後閑「今の仕事の内容
は、Angel's Share NY/Speak Low Shanghai(6月オープン予定の新店)のDirector、fivesenses(去年立ち上げた会社)の代表ということで活動してますが、主にレストランやバーのコンサルティング、コンペティションでのジャッジやセミナー、パーティやイベント等、ほとんどフリーランスに近いのが現状ですね。
コンサルティングの内容はレストランやクラブ等を相手にレシピを提供し、現地のスタッフをトレーニングし、定期的にクオリティチェックをしに行くというのが基本的な流れです。
現在はNYを中心にアメリカ国内での活動が多く、最近主に仕事させて頂いてるのは料理の鉄人で知られてる森本シェフのMorimotoグループです。
コンペティションのジャッジやセミナーはバカルディでのものがほとんどですね。(たまに八戸市長杯のような異例もありますが 笑) バカルディグローバルからの依頼がほとんどなのでエリア関係なくわりと世界中でやらせてもらってます。
パーティやイベントはタイミングさえ合えば、色々なブランド、業態ともやらせてもらってます。 バーショーでのセミナーやホテルでのゲストバーテンディング、新しい商品のPRや制作のお手伝い等。最近ではサントリーのNY限定の商品Aoとの仕事が多いですね。
料理とのペアリングのイベントが多いので有名なシェフとも絡めて色々な意味で美味しい思いをさせてもらってます
」

北條「海外のバー事情にも詳しい後閑さんからみたニューヨーク(海外)と日本のバーテンディングの違いを教えて下さい。」
後閑「海外と日本の違いですか。
やはり"海外"という言葉がよく使われる事からわかる通り、他の国と比べて日本のバーテンディングは大きく違いますね。
1. サービス
日本は"お客様"を心地よくさせるおもてなし、アメリカは"カスタマー"を楽しませるエンターテイメントというのが自分で解釈してる大きな違いですかね。
2. カクテルの認識
日本では焼酎やビール等、国産の物の市場が大きいせいかカクテルは特別な飲み物(かっこいいもの、お洒落なもの、女性が飲むもの、甘いもの等)という風に思っている人が多いように思えます。
その点アメリカではカクテルに対してはそこまで特別な飲み物という認識はなく、業界誌以外でも取り上げられる事も多々あるので、一般的により身近なものという印象があります。
3.バーテンダーのスタイル
1,2に繋がる部分もあるのですが、日本は一杯一杯を丁寧に作り時間をかけるのに対し、アメリカは速く作るりお客様を待たせないという違いから"質"という部分では平均的に日本の方が優れていると思います。
ただ手に入る材料、情報の早さも関係して、"創作"に関してはアメリカの方が優れているように感じます。
日本のカクテルは素材を活かし、除けるものは除き完成させる引き算的なカクテルが主流のような印象がありますが、それに対しアメリカは味を足しながら新しい味を作り上げる足し算的なものが主流のように思えます。(完全に自論ですが 笑)
4. 特性
日本人は一人一人のアルコールを摂取できる量が圧倒的に少ないので、飲まれるカクテルも酒精が低いものが好まれるような印象があります。そのためお酒に詳しい人が少なくバーに行くとバーテンダーにすべてを任せる人が多いのかなと。なんていうか悪い意味ではないのですが、依存してる人が多い気がしますね。
そんな理由からか"バーテンダーにお客がつく"という印象です。
逆にアメリカ人は女性も含め一人一人の飲める量がとにかく多いですね。 リキュールベースのカクテルはほとんど見ないですし。
多くの人が自分の飲み方を持ち、カクテルの注文もブランドを指定する人が多いですね。それにアイテムのセレクションやカクテルの内容、場所や内装などでお客がバーを選ぶのが一般的なので"バーにお客がつく"方が断然多いと思います。
5. 道具
日本製のものは今世界中どこへ行っても使われてます。 3ピースのシェーカーやミキシンググラス、ジガーやスプーン全て。
自分がNYに行った8年前は何にもなくて困っていましたが今となっては無い物はないくらいになってきました。
ただアメリカでは先ほど3でお話した通りスピード重視のお店が多いので、3ピースのシェーカーを使ってる店はほとんど見ないですね。 ほぼみんな2ピースのティンシェーカーを使用してます。
ただヨーロッパでは3ピースのシェーカーを使ってるバーテンダーは多いですね。アメリカとヨーロッパの違いまで書き出したらキリがなくなって来るので、今回は日本とアメリカの違いだけでいかせていただきます 笑」
北條「バカルディ・レガシー世界大会出場にあたり、苦労したポイントや、出場時の体験談など教えて下さればと思います。」
後閑「我々日本人が欧米のバーテンダーにどうしてもかなわないのは、英語力とプレゼンテーション能力ですね。どのブランドのコンペティションに出るにしてもプレゼンテーションは避けて通れない大きな壁です。更には、もし優勝でもするとセミナーやイベントやらで英語とプレゼンテーションは一生ついて回ります。こればっかりはひたすら練習するしかないですね。私の場合、話すのも読み書きも、日本語の方が断然得意なのですが、プレゼンだけは英語の方が楽ですね
(日本語では年に一回くらいしかやらないので。。)何事も積み重ねと慣れですかね
