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ハングル;教え、そして学ぶ

日々ハングル(韓国、朝鮮語)を教えながら感じること、韓国ドラマでみる名言。

「赤い実」最終回

2025-05-06 14:31:24 | 韓国文学 読書

 

花が終わると、そこには小さくて真っ赤な実がなった。あの日以来、父と母が会話する姿はほとんど見られなかったが、時々どちらかがクスクス笑っていたり、小刻みに葉を揺らしたりしているところを見ると、声に出して話さなくとも互いに心は通じ合っているようだった。すでに一本の木になっているので、当然といえば当然だが。

何事もなく秋は深まり、実は少しずつ大きくなり、はじめはボタン大だったのが、日に日に成長してキャンディーくらいになり、今は丸い餅くらいの大きさになって、皮もつやつやだ。じっと見ていると、たまにぷくぷくっと動くときもあって、指先でそっと撫でてみるととっても柔らかく、可愛くもあった。毎日覗き込み、もう熟れただろうか、いつ完熟するのだろうか、と突っついたり話しかけたりしながらその日を待った。

へたの周りが、黒みを帯びた赤色になり、うずくまった子うさぎくらいの大きさになった、とある夕方、「産まれる! もう産まれる!」と、Pの母の叫び声がするので、Pと私は声の方に駆け寄った。表皮をブルブル震わせながら、枝から離そうとあらん限りの力を振り絞っている。すると、「おお!」という間もなく、ぽとりと軽やかに落ち、コロコロ転がるのだった。危うくソファーの下に転がり込むところだったその子を、Pが素早く手を伸ばして掴んだ。「温か~い」。Pが言った。

私が手を差し出すと、Pは生まれたばかりの実を手のひらに載せてくれた。Pの言うとおり本当に温かくて、目も鼻も口もないのにあまりにも可愛く、何度も頬ずりしたくなるほどだった。私はPに実を返した。「ところで、これはどうしたものかな?」 手のひらであやすようにごろごろ転がしながらPが言う。言われてみると、早く生まれることばかり考え、その後どうするのかは、まったく考えていなかったので、私も眉間にしわをよせPと目を合わすほか、なかった。

手のひらでしばらく転がっていたが静かになり、眠ったように見えたので、Pはそっと実をテーブルに持って行き、タオルを敷いてその上に置いた。そのあと、私と Pは実を間に向かい合って座り、この子をどうすべきかとしばらく話し合った。このままだとすぐ腐るだろうし、かといって、生まれたばかりの子を植木鉢の土に埋めてしまう、というのも全く気が進まなかった。そのうえ父とPの母に訊くと、呑気な声で、お前たちの弟妹だから自分で決めろと言うではないか。二人でしばらくその子をつねったり撫でたりしながら「どうしよう、どうしよう」と悩んでいたが、Pが立ち上がって引き出しから果物ナイフを取り出して言った。二人で半分分けして食べてしまおう。

私はそれも悪くないと思った。Pが皮に果物ナイフをそっと当てただけで、よく熟れた実は半分にぱっくり割れたのだが、真っ赤な果肉はとても美味しそうに見えた。私とPはそれぞれ一切れずつ持って「いち、に、さん!」と、ポイと口に入れた。ぷにょぷにょした食感に、芳しく、たっぷりの甘い果汁――。二人は目を丸くして、おいしいね、と言外に確かめ合いながら、せっせと顎を動かした。ごくり、と飲み込むと、噛みつぶされた果肉の、喉をつたう動きがくすぐったく、直後に、その真っ赤な粒が、ポチャンと胃の中に落ちて優しく溶けていく様まで、目の前のできごとのように、はっきり感じとることができた。

私はその夜、おかしな夢を見た。それは、営業時間を終えた遊園地のようなところを駆け回り、どこまでも転がっていく赤いボールを追いかけている夢だった。ボールを捕まえポケットに入れた瞬間夢から覚めたのだが、翌朝、この夢の話をすると、 Pが「あっ、もしかしてそれ、胎夢(テモン)(妊娠を予知する夢)じゃないか」と言うので、私も、(そうだったのか)と、思った。

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赤い実一気に

2025-05-06 14:03:47 | 韓国文学 読書

ご無沙汰してました。口実になりますが、パソコンの不調がやっと解決しました。

「赤い実」の残りをあと二回ぐらいで終わらせようと思います。お付き合いくださいませ。

夕方、Pは私の翻訳した「りんご」を読んでいた。私は口がさみしくなり、インスタントラーメンをカリカリのまま細かくして、おやつにしようかと思っていると、父が急に、お前たち、ちょっとこっちに来い、というので、Pと私はいちど目配せしてベランダに出た。また何を頼もうというの? 皮肉っぽく言うと、Pに視線でたしなめられ、父は聞かなかったふりをして威厳のある声を作り言った。俺たち、結婚するつもりだ。Pをちらりと見ると笑いをこらえていたので、私も安心してキャッキャと笑った。Pが私の脇腹を強く突っつきながら、笑っちゃ駄目、と自分を棚にあげ真顔になった。お構いなしに思い存分笑ったあと、だけど、どうして急に? と訊くと、父は待っていたと言わんばかりに答えた。――子どもが生まれるからだ。

それを聞いて私が想像したものは、赤ちゃんのような形の根で、引き抜くと悲鳴を上げるというマンドラゴラとか、映画「カーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」に出てくる「ベビーグルート」のような姿だったので実感が湧かなかったが、そういえば、おかしいという点では、父さん自体もヘンテコだもんね、と気づき、くっくっと笑った。けれど、父の言うその「子ども」というのは、まったく違う姿をしていた。Pが繁った枝をそっとかき分けると、そこに現れたのは、小さくて丸い、角のような形に固く巻かれた、紛れもない蕾だった。Pの母が恥ずかしそうな声で、あさってごろ咲きそうだよ、とつぶやき、私とPは顔を見合わせた。ひとまずおめでとう、と渋々言っているPの表情がおかしくて、私はまたへたり込んで大笑いした。

Pと私は結婚式のあくる日、花き市場に行き、そこで一番大きくて、おしゃれな植木鉢を買ってきて、父と母を丁寧に抜き、新しい鉢に一緒に植え替えた。その後、私はかわいいワンピース、P はスーツでおめかしし、皆でテーブルを囲み、ケーキにろうそくを立て、シャンパンを飲んだのだが、父がこれは結婚式じゃなくて誕生日じゃないか、とふくれっ面をした。それでも私は楽しくて仕方なく、時折感傷的になっては、これが娘の気持ちというものなのね、とつぶやきながら涙を拭くふりをして皆を笑わせた。

その日ベッドに横たわったとき、もう二人は兄妹になったのね、と言うと、それじゃ、兄妹では絶対しないことをしてみよう、とPにやんわり誘われ、夜光ステッカーも恥ずかしくて落ちてしまうほどの ――実際は壁に激しくぶつかり揺らしたために落ちたのだが―― とにかくそんな夜を過ごした。あくる朝見ると、夜の間に蕾は鮮やかに花開き、ピンクの花芯にたっぷりついた黄色い花粉の、甘くて少し生臭い香りが家中に満ちていた。

 

 

 

 

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