紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

9 アローカナの卵と、裸婦

2022-03-20 07:23:54 | 夢幻(ステタイルーム)23作



 テラコッタの講習日。千鶴子と桃代は、老先生の自宅に教材の裸婦像を取りに行った。
 アトリエに続く広い庭に、見慣れない鶏が七、八羽と犬が放し飼いにされていた。
「この鶏の名前がなかなか覚えられなくてね、こんなこと、あんなことアローカナって覚えたんですよ」
 と、先生が言った。二人は同時に聞いた。
「本当にアローカナって言うんですか」
「南米チリ産の鶏で、いろんな羽の色があるのが特徴だ。それぞれに名前をつけましたよ。黒いのはクロ、白くって足が黄色で清潔なのがジュンコ、斑でスマートなのはスマコってね。茶色の卵を産むナゴヤコーチンを飼っていたときは、草取りの必要がないほど食べてくれたけど、アローカナは駄目。草は食べない。そうだ、良い物を見せて上げよう」
 先生は、自宅に入って行くとすぐに出てきて、握っていた両手を開いて見せた。普段食べている大きさ位の水色の卵だ。
「うわぁ、水色の卵なんて初めてだわ」
「ほんと。着色したんじゃないですよね」
「そう。水色の卵をアローカナは産むんだよ。正真正銘のアローカナの卵だ」
 先生は千鶴子たちに、一つずつ水色の卵を握らせてくれた。冷蔵庫に入っていたらしく冷たい汗をかいている。

 会場の中心にある台に若いモデルが載った。受講生は先生含め男三名、女八名。周りを取り囲んで粘土を用意した席に着く。
 ポーズは、胡座で顔は少し横向き、両手は足元に添えることに決定。
 モデルが、紫色の薄い衣装を脱いで、ゆっくりとした動作でポーズをとった。豊かな胸と腰骨の張った白い裸身だ。



著書「夢幻」収録済みの「ステタイルーム」シリーズです。
主人公はそれぞれの作品で変わります。
楽しんで頂けたら嬉しいです。


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