※前回の柏の記事はこちら(19節・千葉戦)
今年も夏を迎え移籍市場が解禁。
上位を目指すクラブだけで無く、降格危機に陥っているクラブも急場を凌ぐため積極的に補強に動く時期です。
前節終了時点で最下位(22位)の岐阜は、甲府で浮いた存在になっていたジュニオール・バホスはじめ松本から塚川・大分から馬場をレンタルで獲得。
一つ上の21位の福岡も、柏から村田・新潟から加藤・町田から山田と、戦力を集めるのに躍起になっています。(必死になりすぎてペドロ・ジュニオールと仮契約も問題発覚で契約解除という笑いの種を提供してしまったのですが)
そして20位の栃木、同じJ2のクラブから乾(横浜FCからレンタル)・瀬川和樹(前山口)を獲得しただけに留まらず、ドイツ下部リーグ(4部)で修行中の身であった三宅の完全移籍での獲得に成功しました。
この日早速3人ともスタメンに並べ、また韓国リーグからキムヒョンも獲得しベンチ入りさせるなど、劇薬ともいえる起用法を見せた田坂和昭監督。(三宅とキムヒョンは前節スタメン出場)
相手は首位グループという、はるか上の順位に居る柏。
それでも相手が強豪だろうと何だろうと、残留のためには1でも勝ち点を積み上げなければならない立場の栃木。
その思いが早速実り、前半2分に早くも先制します。
三宅のクロスで早々にコーナーキックを奪うと、そのこぼれ球で枝村が柏・瀬川祐輔に倒され反則、次はゴール正面からの距離のあるフリーキックに。
キッカーの西谷和希がエリア内に入れ、FWの大ベテラン・大黒がスライディングシュート。GK中村にセーブされ、右側に弾かれたボールを森下が折り返し。
大黒が倒れたままボールを左へ流し、そこに走り込んでいた乾が蹴り込んでゴール。
何が何でも先制するという泥臭さ溢れる先制点でした。
2009年にJ2参入を果たしたものの、2015年にJ2最下位となってしまいJ3降格が決定。その2年後ギリギリながら昇格を決め、再びJ2の舞台に立っているのが栃木。
現在J1に居る大分(栃木と一緒に降格・21位で入れ替え戦敗北)と共に、J3から戻る事に成功した数少ないクラブです。
前年は常に二桁順位ながら、残留争いからは一段上の位置で高みの見物をしていたという印象で17位でシーズンを終えました。
大ベテランのストライカー・大黒が加入したのがこの年で、3年ぶりに故障の無いシーズンを送り40試合12得点でチームに貢献しました。
今季もワントップで開幕から起用されており老いてなお盛ん、という言葉が真っ先に浮かび上がりますが、故障で15節~19節と欠場してしまい得点も5と伸びず。
栃木の戦術は一貫してカウンターに徹しているという印象で、ボール支配率・パス数では相手に大差を着けられるのは日常茶飯事。
前半の柏との対戦(9節)ではまさにそんな試合運びで、シュート数も7対20と圧倒されながらゴールを割らせず、スコアレスドローに持ち込みました。
そしてこの日は開始早々に得点を挙げ、後は柏の攻撃を凌ぎつつロングボール主体のカウンター攻撃に徹すれば勝利は見えてくる……そんなプランが感じ取れる序盤の試合内容。
ただ誤算だったのは、柏はそんな栃木の戦いに嵌り込むでも無く、とことん付き合ってやるという気概が見えていた事でしょう。
こうした栃木の狙いに対し、ボールを繋ぐ事で反撃するのでは無く、割り切ってFWのオルンガ目掛けたロングボール攻撃を多用します。
柏が仕掛けるであろうパスワークに対応すべくコンパクトな守備ブロックを採っていた栃木、虚を突かれた感を露呈してしまったのが前半17分でした。
センターバック染谷からの何度目かになるロングフィード、これに栃木のセンターバック藤原が先んじて対処しますが、後ろを追尾して迫ってきたオルンガを目の前にまさかの対応ミス。
オルンガに奪われたボールはGKユヒョンの目前でシュートされ、痛すぎる同点ゴールを奪われてしまいました。
その後の栃木の攻撃は、一辺倒では無いもののやはりロングボールが多く。
