オベロン会ブログ

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10月のオベロン会例会報告

2011-10-30 | てこな姫

10月のオベロン会例会は、
29日(土)に、国際文化会館で開かれました。

発表者は、宮本正秀さん。


今回は、
Sir Thomas Browne の散文の中でも
ほとんど論じられることのない一品

A Letter to a Friend

という「書簡」の形式をとった作品を
論じてくださいました。


これは、医者であった Browne が、友人である Sir John Pettusの依頼によって
Pettus の友人の Robert Loveday という当時34歳の肺結核患者を
診察し、その最期を看取った記録の書簡です。


遠方にいる Pettus に向かって
友人の逝去を報告し、その顚末を記すというのが
表向きの「書簡」の形式でありますが、
宮本さんによりますと
これは
"concilium" という、当時よく書かれていた
「医者の診察記録」の一形式なのだそうです。


医療保険などない時代のこと、
医者にかかるのは、とても高額なことで、
一部の階級にしか許されていないことでした。


"consilium" という形で書かれた診療記録は、
医者の仲間内で回覧されたり、
将来の患者候補である、地元の名士たちの目にも触れたりしたわけで、
医者としての自身の技量を宣伝し、アピールする媒体でもあったようです。


このあたりは、何とも興味深い話ですよね。


さて、
Sir Thomas Browne の "Letter" ですが、
これは、
通常の "consilium" とは少し違っているようでして、
肺結核患者の詳細な病状の記録というより、
内容を占めているのはむしろ、
「死を巡る観想」だったり、
「肺結核の歴史的記述」だったり、
「墓碑銘」の考察だったり、
「キリスト教徒にあるべき最期」だったりと、
いかにもブラウンらしい
博学と沈思の産物となっています。

この"Letter" はブラウンの死後の出版であって、
執筆当時のブラウンが、どこまで出版を意図していたのかは分かりません。

しかし、
実際の手紙として Pettus のもとに送られる一方で、
ブラウンは、この "Letter" に後年、手を入れて、あらたに
「モラル」的な文章を加え、
詳細なマージナリアを書いているところをみると
単に、一部の内輪の人間での回覧に供する以上の意図があったのではと
想像させてくれます。


批評の俎上には、なかなか登ってこない作品といいましたが、
Walter Pater が、これに注目して
 " elfin" のような作品だと、賞賛していたことも紹介されました。

ペンギン版の Sir Thomas Browne: Major Works にも収められている小品です。


これを機に、
ぜひ、多くの人に、ひもといて欲しいと思います!!


宮本さん
興味深い発表、どうもありがとうございました!! 



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