昨日9月14日に、ベラルーシのルカシェンコ大統領がロシアのソチを訪問しプーチン大統領と会談した。
細かい内容はまだ出てこないけど、ロシアがベラルーシに$1.5B、約1500億円の融資をするという提案をしたことが、喫緊の課題対応としては目立つ。
Russia’s new loan cannot be interpreted as interference in affairs of Belarus — Kremlin
https://tass.com/politics/1200735
TASSなどは見出しにしているし、そもそもベラルーシは金詰まりでIMFにお願いするしかないといったところだったので確かにそれはそうなのでしょう。
ちょっとウクライナのことを思い出してしまう。ウクライナも財政破綻が近いと言われる中にあって、ロシアが15B、つまり1兆5000億融資すると提案し、当時のヤヌコビッチ大統領はそっちを取った。EUに入るより、ロシアと関係を改善した方が自分んちの経済にとって良いことは、誰の目にも明らかだった。
しかしそこから、デモがヒートアップした。
ということは、またEU・USAの西側ユニットが騒ぎ出したりするのだろうか?
ただ、今回は、ウクライナの例のライトセクター、スヴァボダのような見るからに困った人たちは登場していない、または、登場させようとする前にベラルーシが警備を強化し、足らないなら俺らもいるぜとばかりにロシアが法執行官部隊を作って配置したりしたため、潜り込めなかったのかもしれないと考えることもできる。
十分な時間があったので、ロシアの各組織がベラルーシ側と協力する体制ができていたと言っていい感じがする。
そして、こういう写真が出回り、むしろ、騒乱の主はあいつらであるというマークがロシア語圏内でぎっちり出来上がった、とも言える。
これは日経にあったんだけど、この旗が問題なわけですよ。
ベラルーシの旗は、冒頭のプーチンとの写真でも見える通り、緑が入っているやつ。
反抗勢力がかついでいるのは、これとは異なる。それだけでも、「レジームチェンジ」を指向しているのは明らか。
で、現在レジームチェンジ派がかついでいるのは、見ればわかる通りポーランドの旗にとても似てる。一般に、赤・白の色使いはポーランド&リトアニアが昔使っていた色と考えられているらしい。
したがって、この旗をかつぐ奴をみて、ロシアの兄弟としてのベラルーシの心配をしている人だわ、と思う人は多分ロシア語圏にはいないんだと思われる。
日経などが、10万の人間が5週間もルカシェンコに反対してると気合を入れて報道してるけど、ミンスクは200万人ぐらいの都市なので、結果的に運動は全然広がりをもたなかったと結論するのが合理的でしょう。
この先は、いろいろあっても、ロシアとベラルーシの2国間で話し合いつつ秩序を作っていくオッズは地道に高まってると思う。馬鹿がはねあがってすら。
■ ナワリヌイ問題は必要だったわけ?
で、ベラルーシ問題は、現状、むしろドイツ問題になってる感じがする。
ナワリヌイ事件はベラルーシ問題の中で起こり、ロシアの悪者化に寄与した。
ドイツはこれをベラルーシに対するロシアの影響力を弱めるための道具にしたのだろう、と見ることができるわけだけど、だがしかし、
ナワリヌイは「ノビチェク」に毒されたのだ、まで行く必要ってあったのだろうかと私などは呆気に取られてしまう。それは行きどまりだよ!みたいな。
だがしかし、本人たちは真面目に、ロシアが悪いのだの大騒ぎをしていて、ドイツ国内の報道路線はもちろんこれ一筋であるらしい。
しかも、さらに、「ノビチョク」の証拠をOPCW(化学兵器禁止機関)に出すとか言ってる。
OPCWは、シリアの化学兵器問題、ノビチョク問題と奇妙な動きをした。イギリス勢かアメリカ勢か、なにせ外部機関の影響によって科学的審理を妨害されたと中の人が訴えでたことが記憶に新しい機関。つまり、現状は、到底公正な機関とは言い難い。
去年あたり書いた記事はこのへん。
化学兵器禁止機関OPCWねつ造事件、国連に行く
ということは、イギリスが仕掛けたノビチェク話と同じ道筋を通る可能性が見えてきた。それは行きどまりだ!なわけだが、ドイツは進む。
