組になって馬鹿を見た。シリアは、空軍的にロシア、地上軍的にイランに助けられている。
太字で示した部分、つまり、トルコにとっては別にロシアは敵じゃないじゃないか、少なくともそのようにできちゃうじゃんか、というのを日々示してしまっているところが、西側的には大変な状況だと思うわけです。
だって、少なくともトルコにとってはNATOという対ロシアの組織にいる意味ないやん、だから。
で、このエリアはトルコが最後にマジの露土戦争に負けて、英仏の介入戦争であるクリミア戦争を誘発したあたり、つまり1850年代ぐらいまで一気に戻ったってこと?という気もする。
露土戦争は大小あわせて10回ぐらいあると思うんだけどオスマンは一度も勝ったことがない。後半は殆ど一方的に負けてるので、考えようによっては、この平面はロシアと協調できるならそれが安定だ、なのかもなぁと改めて思う。
で、クリミア戦争での介入に始まって、ベルリン会議(1878年)あたりまでこのへんは、英仏、オーストリア、プロシアが介入してきて、あたかも自分たちの「島」であるかのように振る舞う。結果的にはオーストリア、オスマンが潰れて、そこから何十年か後にロシア帝国も第一次世界大戦に引きずられて没落する。
これが巻き戻されるというのではないけど、これはやっぱり大分無理をした線引き、体制変更、いや文明を超える的なものでさえあったのだよなと今となってはそう思う。
■ トルコ、親欧米派を一掃する
と、そこから考えると、
エルドアンのすごさ(世界中の「リベラル民主主義者」と称する「リベラル欧米覇権主義者」たちから見た場合の危険さ)は、米国に喧嘩を売って米国の弱さを 露呈させていることだけでない。もう一つのすごさ(危険さ)は、クーデター後、エルドアンがトルコ社会のイスラム化を扇動することで、トルコ国内から「リ ベラル派」「親欧米派」を一掃しようとしている点だ。
そこなんですよ。これはトルコ国内の個々人の現状がどうなのかいろいろ心配なところはありますよ。
が、それはそれとして、これはすなわち、トルコというあの場所で暮らしてきた人々にとっては、ヨーロッパ人になるための諸々、ある種の「矯正ギブス」を捨てている過程のような気もする。
これがどういう余波をもたらすのか誰にもよくわからない。
■ ご高邁なリベラル様は何をした
で、田中さんは、きっと西側のリベラルの人たちは、これによってトルコの教育、制度的安定等々が遅れ、経済発展が期待できなくなるのだ云々というのだろう、しかし、西側を見てみろよ、と。自分ちだって経済は行き詰まるし、「リベラル・知性・エリート」の象徴であるヒラリーを、反知性とかいわれてるトランプが優勢になっているじゃないか、と。
さらに、
知性あふれるエリート「金融専門家」たちの素晴らしい金融政策であるQEやマイナス金利が、日米欧の金融システムを根底から破壊しかけている。知性あふ れる記者様たちは、QEやマイナス金利を評価する記事しか書かない。気づいてない人が多いが、米国覇権下の世界はすでに無茶苦茶である。エルドアンが全大 学の学部長を解雇しても、大した話でない。むしろ、エルドアンが試みる荒治療的な欧米リベラル覇権主義からの離反は、中東の新たな方向性として注目すべき である。
これはもう、田中さんの憤激という感じですね。
■ カニカマ・リベラルの終わり
私は、現代のエリートをリベラルな人たちと呼ぶのは、単に彼らのポジションに「リベラル」という札がついているだけだから、と思っているのでリバティを重んじる考え方が敗北したという立場は取りません。
現在見られるリベラルな人々に対しては、私はほとんど軽蔑と憎悪の入り混じった感情で向かっていることさえあります。
そもそも、罪もない人々を何十万にも殺すことより大きな人権侵害はないのではあるまいか? それを、私も含むこの社会、西側社会は無視を決め込み、それどころか、嘘に嘘を重ねて次から次から過激派思想を吹き込み、別口で大量の銃器を与え、金を与え、つまりテロリストを養成し、そのテロリストによって、つまり、自ら育てたテロリストによって無辜の民を殺傷せしめていたわけですよ。このどこに大義があって、このどこに自由だの民主主義だの人権が関係あると言えるんでしょう?
昨日あたりシリアとロシアの軍がアレッポに食料だのなんだのを持ち込んでいたけど、西側の人々はそんなことすらする気がない。
どうしてアメリカ、イギリス、フランスがシリアに基地こさえたりアルカイダまたはアルカイダまがいの輩を支援して住民を襲わせても無問題なのか。西側なる高邁な理想を持った諸国群は各国でそれを問うことすらしない。
というわけで、西側世界にあったリバティを重んじる思想なんて、たいそうな触れ込みの高級なカニかと思ったらカニカマだったなってところだし、そのカニカマも腐ってたな、みたいな感じ。
だから、トルコ人がこのカニカマを食えねーといっても驚くにはあたらない。
ま、各地各様に、地理的に隣接した人々との関係を壊さないことを念頭に置きながら、自分たち(概ね国単位)にとってふさわしい統治機構はどんなものかを自分たちで試行錯誤していくことになるんでしょう。
もともと70年かそこら前までは、ユーラシアはそんなところだったんだから。
いやしかし、こんなところまで来るとはな~と未だに信じられないぐらいの展開だと思う。
■ オマケ
アメリカが殴りに行くのでは?と期待している人もいるかもしれないけど、トルコって人口8000万人ぐらいいて、軍も3軍+沿岸警備とかいれたら50万以上いると思う。その上場所が場所なもんで実践豊富。現状、士気も高そう。
ついでに、黒海の向こうはロシア、東隣のイランも強い軍を持ち、さらについ最近ロシアのミサイルシステムS-300がよーやく納品された。南隣のシリアには、ロシアが基地をかまえてS-400を配備している。というわけで、空の守りは近隣に支援されているような状態といっていいと思う。
そういうわけで、軍事的制圧はとてもハードル高い。そうなるとカラー革命的に、群衆騒乱からクーデーターってなウクライナモデルが来る可能性がある。だからこそトルコ政権はさっさと太平大西洋主義者になりそうな勢力を解体した、ってことだと思う。
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イスラムってペルシャもオスマンもキリスト教徒を「同じ書の民」とか言って寛容に扱ってきた人たちなんだし、そこらへんの歴史的記憶をまさぐることも彼らにとって良いことじゃないかと思ったりもします。
ロシアの現状のリベラルは本当に大西洋の向こうの人たちと同じ価値観であるべきという、つまり「大西洋主義者」っぽいんでしょうね。
ぶっちゃけ90年代に何がなんでもアメリカがいいと思ってアメリカに出かけていってそっちで成功したりすると、なおさらそうなりますよね。そこで、俺の人生ではそうだがこのことはロシアにとって同じではない、と思える人と思えない人がいる、と。
立派なことじゃないですか、言論の誤りは正しい言論で潰すことを徹底するって。こんなロシアのどこをどう見たら独裁国家になるんだか。
この分だと反プーチンで知られたポリトコフスカヤって女性もどこまでまっとうだったか疑わしくなりますね。ついでにプーチンに殺されたって線も無くなりますわな。