山と海、2つも選択肢が用意されていると思ったのに、取らぬ狸の皮算用。結局、Jimmy宅で無為に今週末を過ごす羽目になった。ビーチに家を持っているカップルは予定を変更して金曜夜にこの街に戻ってきたのでキャンセルに。山に家を買ったという知人からは連絡がなく、しかも今週末は寒波が押し寄せて雪。道が凍結して戻れなくなることを心配したJimmyが、今週末はじっとしてようという決断を下した。
<金曜夜>
寒波に襲われたこの日、Jimmyがここ10年以上通っているというAAミーティングに参加した。駅を乗り換えるのが面倒だったので、僕はJimmy宅へのお泊りセットの入ったバッグを担いで、極寒の風が吹き付ける中を一駅分歩いた。AAミーティングが開かれる教会につくと、Jimmyが入り口の階段で僕を出迎えてくれた。Jimmyにhugしながら、彼の頬に僕の頬をつけて挨拶。まるでイヌイットが鼻をこすり付けて挨拶するさながらの雰囲気。Jimmyの頬の暖かさが、僕の冷たくなった頬を通して伝わってくる。
AAミーティングは教会の半地下で開かれていた。既に多くの人が集まっていて、コーヒーにパンケーキを食べている。壁際には、古着が女性用、男性用、靴、シャツ類、ズボン類というように分類されている。そしてスピーチする人用に壇が設けられていて、その場しのぎで用意されたような様々な椅子やソファーが4列に並べられていた。
僕はJimmyに連れられて部屋の奥まで行った。するとそこには、この晩、Jimmyが一緒に夕食を食べたというGaryがいた。テレビ局に勤めているというだけあって、丹精な顔立ち。年齢は30代後半くらい?さらさらの髪におしゃれなシャツ。門歯の間に隙間があるのが玉に傷だけど、かなり男前。
「初めまして」
と挨拶を交わす僕ら。だけどそれ以上、会話が続かない。
ざっと部屋を見回したところ、Garyみたいにハンサムな人はほとんど皆無で、90%が50代~60代またはそれ以上の年齢層。彼らの目線が新参者の(しかもアジア人の)僕にグサグサと刺さってくるのが分かる。中には、"Hi"と声をかけてくれる人もいたけど60代じゃ、ね・・・。もっとJimmyみたいなタイプがいるのかと期待した僕が間違いでした。
スピーチは、二人の50代風の人たちが行った。二人ともアルコール依存症から立ち直ろうと禁酒してから10年以上経つという。だけど、その禁酒のきっかけになった話に入ると、笑いに混じって深刻な話も飛び出してきた。例えば、一人の人は、大学卒業まじかにアルコールのせいで手首を切って自殺未遂をしたという話をした。もう一方の人は、当時、好きだった人に酔ったまま電話をかけた際、相手から「酔いが醒めてから電話して」と言われたのがきっかけだったらしい。
そして二人の話に共通していたのは、とにかく自分に正直になるということ。自分の弱さを認めること。ウソをつかないこと。強がらないこと。
ゲイは、性に目覚める年齢のころから、自分が同性を好きということを隠すということに慣れて成長する。「彼」を「彼女」に置き換えて話をするのが常習的になってくる。この晩、スピーチをした一人は、自分があまりにウソをつくことに慣れて生きてきたということを淡々と語った。職場であることを知っているかと聞かれ、知らないと応えると自分が無知に思われるのではないかと恐れて、「知っている」と応えてしまったり、他愛もないことでウソをついてしまうという、そういう側面が自分にはあるということを赤裸々に語った。
そして二人とも、AAミーティングを通して自分と正直に向き合うことで、自分がアルコール依存症で、それにより人生のコントロールがきかなくなっているというのをようやく受け止め、克服することができたという。
これを聞いて、僕はアルコール依存症じゃないけど、自分に正直になる、素直になる、見栄を張らない、っていうことが幸せな人生を送るためには大切なんだなぁって改めて思いました。
最後に、全員で手をつないで輪になって、AAミーティングで決められている12か条(?)か何かをみんなで唱えて解散でした。
Jimmyをはさんで僕とは反対側に座っていたGaryは、手際よくおしゃれなマフラーをクビに巻いて身支度を調えている。僕は、"Nice meeting you"と言ってGaryと握手をした。Garyも満面の笑みで、「じゃ、僕はこれで帰るから」と僕らに言った。そのはち切れんばかりの笑顔が、どことなくギコチナイGary。僕の勘では、GaryはJimmyに気があると読んだ。後で聞いたところ、GaryはJimmyと同じマンションに住んでいて、これまでマンションですれ違うだけの関係だったとか。それが、GaryもこのAAミーティングに2ヶ月くらい前から参加するようになったのだとか。怪しいぃ~。
