イギリス軍、というかブリテン陸軍と書くべきだろうが、なんせBritish Armyは今スキャンダルの連続で困っている。
一つは女性兵士を襲った性犯罪、もう一つは、アフガニスタンに駐留している英陸軍の空挺部隊が射撃の的に野党党首コービンのポスターを使っていたというもの。当然のことながら驚きと衝撃を持って迎えられた。
コービン党首の写真を的に射撃訓練か、英兵の動画が拡散
https://www.cnn.co.jp/world/35135214.html
ここまで書くなら動画も付けてくれたらいいのに。英メディアではついてる。だいたい30秒ぐらいの短いもの。例えばこれはガーディアンの記事。中にあります。
https://www.theguardian.com/uk-news/2019/apr/03/video-british-troops-firing-jeremy-corbyn-poster
上の写真の左の人たちがガンガン撃ってる、その先には左のポスターがかかってる。
で、まぁ練習なんだからといってしまえばそれまでだけど、これって議会制民主主義的にはダメすぎでしょう。ヒトラー時代に国会に親衛隊が入り込んで議事の進行を見てるとか、大日本帝国時代にも非番の軍人が傍聴したりして圧力をかけていたことが知られているけど、そこを3歩ぐらい踏み越えて、既にもう暗殺予定ですかいといったところ。
陸軍は既にこの動画の内容が本物だというところまでは認めていて、調査をすることを約束している。
というところで、サーの称号を持つ陸軍大将Carleton-Smithさんが、本日ビデオで訓戒を発表。
A Statement to the British Army | British Army
英国兵士は、ストイシズム、名誉と義務の感覚、勇気、ユーモアのセンスと誠実さで知られている、こういう評判は一生懸命やって獲得されたものなんだからそれを崩してくれるな、という趣旨で訓戒をたれている。イギリス人らしい言い方ですね。
イギリス系は、自己を規律できる個人を想定しているというか、目標としているというかがすべての場面で前提とされている。self-diciplinedってやつですね。behave yourself（あなたとして振る舞え）という言い方が、行儀よくしろと言うべき局面で使われるのも同様の前提の故。小さい子どもの頃からgentlemanと呼びかけたりするのも、あなたはジェントルマンなんだからそんなことをしないでしょ、という仕組み。
それはそれとして良いところもいっぱいある育て方だと私は思っているが、しかしあなた、アフガニスタンで麻薬畑の番をさせられたり、なんでだか知らないがリビアを襲って国ごとぶち壊したり、シリア人の住まいをずたずたにするためにテロリストの支援をさせられたりしている兵士に自己規律をといっても、もう、どうしようもなくないですか？といったところ。
つまり、軍を不正目的で使用している中で、軍の内部に規律を求めているという設定は果たしてどこまで有効なのか、というお話。
実際問題、上が悪い。まったく悪いって話ですからね、これ。
いくら王室のメンバーを軍人にしたてて、私たちって立派よと言ったところで、目的が不正であれば、兵士の士気は保てないでしょう。
ということなので、英国内でも、この訓戒で、そうだわ、がんばりましょ、みたいな前向きの反応で収まるって感じはない模様。むしろ、大将のビデオが作り物みたいで冷笑されてる感じが強い。
そして、さらに悪い状況なのは、日本のネトウヨと似た人々がイギリスにもいて、空挺の行動が何が悪い、こんなのコービンの側が政争で仕掛けたに違いない云々で吹きあがってる。
可能性までは否定しないけど、その前に、正規軍が野党党首を撃つという設定自体は批判されないとならないでしょ、まず。しかしそれが全体としてできなくなってる。
その意味では前に出てきて茶化されることも覚悟で訓示を行う大将は適切で古典的な行動をしているとは言える。が、おそらく、ネトウヨには大きなインパクトをもたらさない。
