ー「ホームズはなぜ、切り裂きジャックについてまったく言及していないのか?」―ホームズ物語の中でも最大級の疑問に、ひとつの解釈を与えたホームズ・パロディの名著、待望の邦訳。(マイケル・ディブディン『シャーロック・ホームズ対切り裂きジャック』日暮雅通訳 河出文庫 2004)
ルネ・レウヴァンの?Élémentaire, mon cher Holmes...?を再読。11/24の時点では、ほとんど内容を忘れていた。これもディブディンの作と同じ疑問に(「ホームズの死と復活」の謎にも)、自己流の解釈を与えた小説といえる。出てくるのはホームズでなくコナン・ドイルその人。
日暮氏のあとがきには、山ほどあるこの種の作に伍して、何がディブディンの功績かが示されている。私には同じようにレウヴァンの一連のホームズ物を位置づける力がない。
ジュール・ヴェルヌとロートレアモンの人、作品、同時代の事件、それらを結び、途方もない物語を作りあげてしまうレウヴァンの才能(拙文 ジュール・ヴェルヌの影)は、Albert Davidson名義のこの作品にも発揮されている。実のところパロディ、パスティッシュと呼ぶのをためらう、世紀の変わり目の英米仏が舞台の、ずっしりと重い暗黒小説。
ついでに読み直した?La raison du meilleur est toujours la plus forte?(Le Livre de poche) ラ・フォンテーヌの「強い者がいつもいちばん正しい」(La raison du plus fort...)を逆にしたタイトル。「正義は勝つ」?
雪崩で山中の宿に閉じ込められた一団の人たち。中で命を狙われる青年の名がl’agneau pascal(復活祭の子羊)にかけたPascal Laniot 殺し屋が(『狐物語』の)IsengrinとJean-Loup(狼)、パスカルを守ろうと闘う娘がMarie Bergère(羊飼い)
殺し屋たちが行動を起こす前に、パスカルは何度も危ない目にあう。良家の息子、爽やかな好青年が、思いがけず周囲の嫉妬や憎しみを買う。パスカルが殺されかけるたびマリーが介入する。捨てられかけの恋人ミナが毒を盛ったグラスをすりかえ、隠されていたピストルの銃口に細工をし。パスカルは救われるが、おかげでばたばたと人が死ぬ。
ラ・フォンテーヌの『狼と子羊』(Le Loup et l’Agneau 英訳つき)は皮肉な寓話だが、レウヴァンのも負けずにひねったお話。けものたちと娘のグラン・ギニョル劇、その教訓は何なのか。「驚きの結末」は用意されているし、ラ・フォンテーヌなど忘れて読んでも、よくできたミステリには違いない。