バカルディ・レガシー出場の体験談ですが、出場した2012年の大会は、優勝よりももっと大切な"人の素晴らしさ"を頂きました。2012年のこの大会はバカルディ社150周年を記念した過去最大級のコンペティションで、26カ国の代表で行われ、準決勝で8人にしぼられ決勝を行うという形式でした。出場者はそれぞれ自国で勝ち上がって来た強者ぞろいで、準決勝には、なんとか勝ち上がったものの、味、テクニックはよいが、プレゼンテーションはいまいちと審査員から言われました。確かに他の出場者と比べると、ただもくもくと作るだけでほとんどろくに喋れなかったんです。どうにかしなきゃと考えれば考えるほど、何を話していいか浮かばない。決勝当日の順番決めで、私が引いたクジはまさかの最後8番目。
主催者の挨拶と共にいよいよ決勝が始まりました。みんな勝ち抜いただけあり、素晴らしいパフォーマンスで会場を沸かせていました。特に凄かったのは2番目のUKの出場者そして3番目のオランダの出場者でした。少しずつ自分の出番が近づくにつれて緊張で胸がはち切れそうになっていました。そんな中、ある人がこう声をかけてくれた"Just Be your self" かっこつけてもしょうがないし、自分自身で行けばいい。あまり何も考えずに行こうと思いました。そしていよいよ出番が回って来ました。制限時間は準備、メイキング、サーブ、片付けすべてを含め10分。もし越えると大幅な減点で、その時点で優勝は無くなります。ステージに上がりまず自己紹介をし、また自分の近況の話しました。自分が日本人である事、大震災の事、ビザがなかなか取れなくてアメリカからずっと出れなかった事、家族にも会えなかった事、そういった事を話していたら感情的になってしまい、情けなくも舞台上で涙を見せてしまいました。観客のなかには涙してくれる人もいました。MCが残り時間5分のアナウンスをしました。気づいたら話に夢中で時間の事をすっかり忘れていました。急いで作り始め、片付けを考えるとおそらく間に合わない時間でした。残り3分のアナウンス、時間は無かったのですが必死に説明しながら作りました。残り1分のアナウンスが入り、ようやくシェーカーを振り始めました。半ば諦めかけましたが、それでもよいパフォーマンスは残そうと思い作り続け、残り30秒、ようやくカクテルは完成。急いでステージを降りて審査員にカクテルを配ろうとした時、UK、オランダ代表を筆頭に続々とステージに上がって来ました。その時は状況がいまいちつかめなかったのです。というのも出場者と自国のアンバサダー以外はステージには上がれないからです。終わりってこと?とにかく急いでサーブしました。最後に柚の皮を絞り、ステージに戻ろうとしたとき、正直目を疑いました。なんとベスト8に選ばれた出場者達が私の為に全て片付けを終わらせてくれていたのです。あまりの驚きと感動で言葉を失いました。勝ちに相当こだわってた私がもう負けでいい、こんなにも幸せで貴重な体験が出来たんだから... これでやっと終わった、NYの大会、全米の大会そして今回の世界大会、どれをとっても最高の一時で、満足でした。舞台裏に戻ろうと思ったその時、大歓声、スタンディングオベーションさらには号泣している人も沢山いました。電工掲示板に目をやると残り15秒で止まっていました。間に合ったんだ。涙が止まりませんでした。
そして30分後、大会主催者ダヴィド・コルドバ、審査員の挨拶があり、いよいい発表となりました。、、、、from New York!!この言葉が出た時点で会場にいた全員が誰が選ばれたか解りました。担ぎ上げられ、大歓声を浴び、ステージに呼ばれトロフィーを受け取りました。頭が真っ白の中マイクを渡され、スピーチをしました。そしてダヴィドのスピーチ"仲間の大切さ、人のあたたかさまでをも見る事が出来た最高のコンペティション"この言葉を聞いた瞬間、大号泣していました。出場者達も続々とステージにあがりお祝いの言葉をかけてくました。
今でも信じられませんが、もし彼らがあの時、手伝わなかったら、その中の誰かが勝てたはず。大会が終わり礼を言いに行きました。"あたりまえだろ" 器の大きさ、男気、暖かさに感動しました。短い時間でしたが、こんなかっこいいやつらと出会えて本当によかったと思いました。謙遜ではなく、私はチャンピオンでもない。良い仲間に囲まれたラッキー・ボーイでした
」

北條「アメリカン・ドリームってあるんですね
近年では、海外に出たいというバーテンダーが多くなってきています。これから海外を目指すバーテンダーの皆さんにアトバイスとかあったらお願い致します。」
後閑「行きたいと思ったら短期でも一回行ってみるのがいいと思います。 どこへ行っても何かは必ず得れるので。ただ英語は少しでも勉強してから行く事をオススメします 笑」
北條「最後に今後の目標を教えて下さい。」
後閑「そうですね、たくさんあるんですけど、来年辺りにはNYでお店を開ければいいなと思っています。
それと今まだあまりアメリカ国内での仕事がそこまで多くないので、もう少し増やしていければとも思っています。日本にもゆくゆくは定期的に帰れるようにしたいですけれど、まだまだ見えてないですね。
」
北條「貴重はお話、感動の体験談など、盛りだくさんのお話、ありがとうございました!」
※ブログのインタビューに貴重なお時間を頂き、本当に有難うございました。
10年以上前にフレアを通じてサントリー・スクールで出会い、以前の職場のマルソウにも来ていただき、先月の八戸大会のお仕事で久しぶりの再会で、とても嬉しかったです
またどこかでお会いできる事を楽しみにしております(次も八戸市長杯ですかね
)!
日々お忙しいかと思いますが、益々のご活躍をお祈り申し上げます。
北條"CATMAN"智之