東京大阪ラプソディー

私が生まれ育った故郷「東京」の友人たちへ、また私の「大阪」での生活を知る心優しき人たちに、徒然なるままに綴っています。

ちょっと粋なお店へ…

2011-06-06 16:22:29 | 日記
 一昨日は谷町六丁目の近くにある老舗の割烹料理屋へでかけた。。。

タクシーで大阪城と府庁の間を走り上町筋を南へ、、長堀通りにぶつかる手前にある『T』というお店だ。
大阪が商人の町として栄え、船場や堂島にある繊維問屋や大店での若旦那衆や「ぼん」たちが通ったであろう老舗である。
使用人からは奥さんや娘は『いとさん、こいさん、ごりょうさん』と言われていた古き良き時代。。。
ちなみに、こうした言葉は今では使われていないが、地域限定のゆかしい大阪弁だ。
お嬢さんのことを「いとはん(愛しい人)」。長女は、いとさん。次女は、中いとさん・なかんはん。
三女を、小いとさん・こいさん。ちなみに男の子は、ボンボンの「ぼん」だ(笑)。。。
奥さんは、御料さん(ごりょんさん)。そう呼ばれていたのは、かなり格上の店の奥さんといえる。

さて、「T」の外観は普通の料理屋然としているのだが、一歩店に入るとノスタルジックな雰囲気満点だ。

赴きのある座敷にはそれぞれ違った鉦や太鼓、釣鐘に拍子木が置いてあり、店の人はその音の違いによってどのお座敷の客が呼んでいるのかを聞き分ける。ブザーやプラスチック製品などの無粋なものとは無縁の空間である。
私のところにはこの鉦…なかなかオツな演出だ。
ちなみに隣の部屋はこんな太鼓が鎮座していた・・・

「T」は江戸末期創業、180年もの歴史を持つ老舗割烹。
昔の梁や柱、欄間を生かした大小11の座敷には当代の祖父が好きだったという骨董の品々が置かれ、 
まるで小津安二郎の映画の中にいるよう。暖簾、磨りガラス、欄間などには店の意匠である昆虫が遊ぶ。

古都の老舗なら必ず感じる張り詰めた威厳みたいなものはここにはなく、老舗なのに畳でゴロンと寝転びたくなるようなゆったりした気分にさせてくれる。
私と同い年のご主人は5代目だというが、先代の父親からその技と味、伝統を引き継ぐ…
名物の鯛のあら炊きやタコの桜煮は驚くほど嫌味のない上品な甘さで、食べるのが面倒な鯛の頭をしゃぶりつくしてしまう…

 
「まったり」という言葉がこれほど嵌まる甘さは経験がない。
スルスルと二合徳利が次々と空いてしまう(笑)
天麩羅は小ぶりでさっぱり塩でいただく。。。

トロ、イカ、アワビのお造り・・・

揚げ出し豆腐も実に優しい味だった。。。
「昔ながらの大坂の味」を今に残すのは並大抵のことではできない。

〆に鯛茶漬けをいただく・・・ほんまに美味い!!!

お品書きには値段は一切書かれていないのが一見には怖いが…
確かに財布の紐もそれなりにユルユルにならないと来れないのだが、、、
たまにこうして粋なお店で長年にわたって培われた技を堪能するのは大人の贅沢というより、むしろ勉強だ。
教養の一部とも言える。

洗練された美味しいものに出会い、まったりとした雰囲気を堪能して束の間、非日常の中に身を置くことは安物の店では絶対にできない。蘊蓄ばかりで子供騙しの創作料理屋では決して味わえない心穏やかな時間を過ごせることが何より魅力だ。
最近はとんと見ないが寡黙で謙虚な高倉健と薄っぺらで思慮に欠ける橋下徹ぐらいの違いがあるといえば分かりやすいか??