matta

街の散歩…ひとりあるき

不満なひとこぶラクダ

2015年12月14日 | 詩・小説

不満なひとこぶラクダ

 あるとき、何ごとにも不満だらけの、ひとこぶラクダくんがいた。
 前の日、友人に言った「あした、パパとママといっしょに出かけ、講演を聞
きに行くんだ、そういうものさ、ぼくはね!」
 それで友人みんなが言った「ああ、ああ、講演を聞きに行くんだって、すご
いね」で、かれは眠れなかった、それほど待ちどおしかった、さて、かれは不
満だった、講演が思っていたのとまったく違った。音楽もなくかれはガッカリ、
うんざり、泣きたくなってしまった。
 一時間と四五分というもの、太った男のひとが話していた。その太った男の
ひとのまえに、水差しとブラシのない歯磨き用コップがあり、ときどき、男の
ひとはコップに水を注いだが、一度も歯を磨くこともなく、目に見えていらだ
ち、ほかのことを話しだした、すなわちひとこぶラクダとふたこぶラクダのこ
と。
 ひとこぶラクダくんは、暑さがきつくそれにこぶが邪魔。座席の背にこすれ
てとても座りづらくもぞもぞしていた。
 そこで、母さんが言った。「静かにしてなさい、お話しをしているでしょ」
で、こぶをつねった。ひとこぶラクダくんはますます泣きたくなり、出たくな
った。

五分間というもの、講演者はくりかえした「とりわけ ひとこぶラクダとふたこ
ぶラクダを混同してはならない、紳士淑女にひとこぶラクダのみなさん、次の
事実に注目されたい、ふたこぶラクダはこぶが二つだが、ひとこぶラクダはこ
ぶが一つしかない!」
 会場の人たちみんな言った「ああ、ああ、実に興味深い」
 そこでふたこぶラクダ、ひとこぶラクダ、男、女、こどもたちは手帖にメモ
をとった。
 それから講演者はまたはじめた「そのふたつの動物のちがい、それはひとこ
ぶラクダはこぶ一つしかもたいないのに、奇妙かつ知れば有益で、ふたこぶラ
クダは…」

ついに、ひとこぶラクダくんはそれにあきあき、演壇にかけのぼり、講演者
にかみついた。「やなやつ!= Chameau =ふたこぶラクダ」講演者が怒って言
った。
 そこで会場のなかのみんなが叫んだ「Chameau、汚いChameau、汚い
Chameau!」
 でもそれはひとこぶラクダdromadaireなのだった。かれのほうこそきち
んとしていたのさ。
(ジャック・プレヴェール&絵:エルサ・アンリケ『お話-よくないこのために』より)

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