「本日も読書」

読書と映画の感想。ジャンル無関係、コミック多いけどたまに活字も。

CIA秘録 下巻

2009年06月04日 | book
あーやっと読了。
とにかく読む時間が電車の中と出社前くらいしかないからなw

いや、それにしても、まあ、圧巻ですね。
調査報道というのはこうあるべきというか。
ソースがはっきりしている話でも、これだけ集め、整理していくと、人々の心までわかるというか。

上巻ではCIAは一体何をしたいんだろう?という話。
下巻ではCIAが信頼を失った結果、崩壊していく話。

もちろん、すべてが失敗だったわけではない。
成功したこともあったのだ。だけどほんのわずかな成功とあまりにも圧倒される失敗では、どうしても見合わなかった。

読んでいて思ったことが、終盤ではっきりと言われてくるようになる。
「いったい非合法な工作活動はどこまで認められるのか?」
「アメリカの安全のためにアメリカの国民に工作活動をしてもいいのか?」
「民主主義を広めるために一般人を殺していいのか?」
「アメリカを守るために虐殺者を支援していいのか?」
「敵に暗殺を仕掛けるのなら、敵も当然暗殺を仕掛けてくる。それを駄目だとは言えないのでは?」
「そもそも民主主義という開かれた国家で、秘密主義の情報機関を運営することができるのか?」

「CIAの目的はなんなのか。秘密工作をすることなのか、情報を分析するためなのか、その両方か。秘密工作をするのなら何のためにするのか。民主主義を広めるためなのか、アメリカの国土を守るためなのか、誰から何を守るのか、世界を平和にするためなのか。

 情報を分析するとしたら何の情報を分析するのか。ベールに閉ざされた国の国勢調査か? 軍事情報なら核兵器の製造か、破たん国家の内情か、内戦をしている国の虐殺の情報か、飢餓の情報か、人権侵害の情報か、テロリストか、テロリストならどのテロリストなのか。ビンラディンか、イスラム原理主義者か。イランか、北朝鮮か、キューバか、南アメリカか、、、、

 それとも経済情報の分析か。日本の技術か、国際貿易の動向か、中国の市場
か。」

適当に羅列したが、まあ、ともかくCIAを使う人々は、CIAをうまく使えず、CIAはそれに応えられなかった。それはCIAがまねいたこと。なんでもできると、嘘をついてきたから。

下巻の話ではCIAが厄介者扱いされたり、格下扱いされる。
しかし、それにはすべて理由がある。本当にCIAは失敗していたからだ。
「信頼されなければ存在しないのと同じ」というフレーズが出てくる。

CIAがスパイのスターなどと信じている人はほんの少し考えてほしいのだ(さすがにそんな人はいないと思うが)。
じゃあ、なんでこうなってしまったのだ、世界は、と。

海外ドラマの24では、おそらくCIAが理想とした秘密組織が舞台だ。
ジャック・バウアーは格好いい。ボロボロになってそれでも戦い続ける。
大統領と緊密にやりとりし、裏切りもあるが、信頼もある。
一級の知識・知恵・経験・実力が発揮される。

だけど、やはりドラマでしかないのだ。
非合法の工作活動を許可され、「騙す」ことが専門の組織は崩壊していく。

CIAがゲシュタポになっている、と指摘した幹部がいた。
それも道だったろう。民主主義を捨てて秘密警察化すれば、諜報機関は甦る。
ただし諜報機関がよみがえる代わりに国家は死ぬ。ナチスドイツ(この国は戦争に負けたから違うともいえるが)やソ連のように。あるいは国民が不幸になる。北朝鮮やビルマのように。

CIAはゲシュタポのようにはならなかった。
民主主義の下での秘密のベールに包まれた諜報機関は、倫理意識を失い、精神を病み、ずさんになっていく。
エームズ事件はその極みだったろう。CIAがソ連に情報を売るとは。脅されたのでも金につられたのとも違う(謝礼は受け取っていたが)。自らCIAが馬鹿馬鹿しくなって情報を売ったのだ。

エームズがCIAみたいな巨大な組織で秘密なんて守れるわけがない、というような言葉がある。裏切り者の言葉だが、民主主義の国ではそうなのだ。

組織の崩壊によって、局員はどんどん辞めていき、民間軍事会社へと移る。
後半ででてくる。CIAに新たに入る人の将来設計w

「CIAに入って何年かしたら民間軍事会社に移って高額な給料をもらう。」
やることが同じなら、給料が高いほうがいい。

それほどまでにCIAの価値は下がってしまった。

キッシンジャー外交から締め出されたCIA
アフガンでマスードに笑われるCIA
そのアフガンにいたビンラディンに攻撃され、9・11を防げなかったCIA
イラン革命を予想できなかったCIA
冷戦の崩壊を予想できなかったCIA
虐殺を防げなかったCIA

有能な人ほど去って行ったCIA。

ひとつの組織の崩壊の過程が丹念に描かれている。

ただし、筆者は諜報組織の重要性を語っている。
あたり前だ。
彼はCIAの広報やCIA歴史記述家の協力をえて、さらにCIA幹部(それには何人もの歴代の長官や秘密工作本部長も含まれる)とインタビューしているのだ。

