ロシアが中東方面の影響力を伸ばしたことは既に確定という感じだけど、さらにまた一つ。
ロスネフチという半分国営(50%+3株だったかを国が持っている)のロシア企業が、リビアとイラクの原油を買い付ける契約が整ったそうだ。Bloombergの記事。
Rosneft Expands in Middle East With Libya and Iraq Oil Deals
Salma El Wardany, Stephen Bierman and Bruce Stanley
2017年2月21日 18:50 JST 2017年2月22日 6:00 JST
https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-02-21/rosneft-signs-libya-oil-deal-as-more-investors-return-to-country
リビアでもイラク(クルド地区らしい)でも、原油を買うだけでなく、同国内の探索もするという契約みたいだ。
これは、年末にひと騒ぎあったロスネフチの20%分の株式の民営化の話ともかみあう。
方針として、ロシアまたはソ連国内の採掘だけでなく、海外事業にも乗り出すという話ですね。そのうえで、ロシアの精油、販売のシステムに組み入れる、と。
まぁ、久しい以前から「新メジャー」とか言われてるわけだけど、そうでっせ、と肯定的にマジで乗り出して来たというところか。
年末の話はこれ。
グレンコア、ロスネフチに1.2兆円出資へ カタール投資庁と
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM08H2N_Y6A201C1EAF000/
このディールはすごかった。ほとんどロシアの思い通りみたいな話になってると私は思った。
もちろん20%分の株式を民営化しない方がいい、民営化して外国人に富をもっていかれるとは何事だ、という考えも成り立つ。既にBPが20%弱持っているので、これ以上どうするんだ、売国ぅうううというのもわかる。とはいえ、まず、この20%をそのまま外国の巨大企業とか外国政府のひも付きにして取締役を入れられる、という方向にいかずに、カタールとスイスの資源商社に半々で、つまり約10%弱づつにして売ったので、外国の影響は可能な限り小さい。
さらに、上の記事にもあるように資源商社グレンコアが現在持っている欧州の販路にそのままかかわれるという点もロスネフチにとってプラス。
ロスネフチは現在、日量400万バレル強の原油を生産する。グレンコアは今後5年間、ロスネフチから22万バレルの追加の供給を受け、トレーディング事業を拡大する方針だ。ロスネフチにとっては、新たな販売先を開拓しやすくなる。
ということで、むしろ現在のロシアは、有り余る資源を持って引きこもるタイプのソ連ではなく積極的に海外事業を拡大する方向で、ロスネフチはその代表例って感じでしょう。
また、ロシア鉄道(いかにも国鉄みたいな名前だし実体もそれに近いと思われるのだが作りとしては民間企業)も同様に、あっちこっちで共同事業を手掛けはじめているし、そもそもチャイナの陸のシルクロード構想に深く関与しているので居ながらにしてインターナショナルになっているともいう。
全部国営だと持ち出ししちゃう傾向になるけど、基本民間なのでプロジェクトごとの収支をしっかりさせないとならん、というモチベーションが組み込まれるというのが良いのではあるまいか。コントロールは国の省庁が取ってるが、民間企業の良さを生かそうって話。原初的なアイデアとして、これってロシアの軍事産業がモデルなのでは? あそこはソ連時代からたくさんの設計局があって、最後は国の国防関係省庁がコントロールするとしても必ずしも一元的に国がやってるって感じじゃないのが良品を生み出す一つのコツみたいな感じなわけでしょ。そのアイデアの補正拡大版みたいな。
また、どうしてこう積極的に打って出るかというと、要するに「封じ込め」とかいう西側が大好きなアイデアを絶対やらせないようにすることが将来のロシアの利益であるという確信から来てるのでしょう。
■ おもしろくないライオン
で、こうなってくると、面白くないのが古いメジャーだった人々というべきか、今さら何を言ってるんだよ、の人々というべきかの人々。
イギリスの国防大臣ファロンが、リビアとロシアが交わした契約が気に入らないってんで、我々はリビアに熊の前足が入るなんて見たくない、みたいなことを先週末のミュンヘンのセキュリティ会議で言ったらしい。クマというのはロシアのこと。
それに対して、ロシアのショイグ国防相が、その後の会見の中でそのことを尋ねられて、
その「動物」の話ですが・・・。UKさんの紋章に何がついているでしょう。たしかライオンだったと思います。昔からこんなことが言われていますね。すべてのライオンは猫科だ、しかしすべての猫科の動物がライオンであるわけではない。
みなさん自分の仕事の心配をしましょう。私は、動物園の中にクマにどうこうしろと言える動物がいるとは思いません。
https://www.rt.com/news/378184-russia-uk-shoigu-fallon/
と答えたそうです。
いやいや、これって冗談めかしてますが、ショイグさんからのきつーい抗議だし、動物園の中にクマに指図できるやつがいるとは思わない、というのは俺たちはそれだけのことをやっているという自信と覚悟の現れでもあるでしょう。
