発見記録

フランスの歴史と文学

マンディアルグと「緑の礼服」

2006-02-02 22:07:24 | インポート

マンディアルグはアカデミー・フランセーズが大嫌いだった。まずl'habit vertと呼ばれる礼服が気に食わない。「時代錯誤的だし、教会の番人とか、昔の廃兵に似ている」
ジャン・ポーランが会員になったことについて「どうして彼のような人物が、才能のない作家や、軍人や、田舎坊主や、教師や、何でもいいもっとくだらないすべてのものが寄り添ったあの恐るべきごたまぜを受け入れられたのか、理解できない。ひとの話では、社交界の連中までいるそうだ」(「性・文学・革命」 インタヴュアー イヴ・ド・バイゼル 篠田浩一郎訳「海」昭和46年9月)

アカデミーを笑うナンセンス詩まで書いている。

 L’adéca
  Cacadé
  Mie,

  L’acamie
  Dé

  L’adémie
  L’anémie

  L’adécacadécamie
  Dé,

という調子で、「クルト・シュヴィッタースの《原ソナタ》Ursonate―ここで聴ける―に多少負うところが」あり、「声高く朗誦するとすばらしい効果がある」
この詩はRuisseau des solitudes(1968) に収録されていたはず、対談集Le Désordre de la mémoireに引用されたものによる。
マンディアルグは得意げだが、聞き手のフランシーヌ・マレは
 L’Académie en a lu, en a entendu d’autres, au cours de sa longue carrière. Elle dit apprécier ces preuves de sa vitalité.
  アカデミーは長い歴史を通して、他にもこういうのを聞いたり読んだりしてきました。嬲(なぶ)られるのは元気な証拠、むしろ歓迎するそうです。

「緑の礼服」は軽喜劇の題にも―肩のこらないヴォードヴィル劇L'Habit vert OVNI 01/02/00   同じ作品のポスター(

Jacques Jaubert, L’Académie épinglée (Sylvie Messinger, 1981)は、「コンティ河岸」での取材許可を受けた(accrédité)新聞記者の長年の観察にもとづく「アカデミーをちくっとひと刺し」。
改訂まで気の遠くなるほど時間を要する辞書、帽子や剣も含めた物々しい制服、独特の儀礼、アカデミーはおかしみの種に事欠かない、マンディアルグの詩が不必要に思えるほどに。

礼服は一揃い「3~4万フラン、カルダンの店だと5万」、製作には半年を要する。しかし入会式の時以外は、着たがらない人が多い。
とにかく例会のたび有志六名が礼服を着用すると決めた。マルセル・パニョルが志願、毎回着て来ると言ったが、その他の義務(記念行事・式典が頻繁にある)は免除という条件つき。

1976年2月にはパリ市遺失物課に会員礼服一組が届けられたが、持ち主は現れなかったという。