結局この晩、僕らは何もせず、教会から一直線でJimmy宅に戻ってきて静かな夜を過ごした。
翌土曜日も、特に何もしなかった。こんなに何もせずにJimmyと二人で過ごした週末は初めて。
僕はてっきりビーチか山へ行くものだと思っていたから、本も何も持ってきてなかったので暇なことこの上なし。Jimmyもとうとう暇をもてあましたようで、テレビに僕の子守をさせて、自分は寝室でPC相手にトランプゲームを始める始末。僕がトイレに行くので寝室を横切ったら、あわててゲームの画面を消して、まじめなエクセルシートを開いていた。Jimmyも罪悪感感じてるのが分かって、こっちも気まずい雰囲気。そんな沈んだ雰囲気のまま、土曜日は過ぎていった。
* * *
そして日曜朝。ビーチに家を持っているというカップルのGreggとJonとブランチを取ることになった。ゲイエリアの一角にあるレストランで待ち合わせ。僕らが到着したとき、既に二人はテーブルについていた。Jonは40代前半、Greggは30代後半という感じ。Jonは父親から引き継いだビジネスがあるらしく、働かなくても収入がある身。GreggはAetnaという保険会社に勤めている。JonがハズバンドでGreggがワイフっていう役割分担の模様。
Jimmyも物静かで、あんまり会話らしい会話も弾まなかったのだけど、ちょうどJonとGreggはオーストリアやハンガリー旅行から帰ってきたらしく、その話を聞かされた。Jimmyによると、この二人、よく外国旅行に行ってはサウナ通いをしているらしい。セックス好きで、Jimmyも彼らとの3Pに何度も誘われているとか。この日も、やっぱりその話になった。
「Jimmy、今度、僕たちがセックスしているところビデオに撮ってよ」とJon。
「3脚があれば事足りるんじゃない?」とうまく交わすJimmy。
「だけど、要所要所でズームアップして欲しいじゃん」としつこく食い下がるJon。
「そういえば、Jimmyのビデオテープってあったよね。あの巨根の持ち主、名前なんて言ったっけ?Ty、そいつはね、とってもデカイの、あそこが。しかも、3000人くらいとやってんの。で、Jimmyもね、そいつとセックスして、掘られちゃってんのよ。しかもそのビデオテープがあんの。あ~、見てみたい。Jimmyがヤラレテルところなんてイケルわ」とGregg。
「実は、昔付き合ってたブルーノがそのテープを見つけて大変だったんだ」とJimmy。隠すどころか、その後の裏話まで披露してる・・・。
「まだそのテープあんの?」とGregg。
「・・・いや、もうない」とJimmy。
僕のハンバーガーを食べる手がいつの間にか止まっていた。Jimmyの正面に座っていた僕は、Jimmyの目を見つめる。少し当惑したように僕を見つめ返すJimmy――。
その後会計を済ませて僕らはJonとGreggと分かれた。まだ昼の1時を少し過ぎた時間。だけど、いつも通り、日曜午後はそれぞれ自由な時間を過ごすことになっている。レストランまで乗ってきたJimmyの車のトランクには、既に僕のお泊りセット・バッグが積まれている。僕が想像したとおり、そのまま、Jimmyは僕を自宅まで送ってくれた。その道すがら、僕はJimmyに切り出した。
「あの二人、Jimmyのことよく知ってるみたいだね」
「まあね。もともと、Jonはあの水球チームに来ていて知り合ったんだ。Jonも2年くらい水球に通ってたんだよ。だけど、激しいスポーツだし、Jonには合わなかったみたい」
「へぇ~。それでも2年も続いたなんてすごいね」
僕のアパートについて、「じゃまた火曜日に」と言って僕らは別れた。
* * *
僕はこの週末がいかに退屈だったかということ、そしてこの日のブランチで僕が何を聞かされたか、Jamesに話をした。そして、もうJimmyとの関係も長くないかも、っていう不安を正直に話した。Jimmyのことはすごく好きだけど、よく考えてみるとあんまり共通点がない。食べ物の好みも正反対だし、Jimmyとの会話ってどこか他人行儀だし、Jimmyのジョークもよく分からん。なので笑えない。
