王様 本日はお日柄も良く、五輪漫才を始めることにした。
お姫 なんですの、いきなり。
王様 30年後の自分は何歳だろうなと考えた時に、もっとセクシーにステーキ食べたいなと思って。
お姫 進次郎かい! って、一応ツッコミ入れておきます。おもてなしで。
王様 今日は卓球について、ひとこと物申したい。おかしなところがあるんだよ、東京五輪の代表を決めるポイント争いに。
お姫 確か、2020年1月の世界ランク上位2人がシングルスの代表になりはるとか。選手は世界中を飛び回りながら大会に出て、ポイントを獲得せんとあかんのですよね。
王様 そう。今、伊藤美誠、平野美宇、石川佳純の3人が、代表2枠をめぐって激しい争いをしている。12月に中国でグランドファイナルという1年の総決算の大会があるが、たぶんそこまでもつれるだろう。
お姫 いいじゃないですか。何がおかしいんですの。
王様 11月6日から10日まで東京で「チームワールドカップ」という大会があるんだ。この大会は国別対抗の団体戦だから、いつものツアーの試合とはポイントの仕組みが違う。
お姫 ほお、団体戦。
王様 普段はどこまで勝ち進んだかでポイントが決まる。ところがチームワールドカップは、シングルスを何勝したかで決まる。シングルスは1勝につき250ポイントをもらえるのに、ダブルスは何勝してもポイントにならない。
お姫 ダブルスもあるんですか。
王様 そう、団体の第1試合がダブルス。第2試合からシングルス。先に3勝したほうが勝ち。この仕組みが、オリンピック争いに不公平な影響を与えるのではないか、不平等な危うさをはらんでいるのではないかと、卓球ファンが心配しておるんだよ。
お姫 もうちょっとわかるようにお願い。
王様 具体的に言うと、A選手はダブルスで負けたほうが、五輪の代表争いで有利になる。ダブルスは勝たないほうがいい。そんな妙なことが起こる。たとえばこんなオーダー。
●第1試合 平野美宇/石川佳純のダブルス
●第2試合 伊藤美誠のシングルス
●第3試合 平野美宇のシングルス
●第4試合 石川佳純のシングルス
●第5試合 伊藤美誠のシングルス
王様 チームワールドカップはこんなふうに、3人で5試合を戦う。ダブルスに出ない選手は、シングルス2試合に出る。
お姫 代表はこの3人に決まってますの?
王様 いや、日本代表はまだ決まっていない。全部で5人選ばれるが、石川、伊藤、平野の3人は出場するだろう。そしてダブルスは平野/石川組になる可能性が高い。だから、これは実現性の高いオーダーだ。
お姫 えっと、ダブルスは「みまひな」じゃないんですか。伊藤美誠と早田ひな組。
王様 その可能性もあるが、最近のツアーを見ていると、平野石川組のほうがありうる。そこはわからないから、あくまで仮定の話だ。
お姫 りょ。続けてください。
王様 日本はまず予選リーグで2試合を戦うが、そのうち1試合は弱小国が相手。骨のある対戦国は1試合だ。弱小国には3-0のストレートで勝つだろう。その場合、獲得ポイントはこうなる。
●第1試合 平野/石川のダブルス勝利。0ポイント。
●第2試合 伊藤美誠のシングルス勝利。250ポイント。
●第3試合 平野美宇のシングルス勝利。250ポイント。
お姫 美誠ちゃんと美宇ちゃんだけ、ポイント・ゲット! これはあかんやつ。
王様 その通り。第3試合で終わってしまうから、佳純ちゃんはシングルスの出場なし。ポイントもない。
お姫 そんなの不公平ですやん! 石川佳純カレー、ヤケ食いするしかないですやん!
王様 だろ。それを説明しておるんだよ。でも、もし第1試合のダブルスで負けたらどうなるか。その場合は第4試合までいく。
●第1試合 平野/石川のダブルス負け。0ポイント。
●第2試合 伊藤美誠のシングルス勝利。250ポイント。
●第3試合 平野美宇のシングルス勝利。250ポイント。
●第4試合 石川佳純のシングルス勝利。250ポイント。
お姫 平等です! これイイね!
王様 そう、ダブルスで負けたほうが公平なんだ。
お姫 私が佳純ちゃんだったら、絶対ダブルスで本気出せません。
王様 オーダーを決めるのは監督だから、監督もなるべく平等になるように気をつかうだろう。たとえば次のマッチは、平野と石川の順番を入れ替える。
●第1試合 平野/石川のダブルス
●第2試合 伊藤美誠のシングルス
●第3試合 石川佳純のシングルス
●第4試合 平野美宇のシングルス
●第5試合 伊藤美誠のシングルス
王様 このオーダーなら第3試合で終わると、美誠ちゃんと佳純ちゃんが250ポイント。美宇ちゃんは0ポイント。
お姫 美宇ちゃんが怒ります! 乃木坂、踊ります!
