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アメリカがソ連に見えた日

2014-03-27 20:36:14 | 欧州情勢複雑怪奇

いやぁ、アメリカ様が、上から目線でいろいろとおっしゃるクリミア情勢。制裁だ、罰せよ、許してはならない!というその発想が何かこう、なんであんたそんなに偉いの?という素朴な疑問を自然に誘発していうのがちょっと痛い。

メディア支配が強いのがアメリカ覇権の一つの大きな要素なので、いわゆる西側世界というところの主要な報道は、基本的にアメリカ様のご意見をそのままお聞きする体制になっている。本日の御宣託は、

ロシアのウクライナ介入は座視できない=オバマ大統領
http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304233804579464002159910982.html

なのだそうだけど、アメリカ人もヨーロッパ人の多くも、ロシアがウクライナに介入するのは当然だろう、隣の親戚なんだからと思ってる。カナダで反米革命起ったら俺らは黙っているのか?というやつ。

概していえば、なんでそこまでアメリカが拘るんだ、というのがアメリカ世論の多数でしょう ■1)。ただ、そういうアンケートは取らないでしょう。答えが出たらまずいから(笑)。で、最近は、その拘りが何かのはずみで本格的な介入、すなわち軍事オプションに入ったらどうするんだということがアメリカの大衆を恐れさせている、というのが正しい観測だと思う。

特に、オバマ政権は普遍的価値とか国際法だのというのを振りかざして大きなことを言うのが常なので、それでは相手には屈するか挑むかの二択しかなくなる。つまり、交渉者の科白じゃない。で、それをそもそもアメリカ覇権に従順でないプーチンに言うってどうよ、ということが危惧されている。(さらに、インドも中国も、中東域もそんな話に真面目に乗ってこないじゃんか、というのが明白だったりする)

しかも、それでアメリカが非常に正しい一人裁判官状態だというのならともかく、そんなこともない。

さらに、今回のアメリカ政府の対応で最も問題なのは、今回の騒動がいかなるものかが隠せていない、ということじゃないかと思う。

アメリカ政府の今回の基本方針は、

(1) キエフで政変が起きて、右派主体の「暫定政権」が出来た。政変にはアメリカの政府関係者も関与していた。
(2) 大きな利益(お金じゃなくて基地でありクリミア半島)を失う恐れのあるロシアは、実効支配に及んだ

という展開のうち、(1)を隠して、(2)だけ見て、ロシアは凶暴だという印象を大きくする。

また、主要メディアではまず触れないことは、

(a) ウクライナをNATOに入れようとする試みが一貫して存在すること

(b) ウクライナに米国政府の資金を含む多数のNGOなるものが革命を仕掛けていること

これによってロシアの反応が素早く強烈なことの意味がアメリカの一般人には伝わらない。

とはいえ、自分たちがさんざん(1)を宣伝してきて、キエフ革命だのウクライナ革命だのといって喜んでいたので、非常に多くのアメリカ人もヨーロッパ人も、出来事の展開は結構よく知ってる(ただ、(a)(b)がないからロシアが狂ってるように見える)。だから総体としては基本線は隠し切れない。クーデター(名前はともかく)による暫定政権に正統性はないのじゃないかという声も根強い(当然ですが)。■2)

また、クリミアの住民は住民による自治権を行使して独立を勝ち取り、その上でロシアに併合してくださいとお願いした、という成り行きを「違法」だというアメリカ政府の態度に疑問を抱いている、割り切れない、見聞きしたくない・・・というアメリカ人は実は少なくない。。だって、アメリカってそうやって独立したんですよ、だから。日本でちゃんと説明されているのは藤井厳喜先生ぐらいか。(藤井厳喜『クリミア問題で迷走する米オバマ外交①』

そういうわけで、隠し切れないところを、騒ぎを大きくして、大きな声でとにかく悪いのはロシアなんです、で押し切ろうとしているが現在のアメリカ政府。(共和党支持者が掲示板で、これってもし共和党政権下でやってたら、アメリカの主要メディアは毎日毎日、今の大統領は民主主義さえわかってない、とかいうよなぁと皮肉っていた。主要メディアは民主党支持なので。)

しかし、考えてみればわかるが、それで騙せるのは関係ない一般大衆だけ。外交の現場で交渉している人は、まさかそんなわけにはいかない。(ロシア政府はいっぱい証拠持ってると思う)

従って、強い制裁なんかできるわけもない。もちろん、不公平を構わずロシアには制裁を、とアメリカは言うのだが、そもそもだってロシアにはロシアの理屈があるし、別に間違ってるか? クーデータ政権に正統性あるか?ここでロシアと喧嘩して何かいいことあるの?というのがあるから交易の当事者たる欧州勢はおもいっきり引けてる。

この思いっきり引けてるところを、マスメディアは、「欧州は弱気だ」、「欧州のエネルギー配置が間違っているのだぁ」とか書くわけだど、実はそういうことじゃない。(無理やりロシアにエネルギーを買わされているわけもない)

つまるところ、現在のコンセンサスは、アメリカの政府は嘘をつき続けている、までは衆目の一致するところになっていて、だから、怖いので面従腹背で行きましょう(当事者、御用学者系の関係者)または、言っても仕方ないので侮蔑しときましょう(一般大衆)と、いずれにしてもアメリカにとって好ましい対応ではない対応をされている。

どうなんでしょうね。これって、アメリカが自らの権威を下げるために自ら果敢に挑んでいるような気がします。

しかも、オバマは語れば語るほど・・・と上で言った通り、今日も、畳みかけるように、「ロシアによるウクライナへの軍事介入は、武力により欧州各国の国境は変更できないという長い間順守されてきた協約に挑戦するものである」とか言うんだけど、そういう綺麗ごとを言い出すと、なおさら、諸国民はですね、いろいろ思い出すわけです。

