紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

(8) 白い妖精

2021-07-04 06:09:59 | 夢幻(イワタロコ)


 俺は、稲荷神社の小さな朱の鳥居を確認するとY路を左に向かった。小型車が通れる程の道は、沼畔の木立の中をカーブしながら続いている。

「ホーホー」
 フクロウの鳴き声がしてきた。
 高さ二十メートルほどの木が密集している。見上げると梢の先に僅かに空が見えた。夜行性の鳥が日中に鳴き声を上げることもあるのだ。鳴き声のした方へ山をよじ登って行った。
 太い木が行く手を阻む。枯れ枝を踏み鳴らし、下草が湧き出す香りをすり抜けて進む。
 道から大分奥へ入り込んだと思った。

 楕円形の手に載るほどの白い物体が、梢に近い枝葉の間を横切った。慌てて双眼鏡を構えた。捉えることが出来ない。
 梢に目を凝らす。木々の葉は緑の濃淡で彩られ、森全体を緑風がそよいでいる。
 また白いものが目を掠めた。フクロウの幼鳥だろうか。双眼鏡を構え、ゆっくりと左右に振った。
「あ、第一目的物だ」
 太い杉の梢近くの横枝に、真っ白なフクロウの幼鳥がうずくまっている。二羽だ。綿羽が揺らいでいる。目を閉じていたが、片目を半開きにしたり、欠伸をしたり、眠りの中にいることには間違いない。

――この二羽が飛んだのだろうか?
 また俺を焦らすように、白いものが、幼鳥から離れた木々の間を浮遊した。
 後を追った。消えたり現れたりするが、はっきりと姿を確認することが出来ない。それでも追った。服が藪に引き裂かれても、帽子が飛んでしまっても、湿った腐葉土に足を取られても後を追った。

――あれはきっと、白い妖精に違いない。


著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
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