そしてJimmyとのセックスも、それほどいいってもんでもない。その人のことが好きだったら、どんなセックスも良いって信じてたたけど、そうじゃないんだっていうのが今回わかった。それに、多くのゲイが、セックス・フレンドは欲しいけど、恋人は欲しくないっていうのも身にしみて分かった。恋人って簡単にできるもんじゃなくて、たとえ相思相愛でも、根本部分で相手と合わないっていうこともある。それに、好きな相手と一緒にいることが逆にストレスになることもある。相手がどれくらい自分のことを好きなんだろうっていうのでも不安になるし、相手の過去を突然知らされて嫉妬と不安に襲われることもある。今日、まさに僕はそれを体験した。Jimmyの過去を収めたビデオテープの存在・・・。
Jimmyと知り合ってちょうど1ヶ月。だんだんJimmyのことが分かってきて、だんだん先が見えてきた。
* * *
こんな話をしていたら、Jimmyから携帯に電話がかかってきた。
「何してた?」
だけど、Jimmyは僕と無駄話をするためだけに電話をかけてくることはないと知っている僕。何か目的があるのだろうと聞いていると、
「今晩、映画でも観にいかない?」とのお誘い。
あれ?また火曜日にって今日の昼過ぎ別れたはずなのに。でもまいっか。どうせ僕も暇だし。僕たちは、"Walk the Line"という映画を観ることにした。Joaquin Phoenixが主演の映画で、実在したカントリー・ミュージシャン、Jonny Cashの話。
号泣。
あんなに最後に涙が出た映画は『マディソン郡の橋』以来。僕はストーリーを知らずに観にいっていたことや、今日あった出来事を引きずっていたこともあって、映画自体には期待していませんでした。だけど、一旦、映画が始まると引き込まれてしまった。最後に、氷のように閉ざされた女性、ジューンの心を氷解させるシーン、そして約束を果たして改心したJonny Cashの人生が字幕で書き出され、結ばれたジューンとJonny Cashのデュエット曲が流れ始めたときには、僕はぬぐってもぬぐいきれないくらい、涙があふれ出て止まりませんでした。
僕が号泣しているのを見て、Jimmyは、
"It's OK. It's a love story"っていうふうに、「泣いてもいいよ」っていう感じの慰め(?)を言って僕の肩をさすってくれた。
そして「あの二人はソール・メートを見つけたんだね」って言ったJimmyの言葉に、「僕らもあんな風になれればいいね」っていうJimmyの想いを読み取ったと思ったのは、単なる僕の思い込みだったのだろうか。
映画館を出ても、真っ赤に目を(多分)腫らした僕を、物珍しそうに見る人たちがいたけど、僕がこの映画を観たと知ったら納得してくれると思う・・・。といいつつ、僕の周りで見ていた若い女性たちは涙も見せずにさっさと映画館を去っていましたが・・・。でも、Jimmyも今年見た映画の中で最高だったって言ってたもん。Joaquin Phoenixは間違いなくアカデミー賞主演男優賞だっていうことも。彼、取りますよ、きっと。
* * *
良い映画を観終わって、一泣きして、僕もすこしスッキリ。だけどJimmyの車に乗って走り始めると、やっぱり今日起きた出来事が心に引っかかっているのが分かる。切り出したいけど、せっかくの映画の余韻が台無しになる・・・。このままJimmyが僕のアパートまで送ってくれるんだろうなと思っていたら、「デザートでも食べる?」というJimmyの提案。まだ夜10時くらい。
二人で僕の近所の喫茶店に入った。そこは、去年、Brianとのデートでアップル・サイダーを飲んだお店。実は、去年のこの時期、Markともここでアップル・サイダーを飲んでいる・・・。3度目の正直と出るか、これまでのジンクスを踏襲すると出るか・・・。
AAミーティングで教わったように、自分の気持ちを偽るのはよくない。我慢していても、結局それは長続きしない。なので、僕は思い切って僕の疑問をJimmyにぶつけることにした。
「Jimmy、僕たちが出会ってからちょうど1ヶ月が経つね。これまでのところどう思う?」
「どう思うって?今までのところとっても順調なんじゃない?」
「僕って、Jimmyの期待に応えてる?」
「AAミーティングでもよく言うことだけど、『期待』するとうまく行かないんだよ、何事も」
「だけど、Jimmyにもwantsとneedsがあるでしょう?」
「そりゃ、あるね」
「そのwantsとneedsを、僕は満たしてる?」
「うん。君はsmartだし他者への思いやりもあるし、多様性に対して寛容だし」
