第400話 母娘三代

2011年12月09日 22時33分03秒 | Weblog

「ゆかつぁん」
目を閉じると、おばあちゃんの私を呼ぶ声がきこえる。
ちゃん、ではなく、ちゃんとつぁんの間の祖母独特の呼び方。
おばあちゃんとはよく手をつないで歩いた。
おばあちゃんと何を話していたのだろう・・・思い出せない。
おばあちゃんにとっては子供の私の話などたわいもないこと極まりなかったであろうが、
笑っていたおばあちゃんの顔が思い浮かぶ。

母は長男の嫁である。
祖母と母との間にある嫁と姑の関係を感じることができるくらい私は少し大きくなった。
一緒に歩くと、祖母は私とよく似ていると言われ、嬉しそうだった。
あんなに仲のよかった私たちだが・・・娘は母の味方だ、
私はおばあちゃんのことが好きだけれど、少し嫌いになった。
そのうち、私はときどきおばあちゃんの家にいくようになり、
たまにおばあちゃんの家に行くくらい、大人になった。

お盆とお正月はいつも親族一同集まる。とーま家のしきたりだった。
長男の嫁である母は、お盆の前から買い物に、当日は食事の支度に大忙しだった。
子供たちが食べ、男たちが酒を酌み交わしながら談笑する間も
酒の肴を次々に出さねばならない母はいつまでたっても座って食べることができなかった。
祖父が亡くなり、孫たちも大きくなり、重んじていたしきたりが守られなくなった。
それでも、長男の家族なので私たちは必ず参加していた。
徐々に時間をかけながら、台所に立つ女たちの様子が変わってくる。
昔はよく祖母に怒鳴られていた母、それが、母から諭される祖母に。
台所の中心にいた祖母に代わって、母が中心に作っている・・・祖母は歳をとった。

祖父が倒れてから亡くなるまでの13年間、母は祖父母によく仕えたと思う。
いざという時、頼れぬ息子より献身的に支えてくれる嫁に軍配があがった。
私の父は威張りん坊だけれど、頼りないところがある(笑)それがよかったのか、
祖母と母は父の悪口(決して見捨てることのない愛情ある)を笑いながら言い合える仲となった。

最近は嫁いでも実家近くに住み、お母さんのご飯に頼りながら・・・も多いが、
嫁姑の関係が変わったのはこのマスオさん現象に原因があるのではないかと思う。
赤の他人が夫の家に入り、そのしきたりにあわせ、その味にあわせ、
時間をかけながらその家に馴染んでいく・・・
姓だけは夫のものを名乗るが、味もしきたりも実家流には成し得ぬ母の偉業を見た。
昔はもっとキツかった微笑む母から祖母がどう見えているかはわからないが、
祖母は娘に甘えるよう母に甘えた。
母に頼る祖母を見て、私は「お母さんはすごい女だな」と思った。

息子を産んだ私は祖母の気持ちが少しわかるような気がした。
嫁いだ私は母の偉業に頭があがらない。
祖母、義理の娘、実の娘の三代。
義理の娘は今、息子の祖母となり、娘の私は母となった。ここは、しばらく二代。
嫁姑で苦労した母は、弟の嫁(義理の妹)にしきたりを強制しない。
もう効力のないしきたりであることを知っている母は義理の妹と仲良くやっている。
母は祖母となり、義理の妹に子供が生まれたら、また新たなる三代の幕開け。
次はどんな三代になるのか・・・祖母が命をつなげて築いてきたとーま家、
他家に嫁いだ身、遠くから見守っていこうと思う。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 第399話 職業病 | トップ | 第401話 君の名は(1号車) »

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事