そこら中空爆してまわってるアメリカに言われても・・・と中東域の人は怒り、長い間順守されてきたっていうけど、セルビアを78日間空爆してコソボを切り取ったのは1999年のことなので、そう長い間順守はされていないんです、とスラブ系の多数が思い出し、ユーゴ紛争の時のNATOの攻撃的組織への変貌に反対したアメリカのいわゆる反戦系の人たちがしばらくぶりに目覚めてる。反戦系の人たちは基本は民主党支持でオバマに賛成していたい動機があるから静かだったのだが、ユーゴ紛争とか言い出すと目が覚める。共和党支持者の孤立派系統は最初っからウクライナへの関与に絶対反対。ロン・ポールなんか、RT(ロシアTV)に出て叫んでた。(ロシアはロシアでメディア大国的なところがあるので、当然このへんを上手く救い上げてハイライトしてくるから、ネタは尽きない。)

ソビエト連邦崩壊の頃、ソ連とその衛星国の政治家たちが聴衆の冷たい反応の中演説していた映像をよく見た記憶があるんだけど、オバマの姿を見てそれを思い出した。

アメリカは強力な金融業界があるから引き続き大国ではあるんだろうけど、何かが微妙に変わってきているようにみえる。

■欧州の地殻は動いているのかも

今日はこんなニュースもあった。

独シーメンスはロシア企業との関係維持、CEOがプーチン大統領と会談
2014年 03月 27日 11:04 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA2Q01U20140327

また、欧州では、ウクライナの暫定政権がどんな人たちなのかの報道が地味にある。地味にやっても、一回みたら、こりゃもうマトモじゃないってことがわかる人たちなので地味でOKともいえる。諸々の革命と同じく、おそらく危険な部分は今後排除されていくんだとは思うけど、その前に見せてる欧州勢の意図を理解したいものだ。

前から書いているように、ドイツから見ると今回のアメリカの騒ぎは、ドイツ-ロシアの関係を割こうというアメリカの陰謀だ、ぐらいに見てるんじゃないかと思う。しかしそうは言わない。しかし、それはつまり、アメリカに対する根深い不信感なんじゃないかともみえる。ちょっと怖い。

アメリカは正論を語って通じる相手じゃない、交渉可能な相手じゃないと思ってるから実力行使に出てる、一方でロシアに与して反米になって潰されるのも御免だ、なんせ前科2犯だし(笑)。そこで、現状ではどうあっても反米な、勇気というか蛮勇で名高いがなぜだか言語能力の高い人たちがいるロシアにいろいろ言わせるだけ言わせて、その対極のアメリカがまた罵る、そのたびにドイツは仲裁に入りつつまとめる、最終的にドイツの経済的利益は失わない、その副産物としてロシアは経済的利益を確保する(ドイツが大顧客であり、大投資家)、という構図かと。

それに対して、実のところ面白くないのは多分イギリスなんだと思う。

イギリスの立場は非常に微妙。特にNATOに関して。今回も、クリミア問題の根っこにあるのはNATOの東方拡大問題。

もし、欧州がアメリカからの関与を嫌ってNATOを終わりして欧州軍でやっていこうとしたら、また、逆にアメリカの側からもう割りがあわんからおしまいとなってきたら困るのはイギリス。

そうなるとイギリスは欧州の単なる1国になる。NATOがあるからこそ、アメリカの陰をチラつかせて自らの立場を特別なものにしている。調整者として便利な人だ、という言い方ももちろんできるけど。多分、だから、EUに主権を奪われた格好になっていてもEU存続に反対できないんだろうと思う。EU拡大派とNATO拡大派は協調してるから。

20年前、ロシアがこんなにしゃっきりナショナリストの国家として復活してくるとは誰も予想していなかったように、20年後の世界はきっと今とはだいぶ違っているんだと思う。

■付録

1) Pew research centerの最新の調査

アメリカ人に聞きました。ロシアに対してもっと断固たる措置を 35%、深入りするな 52%

■2)

イギリスで、UKIP(概ねEUから出たい派の党)の党首が、討論で今回のウクライナ騒動にはEUが深くかかわってる、"Imperialist EU has blood on hands" とか言い出し、それを討論の相手イギリス副首相クレッグが、驚いた、まるでプーチンに味方するのかね、とやり返し騒ぎになってる。

基本的に、イギリスではUKIPだけでなく、EUの東方拡大には批判がある。結果的に資金を出して大量に移民を引き取ることになるだけで俺らに何にもいいことない、だから。EUのことを帝国の拡大をやってるとかEUSSR(欧州ソビエト)とか言ったりもする。EUSSRはうまいと思う。すべての主要な権限をブリュッセルに集中させ、誰だかわからない高級官僚たちが計画を立て、国家は自治共和国だからそれに従う、と考えると確かに似てる。

Clegg attacks Farage for 'siding with Vladimir Putin' over Ukraine
http://www.theguardian.com/world/2014/mar/27/nick-clegg-nigel-farage-vladimir-putin-ukraine

Nigel Farage vs Nick Clegg - was the real winner Vladimir Putin?
http://www.independent.co.uk/news/uk/politics/nigel-farage-vs-nick-clegg--was-the-real-winner-vladimir-putin-9218302.html

http://www.telegraph.co.uk/news/politics/nick-clegg/10725601/Nick-Clegg-and-Nigel-Farage-clash-over-EU-in-live-LBC-Radio-debate.html


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