「僕が意味してるのはそいういうことじゃないんだけど・・・」
「じゃ、どういうこと?」
「今日のブランチで聞いた話のこと。Jimmyって、たまにfuckされたい?」
「あ、あの話」といいつつ、Jimmyの目が左右に泳いでいるのが分かる。
「そう、あのビデオテープの話」
「あれは過去の話だよ。あれもやったこれもやったっていうやつ(I have done this, done that--英語のお決まり表現。特に、ゲイの間では、「性的に何でも過去にやっちゃいました」という意味)」
「もし、Jimmyがそうして欲しいと思ってるんだったら・・・」
「僕はこれまで、相手にお願いされたときに「許可して」そうさせたことはあるけど、自分からそういうムードになったことはないよ」
なんか言い訳がましい気もしたけど、一応、Jimmyがそういうんだったら・・・。と僕はこれ以上聞き返すことはしなかった。だけど、ビデオテープに撮ったというのは、また違う話だと思うんだけど、あっちの話を追求するのに精一杯で、ビデオテープに撮ろうといったのがどっちのアイディアだったかというのは聞きそびれてしまった。
その代わり、僕はそれがいつの出来事だったのかを聞いた。
「あれは確か、、、1992年とか1993年」
「えー、そんなに10年以上も昔のことなの?なのにGreggとJonはそんな昔のことを切り出してたわけ?」
「そうだよ」
「Jimmy、僕もAAミーティングで正直になるのが一番だって学んだから言うんだけど、あのGreggとJonって僕は好きになれない。僕がJimmyの友達だったら、絶対にそんな過去の話を恋人を前にして話すことはしない。GreggとJonは、僕に対する尊敬っていうものがなかった。ゴメンね、Jimmyの友達なのは分かっているけど、それが僕が今日、感じたことだから」
Jimmyは何も言わなかったけど僕が言わんとすることは納得してくれたみたい。静かにうなずいてくれた。
あのBrianと一緒に飲んだアップル・サイダーを片手に、僕はJimmyととことん話し合った。Jimmyには、これまで5人の「ハズバンド」がいるということや、Jimmyの「ハズバンド」の定義は、1年以上付き合った人だということ。その5人のうちの一人は、JimmyのEメールを盗み見ていたというのが原因で別れることになったということや、別の一人は、Jimmyを親のように見ていて、Jimmyに人生を決めて欲しいと思っていたっていうくらい自立心がなかったので別れたとか。そして5人とも、Jimmyと同じくらいの年齢だということ。そして何を隠そう、Jimmyは今月、44歳になる。(そんなに老けてるように見えないの、それが。やっぱりハンサムは得だよねぇ)
僕みたいに10何歳も年下っていうのとは付き合ったことある?って聞いてみた。すると、実は、僕と出会う1ヶ月前の10月、11ヶ月間付き合ったという25歳の人と別れたところだったとか。Jimmyってもっと一人身期間が長いのかと思いきや、自分より20歳近く若い25歳と11ヶ月も付き合ってたんだ。せっかく立ち直りかけていたのにこれにはまたもやショック。
自宅アパート前での別れ際、「もしまだ秘密があるんだったら、僕を驚かせないように話してね」ってお願いした。一瞬、Jimmyが沈黙。
「あー、今、ちょっと回想したでしょう?」と突っ込む僕。
「何が君にとって秘密になるか、僕には分かりようがないじゃないか」
「想像するとわかるでしょ。何が僕にとって気になるかって」
「・・・」(←無言のJimmy)
まだまだ前途多難だけど、とりあえず1回目の難所はどうにか乗り越えたみたい、僕たち。
<金曜夜>
寒波に襲われたこの日、Jimmyがここ10年以上通っているというAAミーティングに参加した。駅を乗り換えるのが面倒だったので、僕はJimmy宅へのお泊りセットの入ったバッグを担いで、極寒の風が吹き付ける中を一駅分歩いた。AAミーティングが開かれる教会につくと、Jimmyが入り口の階段で僕を出迎えてくれた。Jimmyにhugしながら、彼の頬に僕の頬をつけて挨拶。まるでイヌイットが鼻をこすり付けて挨拶するさながらの雰囲気。Jimmyの頬の暖かさが、僕の冷たくなった頬を通して伝わってくる。
AAミーティングは教会の半地下で開かれていた。既に多くの人が集まっていて、コーヒーにパンケーキを食べている。壁際には、古着が女性用、男性用、靴、シャツ類、ズボン類というように分類されている。そしてスピーチする人用に壇が設けられていて、その場しのぎで用意されたような様々な椅子やソファーが4列に並べられていた。