その結果としてアメリカ、イギリス、EUがロシア悪しの大合唱により一層の制裁措置を取る、ノードストリーム2は中止になる、というルートが見える。
別に何も具体的な利害がかかってなかったイギリスは空騒ぎで最終的にロシアの悪魔化が進めばそれでいいわけだが、ドイツは、ノードストリームというブツがかかってる。
これが中止になった場合、ロシアにとっては輸出の大口案件を失う痛手はあるが、中国も買ってくれてることだし、そもそも輸出で食ってるわけではないのでどこまで行っても取返しが付かないという話ではない。
ドイツにとっては、これはその分のエネルギーどうするのか問題があり、かつ、今後ロシアとの間に深い溝ができることは必定なので、これは痛手を超えてるのでは? 普通合理的ならやらなくていいことをしてるのがドイツ。
だがしかし、属国ってそんなもんじゃないの?と考えると、まぁそうかもなと我が事を振り返りつつそう思ったりもする。
■ ラブロフ声明
昨日、ルカシェンコがロシアを訪問したその日に出たラブロフ外相の昨日の発言は、この件でのロシアの立場の表明と思っていいだろうと思う。これが結構ずど~んといった感じ。
https://twitter.com/mfa_russia/status/1305519028480376835
ざっと訳すとこんな感じ。
不幸なことだが、EUは米国に合せようという一時の願望のために、自身の地経学および戦略的利害を犠牲にした。(略)
私たちは現在、EUとの完全な提携を復活させることに関連した私たちの将来の計画全般にセーフティネットが必要であると理解する。
つまり、私たちはEUがそのネガティブで破壊的な立場に固執するのであれば、私たちはその気まぐれに依存しないこととなり、かつ、私たちとの間で相互尊重の方法で協力する用意のあるところと共に働きつつ私たち自身での発展のために備えることのできる方法で進める必要があるということだ。
簡単にいえば、
EUは、米に引きずられて自分の利害も考えられない人たちだ
そんな人たちと共同の枠組みを全面的になどというのは危険だ
だからこれからは私たち独自の発展を主体に考える、相互尊重できる人たちと一緒に
といったところでしょうか。
これは何を意味しているのかというと、関係の見直しはあり得ます宣言ではなかろうか。
EUとロシアというのは、ソ連崩壊後、リスボンからウラジオストクまで交易空間を作ろうじゃないか、みたいなことを言っていたりした。
もちろん、西側優位で進められたわけで、ロシアを単なる資源の供給源として民主主義になれない劣等生として言うことを聞かせ、大きな欧州を目論んでいたというのが正解でしょう。
ドイツとロシアの新しいパイプラインもそこから出てきたという側面はあるにはある。
というか、これはドイツが中欧のエネルギーハブになるという構想なので、そんなに平和的でないと読むことは最初っからできた。だけど、そうすることによって紛争を予防する措置にすることもできた。つまり、ドイツが大人になるか、ナチままなのかということ。
だがしかし・・・というところ。今後どうなるのか、ロシアというよりEUの反応を楽しみにしよう。
■ オマケ:余波を考える
ドイツは成り行き次第では原発に戻るとかあるのじゃなかろうか、などと書いておきたい。現状ではそんな話はどこからも出て来てないけど。
そもそもURENCOという原発の燃料会社の一部はドイツ国内にある。このURENCOがアメリカの原発の燃料の何割かを作ってる。
そして、前にも書いたけど、一時はロシアのロスアトム傘下企業が、URENCOと同じぐらいアメリカの原発の燃料を供給してた。しかしこれじゃマズイとなって、アメが自国産を増やし、URENCOも対米輸出を増やし、ロシアへの大きな依存を減らした。
つまり、この件では欧州がアメリカを支えているという構図がある。
ドイツは古い原発を終わりにして、新規を作るという選択肢もありなのではなかろうか?
だからといって、それですべてが上手くいくというわけでもないんだけど。
あと、ロシアがここまで入ってたEU内の組織とかプロジェクト等々から出る、という動きも出てくるかも。