先週からのロシア勢によるアメリカのシリア反体制派支持プランおよびIS掃討作戦はまったく失敗している、という広報活動およびそれに続く実行を、アメリカ国民が、どことなく、まぁしょーがねーっしょ、みたいな感じで見ている現状を作るにあたって、このニュースがそういえば大きかったなと思ったので一応メモがてら貼っておく。
これこれ。
米軍が訓練したシリア反体制派、対IS戦闘参加はわずか4~5人
2015年09月17日 13:31
発信地:ワシントンD.C./米国
http://www.afpbb.com/articles/-/3060598
【9月17日 AFP】米軍がイスラム過激派組織「イスラム国(Islamic State、IS)の掃討作戦の一環として訓練したシリア反政府派の戦闘員のうち、現在シリアで戦闘に参加しているのはわずか「4、5人」にすぎないと、米中央軍(US Central Command)のロイド・オースティン(Lloyd Austin)司令官が16日、明らかにした。
対IS掃討作戦を指揮するオースティン司令官は、米上院軍事委員会(Senate Armed Services Committee)の公聴会で証言し、最初に特別訓練プログラムを終えた54人について、大半が7月にシリアで国際テロ組織「アルカイダ(Al-Qaeda)」の傘下組織の攻撃を受けたと説明。「戦闘に参加しているのは…4、5人だ」と述べた。
バラク・オバマ(Barack Obama)大統領政権は、シリア反政府派の育成計画に5億ドル(約600億円)を計上。3年間の育成プログラムで毎年約5400人のシリア反体制派メンバーを訓練し、ISの対抗戦力とする予定だった。
これはAFPの記事。日本で詳しい記事は流れたのだったか?わからない。
NYTに載っていたこの話の詳しい記事はここ。9月16日付け。
Few U.S.-Trained Syrians Still Fight ISIS, Senators Are Told
http://www.nytimes.com/2015/09/17/world/middleeast/isis-isil-syrians-senate-armed-services-committee.html
つまり、オバマ政権としては、空爆はするけど地上軍は現地で調達する、という方針だった。しかし、手持ちの駒がない。だもんで、600億円つぎ込んで毎年5000人ぐらい育成しよう、とかいう呑気なことを言っていた。
しかし、現実には、このプログラムで実際に戦っているのは4、5人・・・なんですと現地のアメリカの責任者がアメリカの議会で証言したわけ。
これはもう、スケール的に冗談のような話。
しかしこの話はよく考えるともっとおかしい。
もしシリアのアサドがそんなに悪い奴なら、なんで誰も現地人がアメリカ様の旗の下に集まらないんだ? なわけですね。その上、金をやるぞといっても集まらない。(というか、武器もらったらそのままどっか行っちゃうか、行っちゃうのを放任するプログラムだ、ともいえるかもしれないけど)
というところで、現実問題としてアメリカを主体とした有志連合はまったく機能できない状況がそこにある、ってのが今般の状況を知る上で結構重要だと思う。
それに対して、プーチンが、シリアにある唯一合法的な軍とはシリア軍であり、シリア軍は自国領内に入り込んだテロリストと戦っていたのだし、今もいる、と、今更ではあるんだけど再度、再再度強調しているし、その上、地上軍はシリア正規軍、イラン、イラク、ヒズボラがいる。集めるまでもない。
ロシアは発言するから目立つけど、実際には非常にコンパクトな空軍の攻撃をしただけで、戦車だの歩兵だのを自前で投入してるわけではない。
ところで、でもって、この間の 60 minutesで放映されたチャーリー・ローズとのインタビューでもプーチンは600億で4、5人の失敗プログラムの話を縷々述べたらしいんだがCBSの放映ではその部分はカットされていたんだそうだ。
RT(ロシアの放送)がインタビューを流したところから、その違いに気付いた人たちが騒いでる、ということのようだ。
What CBS edited out of Putin's interview: "US is preparing opposition forces to fight Assad, who then flee to ISIS with American weapons" (UPDATED)
http://fortruss.blogspot.jp/2015/09/what-cbs-edited-out-of-putins-interview_27.html
親ロシアの草の根軍団の力が恐ろしい。
■ ここからわかること
ここからわかることは、オバマ政権およびその広報部となっている主要紙は、このような絶望的な状況にあっても、まだ従来の政策である、アサドを倒せ~を繰り返している。
自国の議会で行われた現地にいる自国軍の最高指導者の言でさえどうやら耳をかさない。
今回のロシアの空爆に際しても、これで戦いが複雑になった、う~む、みたいなことを米側の政権お傍近くの軍官僚は言っているようだが、じゃあ、あんたらの作戦何?と言われると、ほぼ絶望的なものしかない。
ついでに、昨日、国防総省のロシア、ウクライナ担当官が辞任したそうだ。
Pentagon’s top official on Russia, Ukraine resigning
http://www.foxnews.com/politics/2015/09/29/pentagons-top-official-on-russia-ukraine-resigning/
一方で、アフガニスタンからの足抜けもできてない。
タリバンがアフガン北部主要都市を制圧、政府軍は特殊部隊で反撃へ
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/09/post-3948.php
どうするんでしょうね、この政権。
何か捨て鉢なことがあちこちで起こるんでしょう、多分。しかし、それで回復できる地点にはもうないと思うわけで、これをどうしのぐのこの政権・・・。
■ 永久戦争論の失敗
なんてか、永久戦争論の失敗って感じがするんです。テロとの戦いって永久戦争論なんですよ、よく考えれば。常に敵を求めてどこにでも入っていって終わりがない。
これって裏を返せばハルマゲドン妄想なんだよね。戦いの果てに何か別の地平がある、みたいな妄想に引きずられるからこそ戦える。しかし、そんなのないんだよ。朝はいずれにしても朝なの。いずれにしてもセルビアは救われるべきなの。これは違うけど。
で、非常に怖いのは、ブッシュ政権以降のアメリカの政権は結局このハルマゲドン妄想を振り切れずにここまで永久戦争論的闘争というか、暴力というか、無茶というか無法というかを中東、黒海でやってきちゃったわけだけど、これを一体どうやってたたむつもりなんでしょう?
イギリスが有志連合の空爆チームから外れて、プーチンいいぞ、みたいな記事を出させているのは、つまり、昨日コクランが言っていた通り、まともなプランを持って実行できるのはロシアしかいねー、ということから、ここに一回収めてもらうしか道はないという考えじゃなかろうか。
イギリスはさっさとイランに大使館を開いて、イランとの関係を落とさないようにしていることからも、イラン、ロシアが主導して多少マシな中東になるプランの方にかけている、ってところじゃないのかな、と思う。
これってまんま、第二次世界大戦中にソ連とイギリスがイランをナチに取らせないという共通利害を見出した、ってのと同じのような気がする。で、米軍がイランに入って、ナチ除けに従事してた。
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