「本日も読書」

読書と映画の感想。ジャンル無関係、コミック多いけどたまに活字も。

ある文人代官の幕末日記―林鶴梁の日常

2012年07月28日 | book
日記には面白いものと面白くないものがある、といった
話は前に少ししたが、貧乏同心から代官にまでなった男の日記となれば
ちょっとは興味がわくというもの。

しかも時代は幕末。
ペリー来航、桜田門外の変といった激動の時代に
下級役人として、仕事に、家事に、と必死に頑張った武士の日記を解説した本だ。

磯田先生の「武士の家計簿」が好きだった人は面白く読める。
実際、面白くて立ち読みして買ってさっき読み終えてしまったw

なんといっても公私の話が混ざっているので
本音が透けて見えるのがいい。
そしてこの林鶴梁という人はとっても勉強家の善人なのですね。
だから読んでいて安心していられるというか。

林鶴梁は貧乏ながらも仕事を誠実にこなす武士だ。
学問もきっちりしている。
ただし武芸はさっぱり。
また堅物なのか、と思いきや、野心や自分の手柄を
自画自賛していたりと、人間っぽさがにじみでるw

ちょっと天然っぽいというか真面目は真面目なんだけど
愛嬌のある真面目さが感じられるんだけど。
なんか可愛いなこの人って思ってしまったw

ともかく幕末近い時期に彼はその才能のおかげで貧乏ながらも
少しずつ出世をしていく。
いきなり冒頭で左遷されたり、奥さんを亡くしたりして
まだ小さな子供たちがいるし、給料も安く借金ばかりだけども
なんとかやりくりして、新しい奥さんももらって(だけど家出されちゃうんだけどw)
少しずつ少しずつね。

彼が交友している人は同僚だけでなく、だんだんと水戸藩の尊王攘夷派や
幕臣、他藩の優秀な人物たち、さらには藩主と広がっていく。

仕事では民衆との関わりをしっかり行って、
賄賂は断り、代官となっても民衆のためになる善政を敷く。

大きな困難となる東南海の大地震や大洪水では、率先して
対策を行い、現場の判断で動く。

盗賊対策、ペリー来航への対応、さらには廃鉱になりかけた銅山の復活

本書でも言われているように、ひとつひとつは小さなことで、幕末の
大きな出来事の中では些末なイベントなのかもしれない。
だけど幕府という政府が機能不全を起こしていたときに、こういう
下級役人が現場で頑張っていた、ということは救いにもなるし、痛快でもある。

もっとも安政の大獄前後の日記が消えていたり、
その後の日記に処罰された人々の名が消えたりと
時代の影を強く感じる部分もあり、下級役人であっても
本当にひとつ間違えば死という時代だったことがわかる。

この林鶴梁という人は、尊王攘夷の考えを持っていたらしいのだが、
日記には外国への興味関心がうかがわれる面もあって、
決して偏狭な原理主義的な攘夷派ではない。

むしろ毎日の仕事に忙殺され、理想は理想としてもっているけども、
現実と向き合っている、そんな妥協や日和見もある。
だけどそういう人こそ人間らしく、また英雄ではないけど激動の時代を
生きた、一本筋をもった人、というのがよくわかる。

彼の教え子や周りの人には明治政府で出世している人もいるけども、
彼は幕府が無くなると仕官を断り隠居して過ごしたそうな。

こういう人こそ尊敬されるべき人のあり方かな、と思います。

ある文人代官の幕末日記―林鶴梁の日常 (歴史文化ライブラリー)
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吉川弘文館

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