僕はJimmyに連れられて部屋の奥まで行った。するとそこには、この晩、Jimmyが一緒に夕食を食べたというGaryがいた。テレビ局に勤めているというだけあって、丹精な顔立ち。年齢は30代後半くらい?さらさらの髪におしゃれなシャツ。門歯の間に隙間があるのが玉に傷だけど、かなり男前。
「初めまして」
と挨拶を交わす僕ら。だけどそれ以上、会話が続かない。
ざっと部屋を見回したところ、Garyみたいにハンサムな人はほとんど皆無で、90%が50代~60代またはそれ以上の年齢層。彼らの目線が新参者の(しかもアジア人の)僕にグサグサと刺さってくるのが分かる。中には、"Hi"と声をかけてくれる人もいたけど60代じゃ、ね・・・。もっとJimmyみたいなタイプがいるのかと期待した僕が間違いでした。
スピーチは、二人の50代風の人たちが行った。二人ともアルコール依存症から立ち直ろうと禁酒してから10年以上経つという。だけど、その禁酒のきっかけになった話に入ると、笑いに混じって深刻な話も飛び出してきた。例えば、一人の人は、大学卒業まじかにアルコールのせいで手首を切って自殺未遂をしたという話をした。もう一方の人は、当時、好きだった人に酔ったまま電話をかけた際、相手から「酔いが醒めてから電話して」と言われたのがきっかけだったらしい。
そして二人の話に共通していたのは、とにかく自分に正直になるということ。自分の弱さを認めること。ウソをつかないこと。強がらないこと。
ゲイは、性に目覚める年齢のころから、自分が同性を好きということを隠すということに慣れて成長する。「彼」を「彼女」に置き換えて話をするのが常習的になってくる。この晩、スピーチをした一人は、自分があまりにウソをつくことに慣れて生きてきたということを淡々と語った。職場であることを知っているかと聞かれ、知らないと応えると自分が無知に思われるのではないかと恐れて、「知っている」と応えてしまったり、他愛もないことでウソをついてしまうという、そういう側面が自分にはあるということを赤裸々に語った。
そして二人とも、AAミーティングを通して自分と正直に向き合うことで、自分がアルコール依存症で、それにより人生のコントロールがきかなくなっているというのをようやく受け止め、克服することができたという。
これを聞いて、僕はアルコール依存症じゃないけど、自分に正直になる、素直になる、見栄を張らない、っていうことが幸せな人生を送るためには大切なんだなぁって改めて思いました。
最後に、全員で手をつないで輪になって、AAミーティングで決められている12か条(?)か何かをみんなで唱えて解散でした。
Jimmyをはさんで僕とは反対側に座っていたGaryは、手際よくおしゃれなマフラーをクビに巻いて身支度を調えている。僕は、"Nice meeting you"と言ってGaryと握手をした。Garyも満面の笑みで、「じゃ、僕はこれで帰るから」と僕らに言った。そのはち切れんばかりの笑顔が、どことなくギコチナイGary。僕の勘では、GaryはJimmyに気があると読んだ。後で聞いたところ、GaryはJimmyと同じマンションに住んでいて、これまでマンションですれ違うだけの関係だったとか。それが、GaryもこのAAミーティングに2ヶ月くらい前から参加するようになったのだとか。怪しいぃ~。
結局この晩、僕らは何もせず、教会から一直線でJimmy宅に戻ってきて静かな夜を過ごした。
翌土曜日も、特に何もしなかった。こんなに何もせずにJimmyと二人で過ごした週末は初めて。
僕はてっきりビーチか山へ行くものだと思っていたから、本も何も持ってきてなかったので暇なことこの上なし。Jimmyもとうとう暇をもてあましたようで、テレビに僕の子守をさせて、自分は寝室でPC相手にトランプゲームを始める始末。僕がトイレに行くので寝室を横切ったら、あわててゲームの画面を消して、まじめなエクセルシートを開いていた。Jimmyも罪悪感感じてるのが分かって、こっちも気まずい雰囲気。そんな沈んだ雰囲気のまま、土曜日は過ぎていった。
* * *
そして日曜朝。ビーチに家を持っているというカップルのGreggとJonとブランチを取ることになった。ゲイエリアの一角にあるレストランで待ち合わせ。僕らが到着したとき、既に二人はテーブルについていた。Jonは40代前半、Greggは30代後半という感じ。Jonは父親から引き継いだビジネスがあるらしく、働かなくても収入がある身。GreggはAetnaという保険会社に勤めている。JonがハズバンドでGreggがワイフっていう役割分担の模様。
