ご無沙汰してました。口実になりますが、パソコンの不調がやっと解決しました。
「赤い実」の残りをあと二回ぐらいで終わらせようと思います。お付き合いくださいませ。
夕方、Pは私の翻訳した「りんご」を読んでいた。私は口がさみしくなり、インスタントラーメンをカリカリのまま細かくして、おやつにしようかと思っていると、父が急に、お前たち、ちょっとこっちに来い、というので、Pと私はいちど目配せしてベランダに出た。また何を頼もうというの? 皮肉っぽく言うと、Pに視線でたしなめられ、父は聞かなかったふりをして威厳のある声を作り言った。俺たち、結婚するつもりだ。Pをちらりと見ると笑いをこらえていたので、私も安心してキャッキャと笑った。Pが私の脇腹を強く突っつきながら、笑っちゃ駄目、と自分を棚にあげ真顔になった。お構いなしに思い存分笑ったあと、だけど、どうして急に? と訊くと、父は待っていたと言わんばかりに答えた。――子どもが生まれるからだ。
それを聞いて私が想像したものは、赤ちゃんのような形の根で、引き抜くと悲鳴を上げるというマンドラゴラとか、映画「カーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」に出てくる「ベビーグルート」のような姿だったので実感が湧かなかったが、そういえば、おかしいという点では、父さん自体もヘンテコだもんね、と気づき、くっくっと笑った。けれど、父の言うその「子ども」というのは、まったく違う姿をしていた。Pが繁った枝をそっとかき分けると、そこに現れたのは、小さくて丸い、角のような形に固く巻かれた、紛れもない蕾だった。Pの母が恥ずかしそうな声で、あさってごろ咲きそうだよ、とつぶやき、私とPは顔を見合わせた。ひとまずおめでとう、と渋々言っているPの表情がおかしくて、私はまたへたり込んで大笑いした。
Pと私は結婚式のあくる日、花き市場に行き、そこで一番大きくて、おしゃれな植木鉢を買ってきて、父と母を丁寧に抜き、新しい鉢に一緒に植え替えた。その後、私はかわいいワンピース、P はスーツでおめかしし、皆でテーブルを囲み、ケーキにろうそくを立て、シャンパンを飲んだのだが、父がこれは結婚式じゃなくて誕生日じゃないか、とふくれっ面をした。それでも私は楽しくて仕方なく、時折感傷的になっては、これが娘の気持ちというものなのね、とつぶやきながら涙を拭くふりをして皆を笑わせた。
その日ベッドに横たわったとき、もう二人は兄妹になったのね、と言うと、それじゃ、兄妹では絶対しないことをしてみよう、とPにやんわり誘われ、夜光ステッカーも恥ずかしくて落ちてしまうほどの ――実際は壁に激しくぶつかり揺らしたために落ちたのだが―― とにかくそんな夜を過ごした。あくる朝見ると、夜の間に蕾は鮮やかに花開き、ピンクの花芯にたっぷりついた黄色い花粉の、甘くて少し生臭い香りが家中に満ちていた。