彼がCIAを叩きつぶしたいだけの正義感を気取ったジャーナリストなら、だれもこんなに協力するわけがないのだ。

誰もがCIAに問題があることを認めているから、成立した本なのだ。

だから本書を読むと、驚くほど党派色がない。
ニューヨーク・タイムズの記者だからといって、民主党やリベラル派をたたえたりしない。クリントンだろうが、ケネディだろうが、容赦なくCIAをうまく使えなかった、あるいは異様なほどののめりこんだ様子をあぶりだしている。

本書は歴代の幹部、局員、大統領、政権の幹部たちがなにをしようとしたか、その能力はあったのか、を書いている。
多くは失敗している。しかし「CIAを立て直そうとした」行為を軽んじたりはしていない。それらの多くは穴だらけだった。だから失敗した。だけどそれを批判したりはしない。

誰がやったとしても、うまくいくわけがないことを著者自身わかっているからだ。

著者はそして議会に対しても容赦しなかった。
議会がCIAを監視すること、調査すること、それもまた無能だった、としている。
とくに「国民を監視する」という非合法行為を議会は9・11後に、CIAに許可した。
CIAが「国民を監視する」ことは合法的な行為になったのである。

冷戦、核戦争が脅威の時代ですら民主主義国家ではそれは許されない行為だったのに!!

著者は呆気にとられたのではないかと思う。
議員は国民から選ばれたはずである。それは国民への裏切り行為ではないか?
それとも国民が自分自身がCIAに監視されることを望んでいるのだろうか?

違う。
きっと国民の多くは自分には関係ないと思っているのだ。
監視されるのはアラブ系の人々、イスラムの人々、外国人だと。
自分は関係ないはずだ、と。

「秘密工作のために一般人を犠牲にしていいのだろうか」
YESと応える人間は当事者じゃないからだ。
自分や自分の大切な人が犠牲になったら、ふつうは言えない。

「秘密工作をすれば、相手も秘密工作をしてくる、それでもいいか?」
…どうする?
日本が北朝鮮の拉致を徹底的に糾弾できるのは、日本が北朝鮮の人間を拉致するような真似はしていないからだ(救出を拉致だというやつがいるかもしれないが、そーいうやつはとりあえず消えろ)。

だが、日本が北朝鮮に秘密工作をすれば、敵である北朝鮮の秘密工作批判はできなくなる。

これはとてつもないジレンマだ。
拉致被害者を外交で救えないのなら、戦争か秘密工作しかない。
できるだろうか?

その前に、残念なことがある。
少なくとも、アメリカのCIAには他国の言葉を流暢にしゃべれる、他国に侵入してスパイと気付かれないで、長期の諜報活動ができる局員はほとんどいないということだ。

他国で、秘密のベールに包まれた国で何が起きているのか、知りようがない。

…もっとも、私たち日本人はもうとっくに気づいている。
アメリカは、CIAは、北朝鮮にスパイを潜り込ませてなどいない。
アメリカの対応を見ればそんなのわかりきっている。

中国や韓国だってスパイをどの程度潜り込ませているのか、わかったもんじゃない。

経済情報に限っていえば、著者はCIAが日本のJETROより劣る組織だと言っている。

CIAの伝説はもうない。

さらにいえば、最近はイギリスのMI6もUSB端末?をなくして、敵のふところにいる協力者たちの名前をどっかに盗まれてしまったそうだ。

CIAは自分たちの無能さによって、たくさんの協力者を失い、工作員を侵入させては、敵に殺されてきた。

MI6、おまえもか。

ああ、だけど、そうか、我が自衛隊も何度も情報を漏えいさせていますね。
日本の公安はどうだろう?ネット上にはたくさんの情報がある。しかし、大きな失敗があるようには思えない。実はうまくいっているのだろうか?それとも大した仕事をしていないから大したミスもないで済んでいるのか?

しかし、なんにせよ公安も自衛隊も対外諜報機関ではない。
だから作れ、という人々がいる。

完璧な諜報機関をつくることはできない。
なら、私たち民主主義国家は何点の諜報機関ならつくれるのだろうか?

90点?
80点?
本当に?

50点
40点
30点

5点
0点

…だけど、作らなければパールハーバーや9・11が起きるのだ。
そして程度の低い諜報機関であれば、失敗を生み出し、将来敵になるものたちへ武器をわたし、一般人を殺す虐殺者へ力を貸すことになる。

情報や分析が間違っていれば、国の道が誤り、泥沼へと導く。

ベトナム、イラク、アフガニスタンのように。

CIA秘録 下
ティム・ワイナー
文藝春秋

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1 コメント

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Unknown (KC)
2009-06-06 12:40:34
と、まぁ表に出てる話だけで勝手に語ればそんなもんだろう諜報機関
ソ連解体で西側メディアが大挙押し寄せたKGBの資料庫ぐらいの知られざる功績が実際はありまくろう
CIAがどうだろうがはどうでもいい
日本はKCIAに手痛い目に合わされてるからそっちが大事
他国の要人を堂々と拉致られるとはな、と
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