Jimmyも物静かで、あんまり会話らしい会話も弾まなかったのだけど、ちょうどJonとGreggはオーストリアやハンガリー旅行から帰ってきたらしく、その話を聞かされた。Jimmyによると、この二人、よく外国旅行に行ってはサウナ通いをしているらしい。セックス好きで、Jimmyも彼らとの3Pに何度も誘われているとか。この日も、やっぱりその話になった。
「Jimmy、今度、僕たちがセックスしているところビデオに撮ってよ」とJon。
「3脚があれば事足りるんじゃない?」とうまく交わすJimmy。
「だけど、要所要所でズームアップして欲しいじゃん」としつこく食い下がるJon。
「そういえば、Jimmyのビデオテープってあったよね。あの巨根の持ち主、名前なんて言ったっけ?Ty、そいつはね、とってもデカイの、あそこが。しかも、3000人くらいとやってんの。で、Jimmyもね、そいつとセックスして、掘られちゃってんのよ。しかもそのビデオテープがあんの。あ~、見てみたい。Jimmyがヤラレテルところなんてイケルわ」とGregg。
「実は、昔付き合ってたブルーノがそのテープを見つけて大変だったんだ」とJimmy。隠すどころか、その後の裏話まで披露してる・・・。
「まだそのテープあんの?」とGregg。
「・・・いや、もうない」とJimmy。
僕のハンバーガーを食べる手がいつの間にか止まっていた。Jimmyの正面に座っていた僕は、Jimmyの目を見つめる。少し当惑したように僕を見つめ返すJimmy――。
その後会計を済ませて僕らはJonとGreggと分かれた。まだ昼の1時を少し過ぎた時間。だけど、いつも通り、日曜午後はそれぞれ自由な時間を過ごすことになっている。レストランまで乗ってきたJimmyの車のトランクには、既に僕のお泊りセット・バッグが積まれている。僕が想像したとおり、そのまま、Jimmyは僕を自宅まで送ってくれた。その道すがら、僕はJimmyに切り出した。
「あの二人、Jimmyのことよく知ってるみたいだね」
「まあね。もともと、Jonはあの水球チームに来ていて知り合ったんだ。Jonも2年くらい水球に通ってたんだよ。だけど、激しいスポーツだし、Jonには合わなかったみたい」
「へぇ~。それでも2年も続いたなんてすごいね」
僕のアパートについて、「じゃまた火曜日に」と言って僕らは別れた。
* * *
僕はこの週末がいかに退屈だったかということ、そしてこの日のブランチで僕が何を聞かされたか、Jamesに話をした。そして、もうJimmyとの関係も長くないかも、っていう不安を正直に話した。Jimmyのことはすごく好きだけど、よく考えてみるとあんまり共通点がない。食べ物の好みも正反対だし、Jimmyとの会話ってどこか他人行儀だし、Jimmyのジョークもよく分からん。なので笑えない。
そしてJimmyとのセックスも、それほどいいってもんでもない。その人のことが好きだったら、どんなセックスも良いって信じてたたけど、そうじゃないんだっていうのが今回わかった。それに、多くのゲイが、セックス・フレンドは欲しいけど、恋人は欲しくないっていうのも身にしみて分かった。恋人って簡単にできるもんじゃなくて、たとえ相思相愛でも、根本部分で相手と合わないっていうこともある。それに、好きな相手と一緒にいることが逆にストレスになることもある。相手がどれくらい自分のことを好きなんだろうっていうのでも不安になるし、相手の過去を突然知らされて嫉妬と不安に襲われることもある。今日、まさに僕はそれを体験した。Jimmyの過去を収めたビデオテープの存在・・・。
Jimmyと知り合ってちょうど1ヶ月。だんだんJimmyのことが分かってきて、だんだん先が見えてきた。
* * *
こんな話をしていたら、Jimmyから携帯に電話がかかってきた。
「何してた?」
だけど、Jimmyは僕と無駄話をするためだけに電話をかけてくることはないと知っている僕。何か目的があるのだろうと聞いていると、
「今晩、映画でも観にいかない?」とのお誘い。
あれ?また火曜日にって今日の昼過ぎ別れたはずなのに。でもまいっか。どうせ僕も暇だし。僕たちは、"Walk the Line"という映画を観ることにした。Joaquin Phoenixが主演の映画で、実在したカントリー・ミュージシャン、Jonny Cashの話。
