紫陽花記

エッセー
小説
ショートストーリー

別館★写真と俳句「めいちゃところ」

★11 ワッカノナゾトキ山

2024-05-05 07:18:11 | 風に乗って(風に乗って)17作


 
先頭はサダジロウ先生だ。その後ろに十人ばかり繋がっている。みんな前の人の上着を掴まえている。あたしの後ろのタッちゃんは、あたしの三つ編みの髪を握って「なぁヨリコしっかり行けよ。おまえドジだからな」と言った。先生は時々後ろを振り返る。タッちゃんの手までは見えないみたいだ。

「この列車は、今日はワッカノナゾトキ山まで行きます。すこーしスピードを出しますから、みんなしっかり掴まるように」
 先生は腰を低くして走り出した。みんなも走る。あたしも走った。
 校門から田んぼ道を突っ走る。マイマイ川の木の橋を渡ってササクレ坂を登る。
 先生は、定年間近だけど若っぽい。少し長めの巻き毛をなびかせて、息も切らずに登って行く。みんながしがみつく。タッちゃんは、あたしより歩幅が大きいものだから、その頃にはあたしと並んでいた。
「ヨリコ置いて行くぞ」タッちゃんはあたしを追い越し、前のナツミの袖に掴まった。
 あたしは仕方なくタッちゃんの上着に手を伸ばした。

 タッちゃんの上着が脱げた。あたしは握ったまま転んだ。起き上がった時には、みんなはずうっと先を走っている。みんなの足が宙を飛んでいるように見える。
 ワッカノナゾトキ山の頂上の、木の無い所に秘密があるらしいけど、今のところ先生しか分からない。今日、探ろうと思っていた。
 あたしはみんなの後を追いかけた。タッちゃんに、上着を届けるしかない。

 ワッカノナゾトキ山の向こうに、同じ山が見えた。その山の向こうにまたワッカノナゾトキ山があって、その山を先生を先頭にみんなが登って行ったらしい。




★著書「風に乗って」から、シリーズ「風に乗って」17作をお送りしています。楽しんで頂けたら幸いです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俳句・めいちゃところ
https://haikumodoki.livedoor.blog/
写真と俳句のブログです。
こちらもよろしくです。

最新の画像もっと見る