で、猫科ならばの言は、felineという猫科の動物を指す語が狡猾、ずるさとして使われることがあるため、このある種の言い古された言い方の意味は、狡猾であればライオンになれるというわけでもない、ライオンをライオンたらしめているのは狡猾さのみにあらず、ということでしょうね。
ロシアは既にリビアの安定化に関与しているし、この動きはイギリスがどう言おうと基本的には欧州諸国の人たちにとっては歓迎でしょう。自国政府がイラク、リビア、シリアを壊したことによって難民の大量化が始まったという認識は各国で固いから。
ということで、この動きがもたらす一つのインプリケーションは、メルケル、イギリス保守党政権などにとってじわりじわりと巨大なマイナス、ロシアにとってプラス、ってことですね。アメリカは、ロシアがやってることを泳がせることによって間接的に支援とも言えるけど、その前に中東域でのアメリカの評判が悪すぎて自分じゃ落ち着かせられないという事情もある。
Russia About to Mend What West Left Broken in Libya
https://sputniknews.com/europe/201702211050897619-russia-libya-europe/
しみじみ思うに、ネオコンが本当に愚かだと思うのは、人は石ころでもなく、情報でもない、物体でありかつ精神的存在でもあるということが本当にわかってないということではなかろうか。なんでも騙せると思ってる。殺せば終わりだと思ってる。が、しかし、物事にはなんでもconsequences、成り行きの結果が付いてまわる。殺された人には家族があり、そして同胞がいる。
トランプ大統領就任。でもまぁSCO&南北回廊も元気よ
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UICというのはフランスがヨーロッパの鉄道を支配するために創設した機関で、創設時の経緯からフランスの影響力が強い組織なんですが、東西冷戦時の一番激しかったときにも鉄道は鉄のカーテンを越えて相互に乗り入れしていて、客車のサイズや車両の貸し出し等、実務的な問題を中心に共産圏の地域と協力関係を維持してきた歴史がある。
今の状況は貴ブログが取り扱っているテーマにある通り、EUが民営化指令や標準化指令を持ち出して、東欧圏からロシアを弾き飛ばそうとしている、それにロシアが対抗しているという状況なのだけど、各国の実業部門がEUの政策に賛成してあるかといえば決してそうでもなく、特にフランス国鉄はTPPに対する日本の農協みたいなポジションで、鉄道自由化の反対派の急先鋒だったりする。徹底的にEU指令に抵抗してきた経緯があるんだけど、フランス国鉄は EU指令には手出しできなくても、UICの方で絶大な影響力を持っていて、フランス政府やEUを通さないで、ある程度の政策決定を主導できる力を持ってる。
ここに ヤクーニンが出てきたと(笑)
雲を掴むような抽象的な見方なんだけど、 EU&DB VS UIC&SNCF+ロシアのグループが形成されているような印象を受けますね。
ウォールストリートジャーナルに良い記事がありました。やはり西側はバルト三国やウクライナのロシア軌道をひっぺがしたいのでしょうね。
ttp://m.jp.wsj.com/articles/SB10001424052702304468904579247321447356320?mobile=y
ナイスなフォローアップありがとうございます。
いやほんと、鉄道なわけですよ(笑)。
で、ロシアのプーチンらの集団の大物セルゲイ・イワノフが大統領府から首になったと一時スキャンダル的に書かれてましたが、次の仕事は輸送と環境担当の特使、というのを見た時、つまりそっちが重要になるという意味なんだろうなとか思ってみてました。
そうそう、フランスは実は今でもいろいろ強いんですよね。EUは壊れても、Council of Europe(欧州評議会)は壊れないだろうと思うんですが、こっちはロシアのグループも込みのホントの欧州が対象。で、これは基本はフランスがリーダーといっていいんじゃないですかね、ストラスブールにあるし。
ttps://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/77/Länder-mit-UIC-Mitgliedern.png
交易を通じて安全保障レベルの信頼創造に繋がっていけば、世界は凄いことになると思います。
交易と言っても海運と陸運の違いがあります。そして、陸運で最もコストが安いのが鉄道です。
米英中心の西側文明は海運を中心としており、その裏には強大な海軍力があります。海軍力と海運力を合わせたシーパワーがこの文明の原動力です。
一方、ロシア・中国・独・仏などの大陸国家は陸運優位で、その裏には強大な陸軍が存在します。鉄道を中心とする陸上輸送力と陸軍力を合わせた者がランドパワーです。
長い間、ランドパワーとシーパワーの戦争が続いてきましたが、どうやらランドパワーの勝利で決着がついたようです。それを反映するのがUICでのフランスとロシアの親密関係なのでしょう。
UICの正会員国がユーラシア大陸の主要国を占めていることが注目されます。米英のシーパワーが滅亡した後、UICはランドパワー覇権の協議組織となることでしょう。日本もUICの正会員であることは興味深いです。UICの中心になると思われるロシアのシベリア鉄道が宗谷海峡トンネルや第二津軽海峡トンネルを経て本州に延伸される計画は、天然ガスパイプラインの日本延伸と共に、ロシアを中心とするランドパワーの世界覇権掌握の象徴となるでしょう。