号泣。
あんなに最後に涙が出た映画は『マディソン郡の橋』以来。僕はストーリーを知らずに観にいっていたことや、今日あった出来事を引きずっていたこともあって、映画自体には期待していませんでした。だけど、一旦、映画が始まると引き込まれてしまった。最後に、氷のように閉ざされた女性、ジューンの心を氷解させるシーン、そして約束を果たして改心したJonny Cashの人生が字幕で書き出され、結ばれたジューンとJonny Cashのデュエット曲が流れ始めたときには、僕はぬぐってもぬぐいきれないくらい、涙があふれ出て止まりませんでした。
僕が号泣しているのを見て、Jimmyは、
"It's OK. It's a love story"っていうふうに、「泣いてもいいよ」っていう感じの慰め(?)を言って僕の肩をさすってくれた。
そして「あの二人はソール・メートを見つけたんだね」って言ったJimmyの言葉に、「僕らもあんな風になれればいいね」っていうJimmyの想いを読み取ったと思ったのは、単なる僕の思い込みだったのだろうか。
映画館を出ても、真っ赤に目を(多分)腫らした僕を、物珍しそうに見る人たちがいたけど、僕がこの映画を観たと知ったら納得してくれると思う・・・。といいつつ、僕の周りで見ていた若い女性たちは涙も見せずにさっさと映画館を去っていましたが・・・。でも、Jimmyも今年見た映画の中で最高だったって言ってたもん。Joaquin Phoenixは間違いなくアカデミー賞主演男優賞だっていうことも。彼、取りますよ、きっと。
* * *
良い映画を観終わって、一泣きして、僕もすこしスッキリ。だけどJimmyの車に乗って走り始めると、やっぱり今日起きた出来事が心に引っかかっているのが分かる。切り出したいけど、せっかくの映画の余韻が台無しになる・・・。このままJimmyが僕のアパートまで送ってくれるんだろうなと思っていたら、「デザートでも食べる?」というJimmyの提案。まだ夜10時くらい。
二人で僕の近所の喫茶店に入った。そこは、去年、Brianとのデートでアップル・サイダーを飲んだお店。実は、去年のこの時期、Markともここでアップル・サイダーを飲んでいる・・・。3度目の正直と出るか、これまでのジンクスを踏襲すると出るか・・・。
AAミーティングで教わったように、自分の気持ちを偽るのはよくない。我慢していても、結局それは長続きしない。なので、僕は思い切って僕の疑問をJimmyにぶつけることにした。
「Jimmy、僕たちが出会ってからちょうど1ヶ月が経つね。これまでのところどう思う?」
「どう思うって?今までのところとっても順調なんじゃない?」
「僕って、Jimmyの期待に応えてる?」
「AAミーティングでもよく言うことだけど、『期待』するとうまく行かないんだよ、何事も」
「だけど、Jimmyにもwantsとneedsがあるでしょう?」
「そりゃ、あるね」
「そのwantsとneedsを、僕は満たしてる?」
「うん。君はsmartだし他者への思いやりもあるし、多様性に対して寛容だし」
「僕が意味してるのはそいういうことじゃないんだけど・・・」
「じゃ、どういうこと?」
「今日のブランチで聞いた話のこと。Jimmyって、たまにfuckされたい?」
「あ、あの話」といいつつ、Jimmyの目が左右に泳いでいるのが分かる。
「そう、あのビデオテープの話」
「あれは過去の話だよ。あれもやったこれもやったっていうやつ(I have done this, done that--英語のお決まり表現。特に、ゲイの間では、「性的に何でも過去にやっちゃいました」という意味)」
「もし、Jimmyがそうして欲しいと思ってるんだったら・・・」
「僕はこれまで、相手にお願いされたときに「許可して」そうさせたことはあるけど、自分からそういうムードになったことはないよ」
なんか言い訳がましい気もしたけど、一応、Jimmyがそういうんだったら・・・。と僕はこれ以上聞き返すことはしなかった。だけど、ビデオテープに撮ったというのは、また違う話だと思うんだけど、あっちの話を追求するのに精一杯で、ビデオテープに撮ろうといったのがどっちのアイディアだったかというのは聞きそびれてしまった。
その代わり、僕はそれがいつの出来事だったのかを聞いた。
「あれは確か、、、1992年とか1993年」
「えー、そんなに10年以上も昔のことなの?なのにGreggとJonはそんな昔のことを切り出してたわけ?」