サイド攻撃を仕掛けても、エリア手前の位置での早めのクロスが目立ち、アバウトな印象が強かったです。
その副産物としてコーナーキックを多く得たものの、チャンスをものにする事は無く。
キッカーに西谷和・三宅の2人を置くという工夫はあっても、クロスの質の工夫は無かったという感想を抱いてしまいました。
一方の柏も、パス回しはするものの過度のポゼッションは見せず、ロングボールやDFの裏狙いを続けていきます。
そんな感じで1-1のまま前半終了。
そして後半開始直後(2分)でした。
柏の左サイドバック・古賀がドリブルで持ち上がり江坂にパス。
栃木・乾に阻まれたボールがクリスティアーノの下に転がり、拾ったクリスティアーノはエリア手前左からミドルシュート。
これがリフレクションとなったのかGKユヒョンは反応する事が出来ず、ゴール左に綺麗に突き刺さりました。
その1分後にも、似たような位置でクリスティアーノが再びミドルシュートを放つ(GKユヒョンが抑える)などエンジンがかかってきた柏。
前半と違ってオルンガ狙い一辺倒では無く、彼と江坂を主としたポストプレイを交えつつ攻めを展開します。
リードを奪えたのもあるでしょうが、最初にロングボールを相手に意識させ、そこからの勝負というプランを立てていた節が窺えました。
それとは別に栃木県グリーンスタジアムの芝のコンディションの悪さという要素を考慮したのかもしれませんが
実力的には完全に上回りながら、自分たちのサッカーを貫くのでも無く、相手・状況に合わせた戦略・戦術で最終的に勝利する。
そんな奥行きの深い戦いが傍らから見て感じ取れ、ここら辺は今季監督に復帰したネルシーニョ氏の本領発揮といえるでしょう。
チームに一本芯を通すのとは逆をいく方法ながら、(J2内で)戦力的に最上位のクラブではそんなやり方が合っているのだと思われます。
かつて自身が指揮を執った、J最強と言われたヴェルディのように。
さて試合の方は、後半18分に栃木が枝村→キムヒョンへの交代を敢行。
キムヒョンには大黒とツートップを組ませ、全体も3-4-2-1から4-4-2にチェンジ。そこから攻撃のペースを掴み始めます。
21分、GKユヒョンからのロングフィードをキムヒョンが頭で落とし、拾った西谷和がエリア内左にドリブルで進入。
そこからクロスが上がり、逆サイドに流れたボールを浜下が拾って再びクロス、これを大黒がヘディングシュートを枠に飛ばしますがGK・中村が片手でファインセーブ。
26分には三宅が右へのサイドチェンジを受けた浜下がクロス、大黒がボレーで合わせにいくも直前で柏・鎌田のパスカットに遭いシュートならず。
30分には大黒が中盤でポストプレイ、受けた瀬川和が左サイドをドリブルで敵陣に進入、そこから右サイドへと順にパス回し。
ボールは右の浜下に回り、ヘニキとのパス交換からクロスを上げると、中でキムヒョンがヘディングシュート。(左に外れる)
良い形を作っていきますがゴールは奪えず。
柏側も何度か良い形を作るものの、最後のフィニッシュの所でシュートが当たり損ねという場面が目立ち追加点は取れず。(特に24分のオルンガのボレー、28分の裏に抜けた江坂のボレーのどちらかは決めたかったはず)
試合も終盤に差し掛かり、柏は田中→田上に交代するとともに5バック(表向きは3-4-2-1)にシフト。
上記のシュートミスもあり、もはや追加点は取りづらいと悟ったかのような開き直ったベンチワークで守りを固めます。
最後の栃木の放り込み戦術も守り切り、逃げ切って勝利した柏。
首位・京都と勝ち点で並ぶ状態を今節も維持、以降もプレッシャーをかけ続けいずれは首位の座を奪いたい所でしょう。
一方の栃木は、福岡が引き分けで勝ち点1を取ったため21位に転落。
途中から2トップにシフトしたように補強によって選択肢は増えてきましたが、今週は水曜にも試合が待っている過密日程。
新戦力を含めた戦術を落とし込む時間はあるのか、大黒に無理をさせられない時はどうするのかと、厳しい戦いは続きそうです。