藤沢周平と一緒にでてきたのが,宮城谷昌光「沈黙の王」,「孟夏の太陽」,「長城のかげ」。いずれも文春文庫。宮城谷は中国古代歴史小説の第一人者。「太公望」や「楽毅」といった長編も魅力的だが,これらに納められている短編や中編もよい。「沈黙の王」は夏から商,周にかけての時代,「孟夏の太陽」は春秋戦国時代,「長城のかげ」は楚漢戦争を扱っている。晋の宰相「趙武」の物語を含む連作集「孟夏の太陽」も私にとっては大事な一冊だが,ここでは「沈黙の王」の最後に収められている「鳳凰の冠」(ほうおうのかんむり)をとりあげよう。これは晋の名臣「叔向」(しゅくきょう)と彼の妻「季邢」(りけい)との物語。季邢は絶世の美女とうたわれた夏姫の娘。宮城谷には「夏姫春秋」という長編があるが,完成度では断然「鳳凰の冠」が上回る。ふたりの出会いと結婚、叔向の名臣ぶりが、作家的想像力をもって魅力的に描かれ,あますところがない。名品だ。
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