「そうだよ」
「Jimmy、僕もAAミーティングで正直になるのが一番だって学んだから言うんだけど、あのGreggとJonって僕は好きになれない。僕がJimmyの友達だったら、絶対にそんな過去の話を恋人を前にして話すことはしない。GreggとJonは、僕に対する尊敬っていうものがなかった。ゴメンね、Jimmyの友達なのは分かっているけど、それが僕が今日、感じたことだから」
Jimmyは何も言わなかったけど僕が言わんとすることは納得してくれたみたい。静かにうなずいてくれた。
あのBrianと一緒に飲んだアップル・サイダーを片手に、僕はJimmyととことん話し合った。Jimmyには、これまで5人の「ハズバンド」がいるということや、Jimmyの「ハズバンド」の定義は、1年以上付き合った人だということ。その5人のうちの一人は、JimmyのEメールを盗み見ていたというのが原因で別れることになったということや、別の一人は、Jimmyを親のように見ていて、Jimmyに人生を決めて欲しいと思っていたっていうくらい自立心がなかったので別れたとか。そして5人とも、Jimmyと同じくらいの年齢だということ。そして何を隠そう、Jimmyは今月、44歳になる。(そんなに老けてるように見えないの、それが。やっぱりハンサムは得だよねぇ)
僕みたいに10何歳も年下っていうのとは付き合ったことある?って聞いてみた。すると、実は、僕と出会う1ヶ月前の10月、11ヶ月間付き合ったという25歳の人と別れたところだったとか。Jimmyってもっと一人身期間が長いのかと思いきや、自分より20歳近く若い25歳と11ヶ月も付き合ってたんだ。せっかく立ち直りかけていたのにこれにはまたもやショック。
自宅アパート前での別れ際、「もしまだ秘密があるんだったら、僕を驚かせないように話してね」ってお願いした。一瞬、Jimmyが沈黙。
「あー、今、ちょっと回想したでしょう?」と突っ込む僕。
「何が君にとって秘密になるか、僕には分かりようがないじゃないか」
「想像するとわかるでしょ。何が僕にとって気になるかって」
「・・・」(←無言のJimmy)
まだまだ前途多難だけど、とりあえず1回目の難所はどうにか乗り越えたみたい、僕たち。
あと、恋人の元彼のはなし、正直聞きたくないタイプじゃないかな?文章ではそう感じるけど。
特にセクシャルな意味ではね。相当気にしてるみたいだし。
不必要な事を今は無理に知る事は無いと思うし、そんなのはもっと先に自然と分かればいい事だとおもうな~
今は楽しい事を優先してるほうがいいかもね。
25歳の人と長く付合っていた事実にショックを受けたのは何故ですか?
セスは対応力のある人なんだな~と感心しちゃったんだけど。
Tyさんの文章は状況がかなり鮮明に目に浮かぶ描写で、読んでて面白いですね。
また遊びに来ますね。
今日からイギリスではパートナー法が施行されました。事実上の同姓婚法ですね。第一号はエルトン・ジョンということで結構話題になってます。いつかそんな日が自分にもくるのかな?なんて。。。
もっと分かり合いたいって思うけど、やっぱり言葉の壁が立ちはだかります。Tyさんには言葉の壁はないんですよね。それでも色々な難所があるのだから、僕には厳しいのかなと不安がよぎります。
それに、僕がこれまでデートした中には、「あれ、日本人なのにアメリカ人みたいな英語を話すんだね」って失望するアメリカ人もいました。恋人相手に異国情緒を求める人は、あまり流暢に自分の言葉を話す人を好まないようです。
相手の過去だけど、僕も気にしないようにします。YoYoさんが言うように、気にすると誰とも付き合えない。それに、僕にもJimmyが知らない過去があるし・・・。それはお互い様。相手のことが好きすぎて、相手の気持ちに対して不安になるのって、本末転倒だよね。好きなあまり関係を壊したくはない。前向きに、自分に自信を持ってJimmyとつきあうよう心がけます。そして、たとえJimmyに振られたとしても、それはJimmyの問題であって自分の問題じゃないって言えるくらい、心の準備と前向きな気持ちは持ち続けていたい。
それにしても、イギリスのパートナー法、いいねぇ。僕もマサチューセッツ州、バーモント州、コネチカット州で結婚できるけど、所詮州法。国際結婚には適用されない。やっぱ、カナダ人の恋人/結婚相手を探すべきか?(Jimmyと二人でカナダに移民するという手もあるけど・・・。)