王様 仕方ないだろう。バランスを取らないといけないから。
お姫 結局、ダブルスに出ない美誠ちゃんが得するような……あ、でも、そこで「みまひな」がダブルスに出れば、また平等になります!
王様 そんなことしてたらキリがない。ややこしいのは、オーダーを監督が自由に決められない部分もあることだ。ダブルスに出ない選手はシングルス2試合に出るが、ふたつめの出番は第5試合か第4試合か、クジ引きで決まるんだ。だから、こんなパターンのオーダーもある。
●第1試合 平野/石川のダブルス
●第2試合 伊藤美誠のシングルス
●第3試合 平野美宇のシングルス
●第4試合 伊藤美誠のシングルス
●第5試合 石川佳純のシングルス
お姫 今度は美誠ちゃんが第4試合。クジ引きって、どういうことですの。
王様 団体戦は相手との兼ね合いがある。どっちのチームも第2試合の選手が第5試合に出てきたら、同じカードになってしまう。だから、ダブルスに出ない選手が第2と第4試合に入るか、第2と第5試合に入るかは、相手とかぶらないようにクジ引きで決める。つまり、第4試合に誰を置くかは、監督も決められないんだ。
お姫 なるほど。マナビス、マナビス。
王様 上のオーダーでダブルスが負けて、残りの試合を勝つと、ポイントはどうなるか。
●第1試合 平野/石川のダブルス負け。0ポイント。
●第2試合 伊藤美誠のシングルス勝利。250ポイント。
●第3試合 平野美宇のシングルス勝利。250ポイント。
●第4試合 伊藤美誠のシングルス勝利。250ポイント。
お姫 美誠ちゃん2勝で500ポイント。すごい!
王様 ひとりだけ大量ポイント獲得という、みまパンチ炸裂だ。この東京五輪争いの終盤に、500ポイントの差がいかに重いか。1年間、世界中を飛び回り、100ポイントでも200ポイントでも多い大会を求めて、ハードなスケジュールをこなしてきたのに、その終盤で500点というビッグポイントがオーダーひとつで動いてしまうんだよ! しかも、弱小国相手のたった1試合で!
お姫 王様、ツバが飛んでます。
王様 ツバも、涙も飛ぶよ。チームワールドカップは、予選リーグで各国2試合をおこない、勝ち上がった8カ国が決勝トーナメントを戦う(簡略説明)。順当なら日本女子は、決勝で当たる中国以外には負けないだろう。ということは、予選リーグ2試合、決勝トーナメント3試合だ。
お姫 合計5試合。
王様 1試合で最大500ポイントの差がつく仕組みが、5試合も続くんだよ! 五輪の切符を争う3人にも、簡単に1000ポイントや1500ポイントの差がついてしまう。
お姫 今までは問題にならなかったんですか?
王様 2018年のチームワールドカップは全5試合あって、石川佳純が1500ポイント、早田ひなが600ポイント、伊藤美誠が300ポイント。平野美宇は出場なし。大きな差はついたが、五輪選考に直接関係のない大会だった。今年は特別なんだ。
お姫 1000ポイントも差がついたら、もう五輪は決まりとか?
王様 この大会のポイント差がそのまま世界ランクに反映されるわけではなくて、他の大会の獲得ポイントとの比較になるが、ここで1000ポイント以上を獲得した選手は有利になる。おそらく今年も誰かひとりだけが1000を超えるポイントを手にするだろう。
お姫 そっかー。それぞれの選手のファンは揉めるでしょうね。
王様 こんな不公平によって、4年に1度、いや一生に1度の東京オリンピック出場権が左右され、誰かが泣くかと思うと、今から心配で黙って見ていられない。もっと影響力のあるメディアに取り上げて欲しかったが、誰も書いてくれないから、ひっそりとわしが問題提起してみた。
お姫 王様は**ちゃん好きですもんね。
王様 おい、そこは伏せ字にしてくれ。立場上、まずい。
お姫 どんな立場ですの。
王様 繰り返すが、チームワールドカップの代表はまだ決まっていない。ダブルスが伊藤美誠/早田ひなペアになる可能性もあるし、その場合、誰がシングルス2試合に出るのか、これもまた大いに揉めそうな選択だ。
お姫 はい。
王様 これら、ひとつひとつのオーダーが即、東京五輪の代表争いに影響を及ぼす、その危うさがもっと知られて欲しい。あいまいなまま、大会に突入するのではなく、誰もが納得するアナウンスを卓球協会がした上で、チームワールドカップを迎えて欲しい。そうしないとセクシーじゃないよね。
お姫 進次郎はもうええわ!
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